閑話:すれ違いの訪問と会長就任
前回のあらすじ
ザグエリ国王のミカドから、謹慎を言い渡されたストロー宰相。
職務につかなくていい事を利用して、ワールドン王国にやってきました。
ep.「建国の挨拶回り」~ ep.「船舶コンテスト」までのベコウ・ストロー視点となります。
(ようやっと、フウカナット村までこれたわ)
私こと、ベコウ・ストローはストロー侯爵家の悲願として宰相まで登りつめて、自ら失脚の道を選んだアホな男や。だが、世界中からアホと言われても、国民が大勢無駄に死ぬ事だけは回避せなあかん。宰相としての誇りと最期の仕事や。
(フェグレー将軍もきばってる。私もやらな!)
フェグレー将軍から、4名の信用できる兵士を護衛につけてもろうた。
トカプリコ元帥の追手と思われる暗殺者に殺られて、1人に減ってしもうとる。申し訳ないと思うが、彼らは「国の一大事ですから」と全員が笑って逝きよった。国の公文書に載らんでも、彼らこそが救国の英雄や。
なんとしても彼らの家族や、大切な友人を1人でも多く救って、忠義に報いねばならん。そう強く決意を新たにしとった。
近くにおった村の住民に声を掛ける。
「私はザグエリ王国からの和平の使者や、こん村の村長か偉い人に取り次いでもらえんか?」
「少々、お待ち下さい!」
私の顔なんか村人は知らんやろうな。一代で成り上がったから家紋も知名度が無い。どないして信用してもらい、ワールドン様に会わせて頂くかが課題やった。暫くしたら壮年の男性がさっきの村人とやってきよった。
「はじめまして、フウカナット村の村長をやっておりますバギャと申しますわ」
「私はストローと申しますわ」
「ストロー様?はて?どっかで聞いたような……」
ここで宰相やと告げても変に警戒されるだけやろ。単に貴族として名乗る事にする。
「ストローは家名でして、ベコウ・ストローいいますわ」
「左様ですか、それで和平の使者とはどないな御役目ですか?」
「ワールドン様へのお取次ぎをお願いでけへんか?」
バギャゆうん壮年の男性は、少し考える素振りをしとった。あれは演技やな、付け焼き刃やからすぐに分かるわ。これでも政治闘争を、一代で戦い抜いたんや。演技かどうかくらい瞬時に見破れる。
「ほな、農林省大臣の所でお話しされた方が良さそうや。ちょっと案内つけますわ」
そう言われて少年がつけられた。
「はじめましてー、ルクルといいます。ストローおじさん、よろしくねー」
「……はじめましてやルクル君、よろしゅうな」
なんやこの違和感は。
演技や無いただの子供の筈なのに、なんもかんも見透かされとるような変な違和感があるで?
それにバギャも門番の村人も、隠しとるけど明らかにこの少年を格上として扱っとる。
まさかマナ心眼持ちとかや無いやろな?
……いやあり得るか、変なマナの流れを感知して間者かどうか調べるつもりかも知れんし。
(それに……)
暗部と思われる凄腕が、どっかに潜んで見とる。気配消すんがうますぎて、どこかは正直分からん。
やが、政争での命のやり取りを、ようさん経験してきた私には確信があるで。
「農林省大臣にはすぐに会えるんやろか?」
「すぐに会えますよー。王都からここまではどのようにきたんですかー?」
「途中までは馬できたんや、せやけど不幸な事故でな、馬を失ってしもうたんや」
この少年との会話は見張られとる。ここは嘘をつかんと正直に話すよりないわ。
せやかて不思議な少年や。なんや違和感が消えへん。
「フウカナット村は色んな建物がぎょうさん出来たんやなぁ」
「王都の方は凄い被害だって聞いたよー、おじさんの家は無事だったー?復興はどんな感じかなー?」
「ハハ、噂好きなんやな?王都の被害は酷いで?私の家も全損やし、復興は市街地優先しとるけど……厳しいわ」
話しながら待ち受け室に通された。
まだルクル君は私についとって、農林省大臣が来るまで話相手をしてくれとる。
ま、十中八九監視やな。
「でも、家が全損だと生活が出来ないでしょー?どうしたのー?」
「私は王宮の執務室があったからな、なんとか生活は出来たんや」
一瞬、ルクル君の眉が動いた気いする。いや気のせいか?
「じゃあさー、市街地の復興してない地域の住民はどうー?」
「周辺の村に受け入れてもろたり、簡易避難所で暮らしたりと様々やで」
「へー、周辺の村は受け入れる余裕あったんだー?」
(アカン、耳が痛いで……)
「いや……重税でどの村も余裕無くてな。周辺村いったんは、避難民の1割くらいや」
「へー、じゃあ当初の避難民の半分くらいは元の生活に戻れてるんだー?」
「ああ、そうや。被害が少なかった所を重点的に、悠久の秘宝をつこうてな」
なんや?なんか強烈な違和感があったで?
ルクル君の台詞のどこに違和感を私は覚えたんや?
……なんで全体の半分が避難生活から戻れとると判断できたんや?
おかしいで!私は一言も言うてへん!
私はゴクリと唾を飲み込んだ。
「な、なぁルクル君……」
「ストローおじさん!悠久の秘宝ってなにかなー?凄く興味あるなー!」
私は秘宝の効果を急ぎ伝えた。嘘偽りなくや。早う質問したいで。
「オッケー!分かったよー!ストローおじさん」
「で、ルクル君、さっきの……」
コンコン。
私の質問はノックで遮られた。
アカン!ただ者や無い!
さっき私の言葉に被せて質問してきたんも、今のノックも偶然や無い!何らかのサインが含まれとって、待ち構えたノックや!
なんで気付かんかったんや!
「はじめまして、農林省大臣のクラッツと申します」
「……はじめまして、ベコウ・ストローと申しますわ」
「じゃあ、これで失礼しますねー」
「それでですね、ストロー殿。ワールドン様は現在外回りに出ておりまして……」
ルクル君が行ってしもうた。
クラッツ殿は単なる凡夫やった。何も恐怖を感じへん。有能ではあるがそれだけや。クラッツ殿と話しながら、ルクル君の発言を整理する。
それで私の回答が誘導されとった事に気付いた。
(誘導されとると気付かんなんて……何者や?)
ルクル君は演技に全く見えへん自然体で、世間話のまま王都の状況を丸裸にしおった。どない考えても避難民の総数と、周辺の村の全体把握を事前に済ませとる。周辺の村が受け入れられる上限の予測を既に終わらせとったんや。せやから1割の言葉だけで、現在の避難民の数を予測した。
ザグエリ王国の上層部でもここまでやるんは中々おらん。
(……しかも突発の対話やで?)
事前に入念な準備をしてから、対話に臨むのが普通や。
私が訪問したのも今日やし、ルクル君が紹介されるまでも小一時間や。
まさか……
(使者を予測して、事前準備を終わらせてたんか!)
こんなん出来るんわ、政争を経験しとる猛者やで。
ま、ホリター公爵家がブレーンについとるんやろな。
にしても、演技と気付かせん手腕は見事なもんや。
せやけど、ワールドン様が不在の時期に訪ねてしまうとは、ホンマ運が無いなぁ。
「ワールドン様がお戻りになるまで、この村に滞在しますか?」
「ええんでっか!?」
「はい。ルク……いえ、お話しして誠実な方と分かりましたし、空き家もちょうど1軒用意できましたわ」
演技が下手くそやな。明らかにルクル君を[様]付けで呼びかけたで。ミスリードさせようとした引っかけでもないわ。明らかに普段は敬称をつけて呼んどる。
ちゅう事は……ルクルはこの村だけの偽名で、ほんまはアルフォートゆうんやないやろか?確かホリター公爵子息は身長が低いと聞いとる。
流石に年齢が違いすぎる気いせんでも無い。せやけど、そんくらいしか思いつかんわ。
噂のホリター公爵家の秘薬で、見た目の年齢を錯覚させられとるんやろか?
(アカンな、考え出したらキリ無いで)
数日はフウカナット村で見学させてもろてんけど、アルコールの使い方も特殊な農法も革新的やった。
数年後にはフウカナット村が世界一の産地になる勢いやで。
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そないして過ごしとったらワールドン様が帰ってきたゆう連絡がきた。
「ストローおじさん、王都まで案内するよー」
「私はジャックと申します。この度は同行させて頂きます。宜しくお願い致します」
ああ、このジャックいうのがずっと監視しとった暗部の人間やな。
凄い実力者や。余計な気は起こすな言う牽制やろな。これじゃルクル君の素性を追求でけへんわ。よう計算されとる。
ほんでワールドン様の元に向かう道中も世間話をしたわ。世間話に思えるけど、偉い勢いで情報が抜き取られとったわ。
私はワールドン様と挨拶を交わした後、幹部を紹介された。
「はじめまして、内閣総理大臣のアルフォートと申します」
「お初にお目にかかります、法務大臣のエリーゼと申します」
「私はザグエリ王国で宰相を務めております、ベコウ・ストローと申します。宜しくお願い致します」
(アルフォート殿は別人やった。結局、ルクル君は何者や?)
ほんでワールドン様に謝罪と、我々の覚悟をお伝えできた。
これで無実の民が幾らか救われるやろう。
「ストロー宰相、僕の提案を聞いて欲しいんだ。ギルドマスターにこの件の判断を仰ぎたいと思ってる」
「……ギルドマスター?」
ギルドマスターが分からん私に、エリーゼ様やワールドン様が説明してくれた。あの大惨劇を指示した人やと……
私はギルドマスターの姿を見て、驚愕してもうた。
「ルクル君……いえ、貴方がギルドマスターなのですかルクル様?」
「様付けはこそばゆいですよー、ストローおじさん」
なんか一気に腑に落ちたわ。ワールドン様もガトー様も駒のように扱う、このルクル様が本当の黒幕や。
そうとも知らんで私は随分と話してしまったなぁ。怖いわ。
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そっから地獄の演技特訓と、多忙な監査役業務に忙殺される日々が始まった。
ワールドン様とガトー様に愚痴を零したら、お二人共偉い共感なさったで。
そんで「ルクル様の被害者友の会」が作られて、私は会長を押し付けられた。
神様達はバレたら怖いから会長は嫌と仰ってはりました。そんなん私も同じやで?
(まさか市街地の被害も全部計算やないんか?)
あまりの鬼畜ぶりに被害が本意やないゆう言葉まで、私には疑わしく思えてきやったわ。
会長は大変ですね……ご愁傷さま……。
とは言え、この残念ドラゴン達が押し付けた事はどうせすぐにバレるので、あんまり意味は無いです。
次回はリッツ視点の「閑話:宣戦布告と女の約束」です。




