帝国との国境紛争
前回のあらすじ
ワドは子供達からの要望がキッカケで、マラソン大会を思いつきます。
それを国民に強要しましたが、どうも理解が得られませんでした。
そして、どうやら敵襲があったようです。
敵襲はメイジー王国側からやってきた。
「報奨金の300億カロリは俺らのもんだ!」
「国民を手当たり次第にヤッちまえ!」
「若い女は残しとけよ?」
ガトーの力で、超遠距離から声を拾う。
見た覚えがある鎧で、以前、僕の住処に侵入した奴らと同じだった。
僕とガトーは、すぐにルクルと合流する。
「ね、ルクル。彼らはメイジー王国から来たけど、ザグエリ王国騎士団だよね?」
「んー?いんやー、あれはカービル帝国がザグエリ王国を偽装した集団だよー」
「ほほぅ、なんで分かるんだにゃん?」
僕とガトーはルクルに質問を浴びせた。ルクルは頭をガシガシとかきながら答える。
「そりゃー、メコソンさんから情報提供があったからだよー」
「どして?彼はスパイでしょ?」
「なぬ?スパイだったのかにゃん?」
「あー、もうめんどくせーなー。全部説明するから、伝心で読み取りなよー」
僕とガトーは【伝心】でメコソン元兵士長の情報を読み取った。
「二重スパイ……」
「なんかカッコイイから吾輩にも一枚噛ませろにゃん!」
「ガトーは別の専用特務部隊の隊長をやってもらうかなー」
「お!そっちのが吾輩向きだにゃん!」
ガトーがまたも特撮ポーズを決めている。
それにしても、ルクルはガトーのあしらい方が、めちゃ慣れて来ているね。好みとかもう全部が筒抜けな気がするよ。
飴と鞭の、鞭が怖いな。僕も気を付けなきゃ。
「でも、なんでよりによってマラソン大会の日なんだよ!僕、とても楽しみにしてたのに!」
「マラソン大会をしたから、仕掛けて来たんだよー」
「え?」
「どう言う事だにゃん?」
ルクルから、マラソン大会が狙われた経緯を、説明して貰った。理由はこうだ。
・メコソン元兵士長から大会実施を連絡。
・全員参加の理由や警備体制の問い合わせ。
・巻き込まれ回避でダフ村から離れる指示。
「どうしてマラソン大会の情報を流したのさ!」
「そりゃー、メコソンさんがちゃーんとスパイ業務をしてるとカービルに分からせるためさー」
「流さなくてもいいでしょ!?」
あ、今、ルクルが僕の事を鼻で笑ったな!二重スパイなんだから、都合が悪い情報は伏せればいいじゃんか!なんだよ、もう!
ルクルがビッと3本の指を突きつけた。
・1、メコソンさんがスパイとして有益であり『継続利用が望ましい』と思わせる必要がある。
・2、そうしないと、メコソンさんの家族が危険に晒される。
・3、どのみち仕掛けてくるので、タイミングを掴みやすい方が望ましい。
「大まかな理由はそんなとこー」
な、なるほど。家族が人質だったっけ?
人質をさっさと解放しないのはなんで?
しかも、仕掛けてくるって分かっていたの?
僕は矢継ぎ早に質問を投げかけた。ガトーは飽きたのか、ホバーバイクに乗って遊んでいる。
「メコソンさんの身分偽装を続けるためにも、スパイとしての楔の人質は解放できないのー」
「なら、二重スパイをやめてもらって、家族ごと避難してもらおうよ!」
「それじゃ、情報戦で後手引くじゃんー?」
敵なんか大した事は無いんだし、後手を引いて何がダメなのか分かんない。でも、ルクルは情報を大事にしているから、僕の気持ちに寄り添うとは思えない。
「仕掛けてくるのが確定してるから、情報はあったほうがいいのー」
「なんで仕掛けてくるの分かったん!?」
「そんなん、最初からだよー」
「僕、分かんないんだけど?」
僕が説明を求めていると、ガトーから返事があった。ホバーバイクが僕の横にピタリと停まる。
「そんなもん当然だろにゃん?スパイ送りこんだ時点で『ちょっかいかけます』って宣言してるだろにゃん?」
「あーーー!」
「ワドは、マジで分かってなかったんかー」
あーーー!2人から鼻で笑われたよ!
「カービル帝国は、ポロッサ村の接収が不愉快なんだよー。でもさー、表立って敵対はしたくないのよー。ここまでOK?」
「う、うん。大丈夫。分かるよ!」
「ザグエリ王国騎士団の撃退に関しては、騎士団が沈黙を守ってるのねー」
沈黙?なんか分からなくなったぞ?
「なんで沈黙?それが何故カービルに?」
「リゼの秘密強要を覚えてないんー?」
「あーーー!あの『アッーーー!』な卑猥映像!」
「そ、なのでワド以外の戦闘力はバレてないのー」
そもそも戦闘力を測る魔術具が無いから、戦闘力は分かんないんじゃ?
「んで、捨て駒の偽装兵でちょっかいかけて、戦力を測ろうとしてんのー」
「だから、ザグエリ王国騎士団の装備なのか!」
「そゆことー」
んんん?なんでザグエリ王国から侵入じゃなくて、メイジー王国側から侵入なんだろ?
「なんで、メイジー王国側から来たん?説明モトム!」
「警備をわざと薄くしといたのもあるけどさー、実質的にメイジーからしか無理なんー」
「何故だにゃん?それ吾輩もわからにゃん」
ガトーのにゃんスキルが2上昇したにゃん。
「カービルだとバレたく無いから、ザグエリかメイジーになるのはわかるー?」
「さ、流石に僕をバカにし過ぎかな?17歳も怒ると、ドスが効いた声で怖いのよ?」
「ごめんごめん。ストローの噂は覚えてるー?」
どこがどこに攻めるのか、ごちゃついていて僕はあんまり覚えていない。
でも、ここは知ったかで押し切るよ!(ドヤァ)
「勿論!バッチリね!」
「吾輩も分かったぞにゃん!攻め込む情報があるからザグエリとカービルは緊張関係なんだろにゃん?」
「え?」
「そうだよー、ガトーは察しがいいねー」
(僕って、ガトーより察しが悪いの!?ヤダ!僕の偏差値低すぎ!)
ルクルが全体像を説明し始めた。
僕の国は、メイジー、ザグエリ、カービルのみに隣接していて、いずれかの陸路でしか入れない。
僕の強さを調べ上げたカービルとしては、所属を隠し、明確な敵対は避けたい筈。誘導する為、メイジー側だけわざと防衛を手薄にしたと言う。
ストローが各地で撒いた噂のせいで、疑心暗鬼に陥ったザグエリとカービルは、極端な警戒体制に入っている。武装した集団が、ザグエリを経由して攻め入るのは難しいという話だった。
「そういう訳でさー、カービルから大勢でザグエリに入るの無理だしー、ヘタすりゃ戦争なのー」
「あー、それでメイジーしか選択肢ないのか!」
ルクルとガトーが僕に生暖かい目を注いでいる。
ぐぬぬ。カルカンみたいな扱いが屈辱だよ。
「こ、国民に伝えなくていいの!?」
「要らないでしょー?ジャックさんから聞いた情報だと、200~300人程度らしいしー?」
「でもさ……」
ルクルは人差し指を立てて横に振る。
「チッチッチッ。エリーゼ将軍の初陣だよー?敵が何秒持つか賭けようかー」
ルクルが賭けを提案し、ガトーはホバーバイクから降りて本腰を入れている。やる気マンマンだよ。
「いいだろうにゃん。で、一番正解に近かったらご褒美はなんだにゃん?」
「君らが勝ったら、スイーツ食べ放題と1日自由時間を与えるよー」
「お、それは良いにゃん!」
「ちょっと待ったーーー!ルクルが勝ったら?」
ルクルはニヤニヤしながら、優しい口調で語り掛けてくる。絶対にヤバいやつだコレ!
「不足してる最高品質の、マナ鉱石を提供してもらうよー」
「なんだそれなら余裕だにゃん!」
「そだね。それなら大丈夫かなぁ?」
何か嫌な予感がするけど、内容は日常業務の範囲だから問題ない。僕も賭けに参加する事にした。
「僕は3分くらいかなーと、思うかな?」
「吾輩は1分に賭けるぞにゃん!」
「2人ともファイナルアンサー?」
ルクルが黒い笑顔で最終確認をする。
「うん」
「うむにゃん!」
「俺は5秒に賭けるよー」
(ふぁ!?流石に5秒は無理だよ?)
「フハハ!ワド、これは勝ったな。もうスイーツの事を検討しようぜにゃん!」
「ガトー!ダメだよ、そんなフラグ発言したら!ルクルが根拠なくこんな事いわないし」
「む、確かに……にゃん」
「んー、カジノ作るのもいいかもねー。いっぱい儲かりそうだよー」
ルクルが黒い笑顔でご機嫌だ。ヤバい。3分はかからない可能性が高過ぎるよ!
そうして、待ちに待ったエリーゼ将軍の初陣だよ!
「不届き者は万死ですわ!真空衝撃波!」
天地を引き裂くような轟音が鳴り響き、数キロに渡って地形が変わり果てた。まるでそこだけ大地が、巨大なアイスクリームディッシャーでくり抜かれたかの様だった。そして誰も居ない。赤く染まった大地だけが、彼らが居た証拠だ。
「わたくし、ワールドン様の敵は全力で駆除しますわ!天誅ですわ!」
タイムは4.40秒だった。
なんなのあの緑のガントレット?去年と比べ物にならない威力なんですけど?
ほんとに人族?僕らのドラゴン咆哮クラスの威力に迫っているんですけど?
「なんだあれは?人族の強さじゃないぞ?」
「ガトー、驚きのあまりに語尾忘れてるよ?トスィーテちゃんに怒られるよ?」
「あぁ!しまったぞにゃん!」
ガトーは慌てて両手を口に当てていた。
「それにしても凄いガントレットだね?」
「1000倍に引き上げるんだぞにゃん。でも、人の拳圧なんてたかが知れてるだろにゃん?」
「あー、進化もしてるし、白が力を与えたんだって」
「な、なるほどにゃん」
僕も動揺を隠せなかった。正直言って過剰戦力だ。エリーゼならザグエリ王都を全壊させられるね。
そこにニヤニヤしたルクルが、僕らの顔を至近距離で覗き込んで来た。
「お楽しみの所、悪いけどさー、俺が賭けの勝者なんだよねー」
「ん?あぁ最高品質のマナ鉱石だったな……すぐに用意するにゃん」
「ほんとー!助かるよー!じゃあ、赤と青と銀の最高品質のマナ鉱石をよろしくー」
「「な、なんだってー!」」
おどけた素振りで、肩を竦めるルクル。
「俺はさー、不足してる最高品質のマナ鉱石ってちゃーんと言ったよねー?」
「「あ!」」
や、やられた。だからなんか嫌な予感したのにぃ!ガトーが安易に賭けに乗ったのが悪いんだ!僕、悪くない!
「ワドが一番大きく外したから、2種類ねー、ガトーが1種類でよろー」
シクシク……(チラッ)……シクシク……(チラッ)
「そんなあざとい演技じゃダメだよー」
許して貰えなかったよ。
白の力は瞬間的にしか引き出せない為、エリーゼは長距離走より短距離走の方が得意です。
ちなみに50m走なら約0.1秒で走れるので、音が遅れてやってきますよ。
次回は「ドラゴン捜索クエスト」です。




