閑話:朝日と夕日
前回のあらすじ
外務大臣に就任してから誕生節までの激動の約半年間を、全力で駆け抜けたエリーゼの日記です。
ep.「獅子の誕生節」~ ep.「誕生節のおねだり」までのエリーゼ視点となります。
《Dear Elise》
いつもの慣れた書き出しを綴ります。
外務大臣に就任してからは、怒涛の日々でした。もう一人のわたくしの下着をプレゼントした見返りとして、ルクルに、わたくしの外務大臣の秘密特訓を付き合わせます。
(合格点を貰えましたわ!)
ワールドン様は、もう一人のわたくしに許可なくプレゼントするのは良くないと仰りましたけど、お返事を読む限りでは嫌がっていませんわ。
最近は「困るの」と綴られている事が増えました。
ダメな時はしっかりダメと言う方です。ですから、「困る」と言うのは嬉しくて、感情が抑え難くなるのが困る時に使う事を、わたくしは知っていますわ。
(素直では無いのですわ!)
それから、わたくしともう一人のわたくしで、現在勝負中なのです。ワールドン様は偉大な女神様ですから、出来るだけ神々しいアングルでの撮影が望ましいのですわ。
やはり、見上げるアングルが素晴らしいです。
もう一人のわたくしの撮影も、悔しいくらい良く撮れています。
(わたくし、負けませんわ!)
外交回りの途中のお返事に、「リッツから宣戦布告されて困ってる」と綴られていました。
素直になるのが怖くて、困っているだけですわ。
(わたくし、全力で後押ししますわ!)
外回りでは、下町をワールドン様と巡りました。
そこで会ったサブロワという少年は、とても見どころがあります。お兄様へ、来年の留学の打診をするように、お願い申し上げました。もう一人のわたくしにも、褒められましたわ。
お返事に、マイティとリッツの誕生節のお祝いがしたいと綴られていました。サプライズプレゼントをそれぞれが選ぶ提案です。勿論、快諾しましたわ。
わたくしはまだ、リッツの好みがわかりません。
ですので、プレゼントの事を伏せて、直接聞いてみます。
「リッツの今、一番の望みを教えなさい!」
「え?エリーゼお姉ちゃん、いきなりどうしたの?」
「思い付いたのを早くいいなさい!」
「えと……まだ人を辞めたく無いかな」
「分かりましたわ!全力ですわ!」
わたくし、リッツが人でいられる案をルクルに伺いました。縫製が得意な人に頼んでくれる所まで、請け負ってくれましたわ。これで望みが叶えられます。
もう一人のわたくしから、マイティが弟に恋をしていると教えて貰いました。愚弟にマイティは勿体無いのですけれど、マイティが望んでいるのなら後押ししますわ。愚弟の色の好みと、マイティの衣装の好みを合わせたドレスです。
(とても良い仕上がりですわ!)
ワールドン様からプレゼントが被らない様に、概要だけ教え合うご提案がありました。
わたくしともう一人のわたくしのプレゼントを教えました。ですけど、ワールドン様のプレゼントが素晴らしくて、思わずおねだりしてしまいました。身に付けるのを来年まで我慢する事を条件に、ブローチを贈っていただけるとの事です!
(嬉しいですわ!)
もう一人のわたくしも眺めて楽しめるように、秘密箱で共有します。わたくし、弾むような心地でお返事を書きました。
もう一人のわたくしから、プレゼントを渡した連絡がありました。わたくしも今日、二人に渡します。
「マイティ、リッツ、いつも従者として頑張ってる二人へプレゼントですわ!」
「ありがとう!エリーゼお姉ちゃん!」
「ありがとうございます、お嬢様」
二人が麻袋からプレゼントを取り出して、驚いていますわ。リッツからは戸惑い気味に質問されました。
「え……と?これは何ですか?」
「それは異世界の防護服ですわ。ルクルが用意してくれました。それを着ていれば、人を辞めずに済みますわ」
「ほんと!?ルクルが……嬉しい」
マイティは高価なドレスに、怖気づいているみたいです。
「お嬢様、とても素敵なドレスですね。こちらお幾らでしたか?」
「値段を気にするよりも、着こなせるかを気にしなさい!」
「そうですね、大切に……大切に着ます」
そして、半日が過ぎた頃にワールドン様がいらして、わたくしにプレゼントの説明を求められます。
もう一人のわたくしの贈り物の説明の過程で、マイティの恋心に触れる必要がありました。
「わたくしも、マイティは喜ぶと思いますわ」
「え?そうなのマイティ?」
「いえ、これは流石に……でもお嬢様の贈り物ですから大事にはします」
「もう一人のわたくしから聞いたのですけど、マイティが好きな殿方はアルフォートでしょう?」
その発言をしてからは、ワールドン様もリッツも興奮し、マイティも珍しく動揺していました。
ワールドン様もマイティの恋を応援してくれるとの事です。これはもう実ったと言っても良いのではありませんか?
それからも、日課の文通を続ける日々の中、もう一人のわたくしから、新年祭が近いので1日入れ替える提案がありました。
(……ダメです、ダメですわ)
このまま普段通りに過ごすと、もう一人のわたくしが新年祭の日です。
この提案はわたくしに新年祭を譲る提案ですわ。これだけは、もう一人のわたくしの提案でも呑めません。
キッパリと、断わりのお返事を書きました。
お返事がきています。
ワールドン様にどちらと過ごしたいかお伺いして、お望みを叶える提案でした。
確かに、わたくし達の気持ちよりもワールドン様のお気持ちが一番大切ですわ。
わたくしは了承のお返事を書きました。
新年祭が目前に迫った日に、マイティから告げられます。
「ワールドン様がご決定なされました」
「どちらです?早く答えるのですわ!」
「両方との事です。午前をお嬢様と、午後をリゼお嬢様と過ごしたいとの御言葉です」
流石はワールドン様です!素晴らしい案ですわ!とても慈悲深いご提案ですわ!
新年の前日に、わたくしが眠らないで年を越して、午後のタイミングで一瞬、眠る事で合意できました。
(ついに年越しの瞬間ですわ!)
「明けましておめでとう御座いますわ!」
「明けましておめでとう、エリーゼ」
「あけおめことよろにゃん!」
「ことよろ、ガトー」
ルクルの前世での新年の挨拶を行います。
【伝心】で見せて頂いた際に、ワールドン様もやってみたいのが明らかでした。わたくしはおねだりをする事でお望みを叶えるのですわ!
(……ほら、とても嬉しそうですわ!)
初日の出というイベントもあるのです。
【神社】という建物が無いので、2年参りはできませんでした。わたくしが、ワールドン様とガトー様の神像にお祈りする提案をしたのですけど、御二人にやんわりと断られてしまいました。
「お、そろそろ初日の出にゃん!晴れて良かったぞにゃん!」
「ワールドン様、ガトー様、湖畔の近くに行きますわ!」
「そだね。行こう。飛ばすよー!」
「吾輩の前を走れると思うなよにゃん!」
3人で初日の出を見て、たくさん記念撮影しましたわ。湖畔で光が反射して、まるで光の中に包まれているような幻想的な光景でした。でも、転写の魔術具では光が抑えられてしまい、あの感動を半分も引き出せていませんわ。
それでも、ワールドン様は自然な笑顔をしていらっしゃいます。それだけで、この映像の価値は充分ですわ。
それからカラオケ大会に参加し、愚弟にコーラスを任せて騎士の歌を歌いました。そして、これらの出来事をお返事に書いてから、ワールドン様に挨拶しに向かいます。
「ワールドン様、本日はわたくしともう一人のわたくしの両方に素敵な時間を頂きありがとうございます」
「うん、楽しめた?」
「はいっ!わたくし御前失礼致しますわ!」
薄れゆく意識の中で、もう一人のわたくしの幸せを願いました。
わたくしは目を覚ますと、真っ先に日記を確認します。だって、もう一人のわたくしは、あんなにも楽しみにしていたのですから。
(なんて事でしょう!)
もう一人のわたくしが、何度も何度もわたくしを頼ろうと考えた事が綴られていました!
こんな事言われたら仕方ありませんわ!
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この景色を見てるのは、僕とリゼの2人だけだよ。
2人きりでも大丈夫。
一緒にいてね。
告白してくれた事が嬉しいよ。
僕も一緒に入るね。
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たくさんの幸せな御言葉が綴られています。
その後も、たくさんガールズトークをした事が弾むような文字で綴られていました。
とても惜しいですわ!これなら大好きを言ってもおかしく無いのに、それだけが残念ですわ!
わたくしは居ても立っても居られなくて、ワールドン様の所に全力で向かいました。
「ワールドン様!惜しいですわ!とても惜しいですわ!もう一声ですわ!」
「な、なんの事?」
「だから言えませんわ!」
(この様子なら、もうすぐですわ。きっともうすぐ)
それから、むうびいの魔術具が素晴らしいのでお借りしました。もう一人のわたくしへ感謝を贈ります。喜んでくれたかしら?
(やりました!ワールドン様がご褒美をくれる事になりましたわ!)
誕生節のお祝いに欲しい映像を聞きました。
そしたら、参考に撮影したポーズが秘密箱に入っていました。そのままお願いしたいけど、ワールドン様にお願いする勇気が出ないと綴られています。
(わたくしが叶えますわ!)
ワールドン様に見せた後のマナ石の処分を、どうするのか尋ねる内容を書きました。
そのお返事に「ルクルにあげたいと言ったら、貴女はどう思う?」と綴られています。
もう一人のわたくしが、恋に積極的になろうとしています。わたくしはそれが嬉しくて、気がついたらルクルにプレゼントしていました。お返事に困るとありましたわ。
(ふふっ。もう一人のわたくしが、恥ずかしがってるのは可愛いです)
まだルクルから、見た感想が得られていないと言うことなので、わたくしが代わりに聞きますわ。
2人で見ながらどこが魅力的かを聞きました。ルクルはずっと顔が真っ赤でしたから、心配して近くで顔を覗き込んだら「これ以上は勘弁してー」と言っていました。これは2回目の鑑賞会が必要ですわ。
マイティ撮影の夕日に照らされる2人が素敵です。
わたくしともう一人のわたくしの目標は、マイティよりも素敵な撮影をする事になりました。
エリーゼの中では、リゼって完全に別人の認識なんですよね。
ルクルの感想を細かく聞いて日記に書いたようで、リゼの方が困惑したらしいです。
ワドは新年の挨拶をおねだりされて仕方ないなぁと思って叶えてあげたつもりですが、エリーゼがおねだりの形で叶えさせてあげたのが実際です。
次回はテトサ視点の「閑話:港町と海産物」です。




