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ドラゴンの人生探求  作者: 元毛玉
ドラゴン学院

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閑話:手痛い逆襲

前回のあらすじ

ワールドン王国が建国される直前の出会いから、偽装兵を使っての国境紛争、その後に国境付近の港町や村を奪われるまでを、カービル帝国の将軍がどう見ていたのか?

ep.「ドラゴン建国する」~ ep.「周辺村の取り込み」までのヤオシーサ・ドウエン視点となります。

 我はカービル帝国の四天王の1人、ドウエンだ。


 ワールドンと名乗る自称神が、勝手に我が国の領土を接収すると不愉快にも言ってきた。

 大陸の西側は我の管轄であり、そこで好き勝手するという相手を野放しには出来ない。


「メコソン兵士長、あれは本当に神なのか?」

「はい、間違いないかと」


 どうにも信用できなかった。

 エターナルドラゴンは巨大な竜のはずであり、あんな小娘であるはずが無い。だが、勝手にポロッサを接収すると言っているだけだ、認めなければ問題無いだろうと考えていた。

 ……しかし、それは甘かったようだ。


(神託……だ……と?神とは本当だったのか?)


 我だけでなく、部下や他の者も同じ内容の神託を受け取っている上、その内容にはポロッサ村の風景もある。このままではマズイ。

 我は、皇帝陛下から呼び出され帝都に来ていた。


「ドウエン将軍、これはどういった事か?」

「ハッ、陛下。神であるワールドンに正面から反抗するのは、ザグエリの二の舞いです」

「では、正面で無い策があると申すか?」

「流石です、陛下。内部から崩して見せます」


 陛下は、少し不服そうに顔を歪める。


「カービルからのちょっかいとバレないように細心の注意を払えよ?」

「はい。勿論です陛下。後日、仔細を書面にてご報告させて頂きます」


 なんとか首の皮一枚繋がった。奸計は望む所だ。

 早速、スパイ候補の選定に入る。


(あの時、紹介してきた……メコソンだったか?)


 ワールドンと繫がりを持っているメコソンを、スパイに仕立てる為に家族を押さえた。

 家族の命を盾にした所、簡単にメコソンは折れて、ワールドン王国行きを決めた。


「フフフ、家族の為だ。精々頑張ってくれ」

「……はい、頑張ります。ドウエン将軍」


 それから、暫くは噂を流させていた。

 建国祭の時には、上手くザグエリ側の民衆を扇動できそうだったが、思った以上に腰抜けが多いのか、行動には移さなかったようだ。


(小さな村だから、保守的な思想が多いのか?)


 少し方針転換が必要だろう。

 ザグエリ民衆の扇動を一旦諦めて、情報収集に専念させる。その間に、賞金ハンターなどをかき集め、並行してメイジー側の協力者も用意するべく動く。


(しかし、間諜対策はザルだな)


 神が興した国とはいえ……いや、だからこそなのか?

 間諜には全く対策していないようで、内情が面白いように抜き取れる。


(ホリターの問題令嬢と、青二才か)


 ホリターの問題令嬢は、噂通りなら間諜とは縁が無いだろう。アルフォートというガキは成人もまだの上、前大公から見限られた存在だ。それ以外は平民だから、歯牙にもかからない。


(ワールドン以外の戦力が、未知数なのは痛いな)


 ワールドンは危険であり、ザグエリに放っているスパイからの情報でも王都の被害は甚大だ。それを一瞬で行って、一瞬で癒やしたと言う。どうやら、神としての力は本物らしい。


(青臭い理想を、掲げてるのが救いか)


 ワールドンは、やたらと民衆寄りだとメコソンから報告があがっているうえ、多方面からの調査結果でも、その結論が出ている。つまりは、本人をどうこうするよりも、他の民衆を危険に晒して揺さぶる方が効果を見込める。だが、他の戦力が未知数なのがネックになっていた。

 有効な手立てが打てないまま、年を越す。

 ……そして事態は急変する。


(ストロー宰相……狂ったか?)


 ストローは、各国で支離滅裂な情報を流し始めた。

 どう考えても正気ではない。ホリター公爵家の秘薬と、ワールドンの力で人格を分裂させる事が出来るらしい。問題令嬢が、二重人格になった噂は聞いている。まさか、意図的に作り出された人格だとは思わなかった。

 この問題は、民衆が世論が、ストローの妄言を信じている事だ。兵の大半がストローの言葉を信じてしまっているのは、全くの予想外で頭が痛い。当面は身動きが取りづらくなってしまった。

 ……だが、そこで転機が訪れる。

 メコソンから届いた情報がそれだ。


《国民総出のマラソンイベント有り》


(この【マラソン】とはなんだ?)


 しかし、国民総出とはかなりの重要イベントと思われるため、マラソンの詳細、それから警備体制などを詳しく問い合わせた。

 どうやら娯楽の競技のようであり、警備はつくが、それも最低限のようである。

 しかも、我が帝国とザグエリだけを警戒していて、メイジー側はほとんど無い程の手薄な警備だった。


(ふむ、メイジーが敵じゃないと油断しているな)


 この数ヶ月間で、我はメイジー王国のモンアードと手を組んでいる。奴も、ワールドン王国へスパイを送っていた。その情報と照らし合わせても、メコソンが有能なのは明白だろう。

 モンアードと連携を取って、用意した傭兵と賞金ハンターの混成部隊を作る。装備品は、ザグエリに忍ばせているスパイから横流しさせたザグエリ騎士団の物だ。


(全部で256人か……ふむ。割とかき集めたな)


 半分くらいはモンアードが集めた賞金ハンターとなっているが、我が精鋭も6名送り込んでいる。

 別途、戦況の確認部隊も用意していた。


(最低、3日は持って欲しいとこだが)


 メコソンからの情報で「当日とその翌日までは、ワールドンとインビジブルドラゴンが動かない」という情報を掴んでいる。何故かマラソン大会にご執心らしい。

 つまり、神が出てくるまでにどの程度食らいつけるかの試金石だ。

 数と装備は整えてあり、ワールドン王国の総人口より100人以上多い上、装備も正規の騎士団の物だ。単純に考えれば神が出てくるまでは優位に事を運べる。

 ……はずだった。


「なんだあれは!?」


 望遠の魔術具で戦況を見ていると、1人の女が一撃で秒殺した光景が映り、流石に目を疑った。

 地形は大きくくり抜かれたように変形しており、とても人の成せる所業では無い。


「ダメだ。あんな規格外だとは思わなんだ。戦力で対抗するのは無理だ」


(あれが噂の問題令嬢か……とんでもないな。モンアードはアレを始末するつもりなのか?)


 無謀にも程があるし、あの強さは人の枠組みを超えている。

 間諜でハメて、ワールドンの甘い考えから譲歩を引き出すしか無いと悟った。

 数日後。

 証拠のもみ消しに奔走する中で、メコソンから重要な情報がもたらされる。


「モンアードから情報が漏れているだ……と?」


 確かに、メイジー王国側の警備が薄い情報も、賞金ハンターも、行軍ルートも、全てモンアードが用意した物だ。

 しかし、奴のエリーゼ公爵令嬢への恨みは本物に見えた。


(まさか!?ホリター公爵家の秘薬か!?)


 認識をずらす秘薬があると、噂で聞いた事がある。

 別の者への恨みをすり替えている?


(だが何故、公爵令嬢に?)


 あぁ、そうか……こちらを騙すのにそれだけ本気だったと言う訳か。北側で恨みを多く買っている問題令嬢なら、恨みの対象としては自然だ。


(こちらの疑いを減らすのが狙いか?)


 モンアードとホリター大公がグルだったのなら、最初から詰んでいたという訳か。と、なると国境沿いの村や港町は、攻められる可能性が高い。


(エサを撒きつつ、放棄して見せるか……)


 決して戦うべき相手では無いのは確かだ。

 間者を忍ばせて、奪わせるしかあるまい。陛下への説明が大変だが、それしか無かった。


 その数日後、国境沿いの領土は全てワールドン王国に奪われる事になる。

 その責任で帝都に呼ばれ、我は帝都にきていた。

 どうやら、四天王の全員が呼ばれていたようだ。


「ドウエン将軍が遅れを取ったとは、意外じゃなぁ。モンアードにしてやられたのかのぅ?」

「策を凝らしすぎて先制されたのであろう?あの狂人ストローのせいで、今は動きにくいからな」


 最古参の巨体ジジイと、熱っ苦しい女のやり取りに、胡散臭い同期が割って入る。


「エンビカ将軍、ザテト将軍、彼も油断が過ぎたのでしょう。あまり言っては可哀想です」

「……スナツ将軍であれば油断はないと?」

「ええ、貴方のような失態は無いかと……」


 我が苛立ったのと同時に、陛下の入室を兵が伝えてきた。

 不満を腹の底に沈めて、最敬礼で陛下を迎える。


「ドウエン将軍、やられたままではあるまい?今後の策を、余と他の将軍に教えよ」

「はい。畏まりました陛下」



 我は名誉を挽回するべく、練っていた策を語った。



ドウエン将軍が伝心の正しい情報が得られていない理由は、かなり先に発覚します。

帝国内も色々とドロドロしてるのです。

あと、勝手に深読みしてくれていますね。

それだけホリター暗部が謎に包まれているという事です。


次回はサブロワ視点の「閑話:留学と鍛冶工房の約束」です。

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