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ドラゴンの人生探求  作者: 元毛玉
ドラゴン内閣府発足

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閑話:獅子の子の片鱗

前回のあらすじ

ワドがアルフォートの人生相談を終えて、それをルクルに報告して少し経った所からのジャック視点です。

ep.「初の人生相談」~ ep.「船舶コンテスト」までのジャック視点となります。

 私ことジャックは、エリーゼお嬢様の筆頭従者を務めて、もう長い事になります。


 とは言っても最近は新しく入った従者見習いのリッツと、元々身の回り担当だったマイティだけがお傍に仕えている日々です。

 ボンは趣味のDIYから大臣に大抜擢されて、そちらで激務をこなしています。


 私も、ルクル様の直属みたいな立ち位置になりつつありました。正直に言って人使いの荒さは、お嬢様よりも上かも知れません。常に限界ギリギリの作業量が積まれ、慣れた頃には更に増やしていかれるのです。

 ワールドン様が「あれがブラック社畜を作る手腕だよ」って言っていた意味が今なら分かります。ルクル様は恐ろしい人です。


 アルフォート様が悩んでおられるとの事で、ルクル様からフォローを依頼されました。どのように悩んでいるのかと、会話の様子などから18パターンのフォロー案が事前に示されています。

 尋常ではなく頭が切れる御方です。

 ロワイト様がお嬢様の婿に欲しいほどに、気に入る理由は分かります。


 私がエリーゼ様の従者になる前は、ロワイト様の直属として暗部におりました。5本指の1人として様々な裏仕事に手を染めています。

 9歳のお嬢様がトラブルを起こし、抑えられる人材として従者につくよう、10歳の誕生節から命じられました。


 それから11年間、必死でお仕えしております。ですが、私ではお嬢様を抑える事ができませんでした。それをルクル様はあっさりと達成されたのです。

 ロワイト様とルマンド様の驚きに私も共感しています。神算鬼謀とはこの事だと思いました。


 コン、コン……


「……どなたですか?」

「アルフォート様、ジャックにございます」

「入れ」


 私はアルフォート様の執務室へと入りました。手土産のフレーバーティーは、既にポットに用意しております。入室した直後にカップへと注ぎ、アルフォート様へとお出ししました。アルフォート様は、暫し香りを楽しんでから私に用件を尋ねます。


「それで、なんの用だ?」

「実はルクル様からの依頼がありまして、私には荷が重く、アルフォート様にご助言を頂ければと思いまして……」


 さて、既に用意されている台本通りに役者を演じるだけです。

 助言を求める相談への反応毎に、次の演技が用意されています。既に全てを頭に叩き込みました。


「……ルクルからの依頼ならば、ルクルに相談すれば良かろう。私の領分では無い」


 回答では「ルクル様へ相談するように返す」が一番可能性が高いと言われていました。

 その通りの回答です。回答の仕方は激昂せずに淡々と告げたのでパターン7ですね。私はパターン7の台本を演じました。

 会話のリズムも指定されていたのですが、思っていたよりも上手くいきそうです。かなり予定通りに進んでいました。


「ルクル様に陰謀の教えを請うのは如何でしょうか?」

「私が教えを請うのか?」

「はい。あの人心掌握術は、身に付けると必ずアルフォート様の力になります。それに他国とやり合うにも必要でしょう」


 アルフォート様が暫く考えてから口を開きました。


「私に教えてくれると思うか?」

「はい。アルフォート様の方が、私よりもその力を上手く使えます。ルクル様の利益優先な考えでもそう結論づけるでしょう」

「確かに……ルクルは利に聡いからジャックよりも私を選ぶな。後は時間を捻出するだけか……」


 また、アルフォート様が暫く熟考しています。でもこの後のアルフォート様の台詞は既に想定されているので、私はただ待つだけです。


「ルクルに作業が一段落したら、私の執務室まで来るように伝えよ」

「……畏まりました」


 驚きました。これは最も可能性が低いと目されていた回答です。

 しかしながら「自分の土俵に上げようとするなら、アルは化けるよ」と、ルクル様が評していた回答でもありました。

 姉であるエリーゼお嬢様の影響か、アルフォート様は気弱な所がありました。教えを請う相手を呼びつけた上で、自分の優位な環境に連れ込むなど今まで一度もしていません。


 ですが、ルクル様は交渉の基本はいかに相手の土俵に上がらず、自分の土俵に持ち込むか……そして相手がそれを自分の土俵だと錯覚させるかが重要と仰っていました。

 アルフォート様は国家の最高権力者となって意識が変わったようです。これはルクル様に良い報告が出来ますね。


─────────────────────


 それから、隔日でルクル様が執務室に訪れるようになりました。


「ではルクル、また明後日に」

「アルは飲み込みが早いねー。基礎的な所は今年中に終わりそうだよー」

「ええ、すぐに追いついてみせますよ」


 ルクル様の退室後に少し間を置き、私も退室の挨拶をします。


「アルフォート様、ルクル様の護衛任務に就きますので失礼致します」

「ああ、分かった」


 私は茶器を片付けて、急いでルクル様に合流しました。私を待っていたルクル様が笑顔を浮かべます。


「ルクル様、お待たせしました」

「全然いいよー、じゃあいこーか」


 ルクル様が開発されたホバーバイクという乗り物でフウカナット村に移動します。風の最高品質のマナ鉱石がふんだんに使われている贅沢な乗り物です。鈍い光沢の車体は、とても高級感を感じます。

 ルクル様はマナ法則も勉強されているみたいで、マナ力場も応用された新技術が使われていました。


「しかしマナ力場にこんな使い方があったとは……」

「いやー、カール先生の持っていた方位マナ石をみるまで、マナ力場を誤解してたんだー」


 ルクル様が元いた世界ではマナが存在しなかったそうです。

 その世界の先入観で考えていた為に、マナやマナ力場を誤解していたと仰っていました。それまではマナの流れや、マナ力場の向きが理解しづらかったとの事です。


「ルクル様の世界では磁力と呼ぶのですよね?」

「んー?属性とかあるし、全くの別物だけどさー。でもマナ力場は、基本的に磁場や重力場と似た感じだよー」

「方位マナ石のようなありふれた物でそれに気づくのが凄いと思います」


 ルクル様は首を振りました。


「流石に方位磁石を見せられて気づかない異世界人はいないと思うよー」

「左様ですか?」

「この世界はマナが無くなると消滅するからさー、月も磁場を失って消えたのかもねー」


 私達は高速で移動しながら会話をしていました。最高速度は100km/hだせるそうですが、安全の為に半分くらいの速度で走っています。

 それにしても、このホバーバイクの最高速度よりも早く走れるお嬢様は、私からみてもおかしいとは思いますが……


「上手くすれば、将来的にはリニアモーターカーも作れるかもー?」

「それはどういったものでしょう?」

「ワドの最高速度くらい出る乗り物だよー」


 恐ろしい。あんなに早いのは危険でしかありません……私は乗りたくないですね。


「それでジャックさんから見てアルはどうかなー?」

「お変わりになりましたね。知識を吸収した事よりも、自信をつけた事が大きいと思います」

「自信によって結果が伴ってくると、さらに知識を有効に使えるようになるよー。来年には別人になるだろーねー」


─────────────────────


 それからのアルフォート様の変貌ぶりは、凄いものがありました。たった1ヶ月でここまで変わるとは、正直信じられません。


「アルフォート様、調査報告をまとめました」

「ご苦労。ストローの方はどうなっている?」

「順調でございます」


 口調だけでは無い……この重圧はロワイト様によく似ていらっしゃる。


「では、適度に娯楽を与えてやれ。ルクルが締め付けてる分、こちらに傾倒するだろう」

「畏まりました」

「それと、これでは新しい人員の資料がたらんな。何を好んで何が嫌いかをすぐにまとめろ」


 以前OKが出ていた調査資料では、不十分と突っ返されました。本当に別人のようです。これで外面は、同じ様に振る舞っているのですから恐ろしい。


「すぐに再調査し、改めて提出致します」


 アルフォート様は変わられた。やはりホリター公爵家の血筋だと痛感させられる。獅子の子はやはり獅子なのだと。


(それにしても……)


 意図的にそこへ誘導するルクル様はもっと恐ろしい。それにアルフォート様は自分が上手くルクル様を使っていると捉えていますが、そのように思考誘導されていると全く気づかせていない。何故なら……



(今日、再提出を命じられる事まで、台本に書かれているのですから)



アルフォートはかなり過保護に育てられてるのですが、本人はそれを自覚していません。

そこに気づけないから、ロワイトからは見限られています。


次回はトスィーテ視点の「閑話:風ガードの特訓」です。

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