お迎えと転校生
前回のあらすじ
リゼと新年祭をすっぽかして二人きりの女子会を楽しんだワド。
それからブラック社畜を量産しているルクルが、あまりに目に余るので文句を言いに行きました。
「落ち着いたらコウカ君に会いにいく約束だろー」
(あー!思い出した。忙しかったからすっかり忘れてたな)
さらにルクルが言葉を続けた。
「おじいさんも、出来れば教養を与えたいって言ってたよねー?憶えてるかなー?」
「うん、だから貴族の従者にしようとしたんだよね」
「ドラゴン学院が開校した訳だからさー、おじいさんと一緒に移住して貰おうよー」
「名案!あ、でもさ、おじいさんには無茶なブラック労働はダメだよ?」
なんかルクルが「俺ってそこまで人でなしに見られてるの?」と寝言を言っている。ハッキリ言うけど、マジ鬼畜だから!
「じゃいこっかエリーゼ、マイティ」
「はいっ!全力で勧誘しますわ!」
「えと、ほどほどでお願いね?」
空輸邸にエリーゼとマイティを乗せて、コウカ君がいた村まで向かった。今回はリッツがいないから最高速度で飛ばしたよ。それでも凄く時間はかかった。
空輸邸を空きスペースへと置いて、村へと向かう。村人は僕らを覚えていたみたいで、おじいさんとコウカ君の所へ案内してくれたよ。
「おじいさん、コウカ君、久しぶりだね!落ち着いたから会いにきたよ」
「ワールドン様、その節はお世話になりましたじゃ」
コウカ君は少し背が伸びていた。1年経ったから当たり前なのかな?でも、相変わらず無口だね。
早速、エリーゼが勧誘を始めたよ。
腰に手を当て胸を張るその姿は、有無を言わせない迫力がある。
「お二人をワールドン王国に招きたいとワールドン様がお考えですわ!早く支度をするのですわ!」
「エリーゼ、ちゃんと相手の意見を聞こうね」
「どうしてですか?答えは是しか無いのですから聞く時間がもったいないですわ」
エリーゼは本気で言っているな。断られるなんて微塵も考えていない。おじいさんは行くと回答しつつも、不安顔だ。
「勿論、神様であられるワールドン様のお誘いは受けますじゃ。ですが懸念もありますじゃ」
「懸念なんて……んぐんぐ……わ、ワールドン様?」
「ごめん、エリーゼ。僕は懸念を聞きたいんだ」
会話を一刀両断しようとしたエリーゼを、マナ力場で強引に黙らせて話を聞いた。
「ワールドン様、この村にも懸賞金ハンターが、つい先日やってきましたじゃ」
「懸賞金ハンター?」
「ワールドン様は国家転覆罪で国際指名手配されてますじゃ」
「300億カロリの懸賞金目当てって事?」
「そうですじゃ……充分お気を付け下さいませ」
うーん、そうは言っても全く脅威じゃないしなぁ。一応、ルクルに報告だけはしておこうかな?
「僕なら問題ないね」
「当然ですわ!懸賞金ハンター如きがワールドン様に敵うはずありませんわ!」
「頼もしい御言葉ですじゃ」
大した荷物は無かったので、さっと運んだ。村には、僕のマナ鉱石をプレゼントしておく。とても喜んでくれたね。
僕がドラゴン形態に光ガード&メタモルフォーゼしている間に、おじいさんとコウカ君には睡眠薬を飲んで貰っている。彼らに501km/hは負担だし、トラウマになるからね。
G負担を下げるため直線距離で飛んで、加減速の時間は多めに取るようにルクルから言われている。エターナルウィングの急加速は、負担がエグいとの事。
慎重に速度コントロールしたから時間がかかり、もう日没だよ。
諸々の手続きはエリーゼとマイティにお願いして、僕はずぶ濡れ姫の業務に戻った。
(プリンアラモード美味しい!)
今回のご褒美はプリンアラモードだった。テトサが大量に用意してくれていたよ。
遠足兼研修旅行で、色んな果物を手に入れたみたい。既に種からの栽培を開始しているとの事。
ガトーの分もあるけど……ブラック労働で今日は帰ってこないだろうから食べちゃえ!って感じで堪能したのさ。
翌日はリゼと学院へ視察に向かう。
教室の後ろで見学していると、カール先生が新しい生徒を連れてきた。
「皆さん、今日から新しく学院に入学した、コウカさんです。是非、お友達として迎えて下さいね」
「コウカです。メイジー王国出身です。よろしくお願いします」
新しい制服を着たコウカ君がお辞儀をした。
なんでスカート?
(え……?まさか女の子だったの!?)
確認したら女の子だった。コウカちゃんだったのか……気付かなかった。いや、ボーイッシュなベリーショートだし、一人称が僕だったし、ルクルやカルカンも勘違いしていたし、男の子と思っても仕方ないじゃん?僕、悪くない。
「では、コウカさんは文字の読み書きのコースに入って下さい」
「はい」
学習進度によってコースが分かれているらしく、文字の読み書きコースは一番下のコースだ。
「私はマーデルよ。12歳。ブールボン出身なの。よろしくね!」
「メルだよ。マーデルと同い年で出身も同じだよ。仲良くしよーね」
「僕はコウカ、ちょうど誕生節で9歳になった……」
「え!?誕生節なの!?じゃあお祝いしなきゃ!」
「シーナ姉にパンケーキ作って貰う様に頼んでくる」
コウカちゃんは誕生節だったので、僕もプレゼントを贈る事にした。後日、エリーゼ&リゼに相談して、服を10着ほどプレゼントしたんだ。新品の布地は慣れないのか戸惑っていたけど、少しずつ肌に慣れ親しめば良いかなと思う。
本当はもっと贈りたかったけど、子供の成長は早いってマイティに諭され自重した。
(コウカちゃんってば僕っ娘だしさ、僕と被ってるんだけど?僕のアイデンティティが侵食されてるよ!)
今はリゼと講師の相談中。
「講師を早めに拡充したいなぁ」
「そうね。カール先生1人だと大変そうなの。今日はリゼも講師のお手伝いしてくるね」
ルクルからも、講師を先に多く確保したいと言われている。講師さえいれば、他国からの留学生を招き入れる事も可能だとさ。
現在は広大な学院に対し、生徒の数が全然少ない。大は小を兼ねるって事で建物はドデカくしておいた。
(お?これはお昼のチャイムだ)
今日の給食はカレー。様々なスパイスの香りが温かい湯気に乗って漂っている。
学院寮は孤児院も兼ねているので、温泉組合から料理人を派遣して貰っていた。年長のシーナは、料理のお手伝いもしているみたい。シーナは、卒業したら孤児院で働きたいらしいね。アンも孤児院希望だとさ。孤児院からきた子供達は、孤児院が憧れの職業になっているみたい。
ルクルが言うには視野が狭くなっているので、他の仕事も体験する機会を設けるべき、と言っていたよ。
そう言いながらルクルが、さり気なくアンのお胸を見ようとしたから、光で視野を狭めてやったった!
「「「ごちそうさまでした!」」」
お昼ご飯の後は昼休みがある。校庭で遊んだり、教室で読書したりと、生徒達は思い思いに過ごしている。男子は校庭率が高いね。僕は校庭の様子を見に行った。
(違う、そうじゃない)
子供達はボールを輪っかに投げ入れて遊んでいた。
僕が「絶対に譲れない」とお願いして、ボンに用意して貰ったバスケットゴールだ。子供達はバスケットボールのルールを知らないから、玉入れ遊びなんだ。
(やべー、これじゃバスケ好きに怒られるよ)
「おーい、皆聞いて!バスケットボールのルールを教えるよ!」
「なになに?ワールドン様が何か教えてくれるの?」
「新しい遊び?」
ワラワラ集まってきた子供達に、ルールを一生懸命説明していく。
「なんか色々と複雑で分かんない」
「面倒そうだし、今の玉入れで良くない?」
「だよなー」
ハッ!イケナイ!僕の説明が下手くそだったから、子供達が興味を無くしてしまったぞ!
視線から熱が失われていく様子に、僕は焦り、背中には冷や汗をかいていた。
(ぐぬ……どうすれば……あ!)
「えっとね、今日の放課後から伝心でアニメを見せてあげる。一日に4話ずつね」
「それ面白いの?」
「僕のオススメだよ!見れば絶対に気に入るよ!」
「「「楽しみ!」」」
最高に面白い入門書兼金字塔のアニメを、そのまま子供達に見せてやる事にしたよ。僕の説明より、全然分かり易いからね!娯楽が無いから皆ハマると思う。
他のスポーツも順番に沼にハメてやるとするかな!
午後の授業ではリゼも講師として活躍していた。色々な物の目利きに関する授業だ。僕もエリーゼに教えて貰ったな。
エリーゼは、幼い頃に美術品の価値を叩き込まれたらしい。
ルマンド君も、美術品を勝手に端金で売られ倒れた後は、教育に力入れたと言っていたからね。
(さて、そろそろルクルの所いかなきゃ)
ルクルにおじいさんの仕事の相談と、懸賞金ハンターの報告に行ったんだ。そこにガトーがいて、勝手にプリンアラモードを食べた事を愚痴られた。
「それでおじいさんの仕事はどうする?」
「ストローおじさんの演技で、騙せるかの試験官的な役割とかどうかなー?」
「そだね、それなら負担は少ないかな?」
「おい!ワド、話は終わってないぞにゃん!」
あーもう、ガトーがしつこいよ。もう僕の胃の中なんだから諦めてよね!
「んで、懸賞金ハンターの方は来たら、テキトーにカルカンかエリーゼに撃退して貰うでいいかな?」
「いやー、そっちは本格的に警備強化しないとダメだねー」
「おい!吾輩のプリンアラモード!許さないぞにゃん!」
(警備強化が必要?なんで?)
「最悪なパターンは国民が人質に取られて、脅してくるケースかなー」
「そ、そっか……人質があり得るのか……」
「おい!吾輩のプリンアラモード!って人質に取られたら取り返せばよいだろにゃん?」
(あ!)
「いや、戦闘力ない国民がねー」
「違うよ!ガトーは拘束する気流を操作できるん!」
「え!?マジなんー?」
「マナ住民メダルからマナを追えるし、動きを止めて安全に奪還できる」
「そうだぞ!吾輩は凄いのだにゃん!もっと褒めろにゃん!」
それからルクルと一緒に、思いっきりガトーをヨイショしといた。ルクルが、ガトー専用プリンアラモードを作るって話をしてからは、超ご機嫌になったな。
ガトーは専用とかの単語に弱いんだ。
そうしてガトーを持て囃しているところに、ストローがやってきた。
「あー、エライ事になってしもたー!こらアカンやつやでー!」
エリーゼ以外はコウカの事を皆男の子だと思っていました。
ワドは僕っ娘のアイデンティティを侵食されていますね。
次回は「ペテン師と聖水世界デビュー」です。




