ペテン師と聖水世界デビュー
前回のあらすじ
コウカちゃんをドラゴン学院に編入させたワド。
懸賞金ハンターに人質にとられてもガトーが対応する事になりました。
そこにストローが慌てた様子で駆けつけてきたようです。
「な、なんだってーにゃん!?」
「うーん、僕的には70点かなぁ?」
「全然ダメだねー、30点かなー」
突然の演技に、ガトーは素で驚いていたな。
ルクルは椅子に逆向きに座り、背もたれを抱きかかえながらリラックスした雰囲気で、のんびりと採点を告げている。
ルクルからすると現状の辛口評価は当然なようだ。
「僕はそこまで悪いと思わなかったけど?」
「ルクル様、どこがダメなんか教えて下さると助かりますわ」
「んーとねー……」
相手の話を聞く事が重要。
それによって興味を引き出していくのが基本だ。
広めたい事があって、それを一方的に発信しても、聞いて貰えない。
人は自分の話を聞いてくれる相手の意見しか聞かない傾向にある。まずは、聞く事が大切。
例えるなら、何度も身の回りの話を聞き……
・「健康があれば解決します」や、
・「お金があれば解決します」等を提示。
それを「簡単に得られる方法がある」のように、話を持っていくとの事。
現在、全く実践できていないストローの演技は、どれだけ上手くても30点止まりだそうだ。
ルクルはそんな理由をのんびりと語っていた。
「ルクルルクル、それって詐欺師じゃないの?」
「んー?立派な商売の話だよー。商売ってのはねー、実際の価値より如何に高く売るかなんだよー?」
「簡単にお金が手に入るのにゃん?お得にゃん!」
(早速、ガトーが毒牙にかかってるんだけど?)
あと、最初は笑顔で話すのが大事。凄い情報だったとしても、最初から真剣な表情だと、身構えさせるからNG。重要な情報の直前か、投下中に表情を変えるべきで、最初は身構えさせない事が重要と云う。
「ねぇ?これってやっぱり詐欺師の手法……」
「あーあー、聞こえませんねー」
要約すると……
相手の話を良く聞き「どのように話すのが、興味を持って貰えるか」を分析する。
興味を惹き、相手から聞く姿勢に持っていく。
笑顔が基本で、重要な所だけ表情を変える。
と、いった感じらしい。
「べ、勉強になりますわ!ルクル様の世論操作が恐ろしいですわ……」
「じゃー、最後の仕上げをみっちり特訓だよー」
(ま、他国が相手なんだから気にしたら負けかな?僕、しーらないっと)
─────────────────────
一週間後。
「ほな、ガトー様。よろしくお願いしますわ」
「うむ、G制御はもう完璧だぞにゃん」
「小型空輸邸、カッコイイなぁ……」
「近くでは、ステルス迷彩をよろしくねー」
「おぅ!任せろにゃん!」
ストローが鬼畜の特訓を修了した。
それと、ガトー専用の小型空輸邸も完成した。迷彩色塗装もされていて、複数のデザイン案から、ガトーが気に入ったのを採用という、まさにガトー専用の空輸邸だった。
小型空輸邸は定員10名、隠密性重視の仕様だ。
(今回、外されちゃった)
僕だと目立つから、運搬はガトーの任務。
ヴェスト達が「な、なんだってー」サクラ要員。
無関係な国の出身から選出されていた。
「吾輩、クライマックスにゃん!」
ガトーが飛び立った。演じる舞台は以下。
・モナリーガ王国。
・メイジー王国。
・カービル帝国。
・ザグエリ王国。
いずれもカービルとザグエリに隣接している国から選出された。
(嘘の力を流すの、ヤだなー)
カービルには「ストロー宰相が竜の力とホリターの秘薬で狂った」と、メコソン元兵士長から情報を流している。
謎の力がある事になり、バレないか不安だ。
「これで戦争は回避できるん?」
「んー?それはストローおじさんの演技力次第な所はあるけどー、時間稼ぎはできるよー」
ストローは各国で別人格を4人分演じるらしい。
エリーゼの二重人格の噂を逆手に取って、多重人格に出来る能力を、僕が使える事になっている。
(勿論、大嘘だよ?)
演技で流す情報はこんな感じ。
───モナリーガに流す情報。
・ザグエリがカービルに攻め込む。
・その1~2ヶ月前にカービルがワールドンに侵攻?
───メイジーに流す情報。
・カービルがザグエリに攻め込む。
・その1~2ヶ月前にザグエリがワールドンに侵攻?
───カービルに流す情報。
・ワールドンがザグエリに攻め込む。
・その1~2ヶ月前にザグエリがカービルに侵攻?
───ザグエリに流す情報。
・ワールドンがカービルに攻め込む。
・その1~2ヶ月前にカービルがザグエリに侵攻?
二つの情報を流す。
【確定情報】と【不確定な噂情報】を同時に。
同時に発信する事で、確定情報の信憑性を相対的に高めるのだとさ。
確定情報の時期に関しては、一切触れていない。
逆に、噂の方は確定情報からの相対時期でしっかりと流す。
(だからハッキリとした時期は何も無いんだよ!)
噂の相対時期は流す度に、少しずらして言う。
前回が1ヶ月なら、次は1ヶ月半と、変えていく。
そうする事で、不確定なのは時期だけと、錯覚していく効果がある。
(変わってくとこだけが、噂だと思い込むんだとさ)
そして各国での情報が、異なり疑心暗鬼になる。
特にカービルとザグエリは、攻め込まれる情報が含まれているから、無意識に防衛へと意識が向く。
どれだけ情報に、信憑性を持たせられるかが課題だけれど、動くに動きづらい状況を、一定期間維持できる可能性が高くなる。
(黄金聖水が、世界デビューしちゃったよ)
黄金聖水も活用。疲労回復薬として試供品と製品販売を行う。ヴェスト達はそれのサクラ役だ。
疲労回復が本物なので、情報の信憑性も上がる。
極めつけは、あの演技指導……
(こんな細かい詐欺の手法を考えるルクル、やっぱりおかしいよ!)
「さ、ガトーがいない間に、ワドの仕事をよろしくねー!カルカン君に協力してー」
「う、分かったよ」
僕はマナ鉱石だけでなく、マナ回路にも光関連の力の提供を求められている。良く言えば提供。悪く言えば抽出物。
でも、映画館やプロジェクションマッピングの為に、僕は協力する。
ルクルは餌で釣るのが上手いから仕方がない。
(これは仕方ない事なんだ!)
という訳で、カルカンの研究室にリゼと二人で来ていた。
「ワールドン様!これ握って下さいにゃ」
「はーい」
「あ、次はこっちをお願いしますにゃ」
「あーい」
「今度はこれに唾液を下さいにゃ」
「ほーい……って、おい!」
「なんですにゃ?」
(コイツ、さらっと唾液搾取しようとしたぞ!)
僕が目の色を変えた反応をしているのに、カルカンは何がイケないのか分からずキョトンとしている。
「カルカン?唾液は何に使うの?」
「回路の導線を漬け込んで、効果あるのかの実験にゃ!黄金聖水だと効果が持続しないのにゃ!」
「なんでそんな事してんの?」
「耐用年数を延ばして、減価償却の償却率を下げるのにゃ」
予算都合で、マナ回路の寿命を延ばしたいとの事。
(それにしても、唾液かぁ……はぁ……)
黄金聖水も嫌だが、こちらも抵抗があり溜め息が漏れる。しかし、仕方が無いので提供した。
提供の瞬間をリゼが撮影し、唾液を見ては物欲しそうな顔で、喉を鳴らしている。
(あ、あげないよ?だ、ダメだからね!)
「ワド、この映像と音声を録画再生できる魔術具の名前はあるの?」
「僕、ネーミングセンス無いよ?」
「でも、ワドの力で実現してるんだから、ワドが名付けるべきだと思うの」
「ワールドン様が名付けるのが良いと思うのにゃ!」
「うーん、うーん、じゃあ『ムービー』の魔術具でどう?」
「『むうびい』の魔術具?ん、覚えたの」
「『むうびい』の魔術具ですにゃ!良い名前にゃ!」
発音が違うけど、2人は納得した。リゼは既に法的に登録手続きを始めている。
(と、止める間が無かったよ……)
後日、形になった事をルクルに報告した。
「なんで変な名前になったんー?」
「僕はムービーの魔術具と言ったよ!」
「まぁいいさー、とりあえず授業で使うようにカール先生に1つ渡してねー」
僕は首を傾げながら質問する。
「あ、これって教育用なんだ?」
「そうだよー、最初はねー。クラッツやポポロにも渡してよー。仕事の手順の教材用にねー」
「娯楽には使わないの?」
ルクルが大きく溜め息をついた。
(な、なんだよ?そんなにガッカリしなくてもいいじゃん!ケチケチしないで教えてよ!)
「まずは教材として浸透させるのー。必需品なら、触れる機会が増えるでしょー?」
「ま、そだね」
「新しいものへの抵抗感を減らして、当たり前の物にすんのさー、それから色んな用途に使うのー」
あって当たり前、使って当たり前の物にする。そうする事で抵抗感を減らしていくのだとさ。
「ん?って事は娯楽以外の特殊な用途にも使うん?」
「…………さぁねー?」
すかさず和ホラーガードされている。絶対に碌でもない使われ方だぞ。
一先ず、講習用として配布し、講習内容を録画して生徒や見習いが見て学習する体制が始まる。それにより講師側の負担が激減した。
暗記系の教材、各仕事の入門動画、ホバーバイクの講習教材、どれも大活躍だった。
そうして学習体制が万全になってきている中、噂の布教活動から戻ってくる予定日になり、僕らは屋外でガトーたちを待っていた。
(お、帰ってきた!)
透明だけど、この巨大なマナはガトーだ。
広い空きスペースへと降りてくるのと同時に、ステルスが解除されていくが、近くにいた人と砂埃は仲良く宙を舞っていた。
風によるあまりの轟音に、皆が耳を塞いでいる。
(凄い風だったなぁ……風速70m/sくらい?)
「吾輩!帰還だぞにゃん!」
「上々の手応えやで!黄金聖水さまさまやで!ホンマ凄いわ!」
土産話を聞くと、黄金聖水の効果が高過ぎて、どこも面白いように嘘を信じたみたい。詐欺師は怖い。別の事で一度信用させてからが本番だとさ。
「モナリーガではステルスが失敗して焦ったけどなんとかなったぞにゃん!」
「何があったん?」
雨が降って、飛行しているガトー周辺だけが歪んで見える状態になったらしい。
風で雲を散らして事なきを得たとの事。
(ま、上手くいって何よりだよ)
ついにストローの俳優デビューです。
信頼を得る小道具に黄金聖水が使われちゃいました。
次回は「ドラ猫レターの宅急便」です。




