芋焼酎醸造
前回のあらすじ
ドラゴン学院は留学生と副担任を迎え、本格的に軌道にのってきました。
※各節の補足
・双魚節(3月)
新しい港町や村も安定しつつあるので、そろそろ防衛は、自治に任せようかと相談していた。
それでカルカンのいる港町へ、ルクル&ガトーと迎えに行く事になったんだ。
季節は双魚節に近くなったからか、久しぶりに会ったカルカンはソワソワとしていたんよね。
「ルクル氏、焼酎とウイスキーの件はどうなってますかにゃ?」
「一応、進めてはいるけどー?」
「私の誕生節のプレゼントは、それらの新しいお酒がいいのにゃ!」
早速、カルカンからのおねだりが来たから、僕はニヤケながらツッコミにいったよ。
「お酒ばかり飲んでたら、トスィーテちゃんに怒られるよ?」
「そ、そんな事ないのにゃ、大丈夫にゃ……」
「Hey!ガトー!モノマネCome on!」
「お兄ちゃん!太ったからお酒抜きの系にゃん!」
カルカンが愕然とした感じでorz体制になった。
「トスィーテのモノマネを、その渋い声でやるのはヤメルのにゃ……犯罪にゃ……」
「む?吾輩、渾身の裏声だぞにゃん?」
「トスィーテに聞かれたらヤバいのにゃ」
「「それは怖いにゃん」」
ルクルがパンパンと手を叩いた。
「ハイハイー、そこのお笑いトリオは漫才をほどほどにねー。取りあえず王都に撤収ー」
「「トリオじゃないにゃん」」
「あぁ~、ヤメて下さいにゃー」
ホバーバイクで港町から王都に移動だ。
まだ道路整備に関してはセトチ村までしかできていない。地均しは既に僕とガトーがブラック労働で終わらせている。
シオトベ村との中間地点には巨大倉庫を配置していて、作業員の宿舎となっているんだ。
最初の3つの村の中間地点にそれぞれ置いてある倉庫は、既に宿舎の役目を終えてスーパーマーケットとして生まれ変わっているよ。
とはいえ、食料や衣類を無人販売しているだけの状態。ホバーバイクがもっと普及して、村の行き来が気楽に行えるようになったら、本格的に稼働予定だよ。
でも、少しずつ住居を構えるようになってきた。
「所で、ルクルルクル。輸送の件どうなってるん?」
「んー、カルカン君が戻ってこないと止まったままだよー。青のマナ鉱石で冷蔵は出来てるけどさー」
「帰ったら早速開発にとりかかるにゃ!」
僕が港町からの海産物輸送の件を尋ねたんだけども、ガトーは明らかに不機嫌になったな。
「磯臭いのを輸送するよりも、あの煙臭い汽車ってやつをホバーバスにさっさと置き換えろにゃん!」
「そっちも並行で進めてるよー、だけどさー、どっかのドラゴンが探索業務をエタってるからねー」
「エタってるとか言うなや!全くもって心外だよ!僕、頑張ってるんだけど!?でも、銀は見つからないんだよ!」
あれから、ガトーも赤を見つけてきたんだ。
だから宿題のマナ鉱石は、僕だけが終わっていない……でも、よくよく考えたら見つける難易度は銀が一番難しいってのを、皆は知らないんだよ?
「銀は必ず地中にいるから、見つけるの大変なんだ!伝心もオフだしさ!しかもアイツ動かないし?」
「んー?ほんとにー?ガトーどうなん?」
「そうだな……ま、銀は動かないし地中にいるのは確かだにゃん。だが、探しようはあるぞにゃん?」
ガトーが得意げに銀の探し方を語りだした。
余計な事を言うと、僕がサボっているみたいになるからヤメれ!
「山じゃない陸地で、地中のマナが流れてるのー?」
「そうだぞにゃん。お前の世界だと地脈とか龍脈とか呼ばれてるポイントが、集約してるとこだぞにゃん」
「ルクル氏!それなら心当たりがあるにゃ!」
えっ!?カルカン心当たりあるの?ヤダ……僕の探索レベル低すぎ!じゃなくて先に教えてよ!
そんなやり取りをしていたら、あっという間に僕の部屋まで到着したよ。
(ハイハイ。分かってますよ。濡れればいいんでしょ?)
「シュコー!シュコーー!」
リッツがハーブティーを持ってきてくれた。セトチ村の近辺はハーブが豊富で、最近は色んなハーブティーが楽しめるんだ。食器も港町にやってくる商船団から購入して、結構色んなのが揃ってきたんだよ。
「あ~、濡れて冷えきった体に染みわたるなぁ。このハーブティーはなんか変わった味だね?」
「スースーするにゃ!なんにゃーこれ?」
「これ!コリアンダーじゃない!?」
ルクルが興奮して騒ぎ始めたって事はビール関連?それにしても、興奮して陶器の食器割らないでよね?
ルクルは無視して、さっきの件をカルカンに尋ねる。
「ね、カルカン。銀の心当たりって?どこ?」
「物件下見でモナリーガ王国にいった時に、マナの流れが地中で集約されてる所が見えたにゃ!」
「む?地中だから見えるわけないぞにゃん?」
ガトーは知らなかったっけ?普段はカルカンの事なんか話題にしないしなぁ……小首傾げて不思議そうにしているガトーの見た目は可愛いけど。
「カルカン、マナ心眼って地中まで見通せるん?」
「勿論にゃ。温泉掘り当てたのも青マナと赤マナを、地中で多く見える所ですにゃ!」
「マナ心眼ってなんだにゃん?」
事情を知らない系の猫魔族女子に、説明したったよ。そしたら、ほんとかどうか疑わしいとガトーが言い出して、ガトーの拘束する気流で見えているか試す事になった。
「ではいくぞにゃん!」
「ちょうどいい運動にゃ!いつでもOKにゃ!」
うわっ、めっちゃ細かいマナ乱舞だなぁ。ガトーってば大人げない……ってカルカンかわせるんかい!?
カルカンは最小限のステップで気流の風を避けていた。要所で緑のガントレットを使って受けたり、払ったりしていて、なんか凄い。
小並感の感想で申し訳ない……でも、僕の表現力だとこれが限界なんだもん。
「おい!マナ心眼って凄いにゃん!吾輩の意識の予備動作まで見えてないと、その動きは無理だにゃん!」
「そうなのにゃ?私の父も普通にやってた事だから、戦闘で必須の動きと思ってたにゃ」
「シュコー!シュコー!シュコー!」
観戦していたリッツは、カルカンの動きに大興奮だった。
「よし、カルカン。僕と一緒に銀を探そう」
「ワールドン様、了解にゃ!」
「いんやー、カルカン君には開発やってもらう必要あるからねー」
(む?)
トリップ状態から復活したルクルが仕切り出したけど、僕はニコリと笑みを含めて反論する。
「開発も大事だけど、銀のマナ鉱石が無いと厳しいんでしょ?ここは僕のお手伝いをだね……」
「んー、ジャックさんー。例のブツを持ってきてー」
「例のブツってなんだにゃん?」
部屋にいなかったのに、なんでジャックが近くに控えているの分かったの?ってかジャックはエリーゼの従者だよ?勝手に使わないで。なんか嫌な予感……
(カルカンがクンクンしだした!これは!?)
「ルクル様、焼酎飲み比べセットと海鮮詰め合わせセットをお持ちしました」
や、やられた。これ予定調和だ!
絶対、トラップを用意して待ち構えていたんだよ!
「カ、カルカン!これは罠!ブラック確定だよ!」
「ブラックでもいいのにゃー!ぷしゅる~うまー!」
(あーーー、もう飲んでる。15秒も持たなかった!)
「お、これ旨いにゃん!吾輩は麦がいいぞにゃん!」
「ガトー様!これは私のにゃ!勝手に飲まないで下さいませにゃ!ダメなのにゃ!」
「お兄ちゃん!磯臭いから寄らないでにゃん!」
「マジやめるにゃーー!トスィーテ汚すにゃにゃー」
猫魔族2匹が焼酎を取り合って痴話喧嘩している。とってもシュール。んでもって、ルクルが勝ち誇った笑みを浮かべている。
「誕生節のお祝いにたっぷり用意するよー。それからポポロが仕入れたサトウキビで作った酒もあるよー」
「ルクル氏はマジで神様にゃー。お酒の神にゃ!」
「サトウキビのお酒も楽しみだにゃん!」
そっからは完全に飲んだくれのおっさんずだった。
僕が、幾ら勧誘しても聞く耳持ってくれない。そもそも、ルクルがカルカンを引き取りに来た時点で、罠の存在に気づくべきだった。引き取り時期も、行先も決めているからやりたい放題だ。
「猫魔族の国にも、お酒のレシピと酵母を譲るよー。それでさー、来年までにリニアを作りたいんよー」
「全力でやりますにゃ!気合いですにゃ!うぃっく」
カルカンは酔っていて、もう正常な判断ができない。エリーゼのモノマネまでして……ん?エリーゼ?
「エリーゼ!僕を助けて!」
僕は思いっきり叫んだ。エリーゼがどこにいるのかは知らない。でも来てくれる。そんな気がした。
「びっくりさせんなよー、ワドー。エリーゼ様は今日はポロッサ村で外務大臣として接客してるからなー」
「ガハハ、さすがにポロッサ村までは声聞こえるわけがないぞにゃん?ワドも諦めて飲むにゃん?」
ガトーがグラスを差し出して誘ってきたけど、僕は受け取らずにニヤリと笑った。
「ガトー、それフラグっぽいー。俺、嫌な予感してきたよー。頭が痛いから帰っていいかなー?」
「フラグとはなんだにゃん?吾輩変な事言ったか?」
「ぷしゅる~!ポロッサ村なら来るわけないのにゃ」
「あ、カルカン君、さらにフラグ立てるなよー!」
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30分後。
……ドドドドドドドドド!
「どうやら、僕の勝ちのようだね?(ドヤァ)」
「ちょっ……なんでガッシリ捕まえてんのワドー?俺は頭が痛いから帰るんだ。ジャックさん助けてー」
「……ルクル様、無理です」
僕はルクルが逃げない様に、ガッチリホールドした。諦めたのか無の境地になっていたね。
「お呼びですか!?ワールドン様!」
「「聴力どんだけー、マジ引くにゃー!」」
「そこのフラグ立てた猫たちー!責任とってー!」
これまでのハラスメント行為を聞いたエリーゼが、ルクルに一日鑑賞会の刑に処す通達をしていた。
執行対象のルクルは抵抗を諦めて観念したよ。
(ぷぷぷ、ざまぁw)
ついでに、カルカンのレンタルもエリーゼから説得させようとしたら、逆に僕が「ワールドン様!そんな事よりも社交界ですわ!」と諭された。
銀の最高品質のマナ鉱石が「そんな事」扱いだよ。
あんまり芋焼酎が前面に出てませんね……。
結果的に米、麦、芋の全てを作ってます。
カルカンの好みは芋です。
次回は「社交界の準備」です。




