夏の終わり
さて、毎日ダンジョンに籠って訓練をしていると、家族サービスができない。
ということで、一日目一杯体を動かしたらもう一日は家族サービスをするという予定を組むことにした。
というか、半ば強制的に組まされた。
三日ほど続けたところで、エヴァが拗ね、父上母上ばかりか、ミーシャとルークにまでもうちょっと家にいてほしいというようなニュアンスの提案されてしまったのだ。
家族を守るために頑張っているつもりなのだが、今このとき妹を悲しませていては仕方がない。
一応イレインに相談すると、「だから頑張りすぎだって言ってんだろ」と普通に注意をされた。
そんなわけで、俺は残る夏休みの時間の半分と少しを、家族と共に過ごすことにしたのである。
ルークはまだ難しかったが、エヴァは街へ連れて行って、欲しそうにしていたリボンなんかも買ってやった。俺にはよくわからないが、女の子というのは小さなころからおしゃれしたがりなのだろう。
随分と喜んで、それからというもの、頻繁に髪をくくるようになった。
その度褒めてやると喜んではにかんでくれるので、兄としては非常に嬉しい。
あまりにゆるんだ顔をしていると、イレインに肘で小突かれるのだが、まぁ、あまり気にしていない。
サフサール君もこんな気持ちだったんだろうか。
少しだけ気持ちが分かったような気がする。
夏休みの終わりには王誕祭がある。
地元へ帰っていた貴族たちも王都へ戻ってきて、大人たちが忙しくなる時期なのだが、その忙しくなる直前に、父上とレーガン先生が手合わせをした。
立会人は俺とクルーブだけ。
真剣にやるからというので、父上が母上と妹弟には家の中で待機するように命じたのだ。
父上は俺と戦う時には、基本的に受け身で隙をついて反撃をしてくれる。
それが父上のスタイルだと思っていたのだが、どうやらそれは俺の勘違いだったようだ。
本気を出したときの父上の動きは苛烈だった。
普段の温厚な雰囲気はどこへやら。
眉が吊り上がり目に力が入ると、途端にお爺様やひいお爺様のような精悍な顔つきに変わる。
次々に繰り出される攻撃をレーガン先生は見事にいなしつつ、時折反撃をするのだが、父上はその反撃を体を逸らしたりかがめたりすることで回避しながら、剣ではひたすら攻撃を続ける。
呼吸も忘れるほどの攻防は随分と長いように思えたが、実際はそれほどではなかったのだと思う。やがて攻撃をいなし続けたレーガン先生の木剣が折れてしまい、勝負はしまいとなった。
「参りました。お強い」
「……いや、私の方もこの様だ」
父上が木剣を軽く地面に打ち付けると、みしりと音がして半ばから折れてしまう。
それほど力を込めてなかったように見えるから、本当に木剣の方が限界だったのだろう。
どちらもまだ息が切れていないので、身体的には余裕がありそうだ。
「それでも先に折れたのは俺の剣です」
「木剣の状態にもよる」
「だとするなら、よくない木剣を選んだ俺の目利きの悪さが敗因です」
「君は病み上がりだろう」
「それを言うならば閣下とて、少し前までお勤めが忙しく訓練どころではなかったとお聞きします」
「なんかめんどくさい会話だなぁ……」
互いの譲歩が続いて、ついにクルーブがぼやくように突っ込みを入れた。
父上とレーガン先生が揃って苦笑して、それから目を見合わせてまた笑った。
クルーブは自由過ぎるタイプだけど、こういう時はちょっと助かる。
「なんにせよ、実力は十分だとわかった。今後ともルーサーのことをよろしく頼む」
「ありがたいお言葉です。精一杯尽くさせていただきます」
そんなわけで、これまでも俺の部下ポジションであったレーガン先生は、正式に父上からも実力を認められて、我が家の一員としてその地位を確立したのである。
さて、王誕祭が近付くにつれて花火関連の話でクルーブは忙しくなる。
そうなると気軽にダンジョンにも行けなくなるので、俺たちは自然と祭りに浮かれた街を楽しむことになった。
父上との手合わせ以降、レーガン先生はすっかり信頼されて、先生さえ連れていればエヴァやルークを連れて街へ出る許可まで貰った。
もちろん、俺が真面目に訓練してきたから、そっちの信頼もあると思うんだけどさ。それにしたって俺一人だったら、イレインと二人の外出くらいはできても、エヴァたちまでは連れて行けなかったと思う。
お陰で二人には、賑やかな雰囲気の街を楽しませてやることができて、お兄ちゃんは大満足だ。レーガン先生も俺の家に来てからは以前に増して穏やかな雰囲気になって、ルークには結構気に入られている。
「せんせ、せんせ」と言って先生に付きまとう姿はかわいらしい。
もしかするとルークは結構コミュニケーション能力が高いのかもしれない。
街でもその辺のおじちゃんおばちゃんに話しかけて可愛がられていた。
俺は結構気にして年上に近寄って話しかけてたけど、俺とは違って天然タイプなんだろうなぁ。
エヴァは相変わらずお兄ちゃんっ子で、ほとんど俺の傍から離れなかったけどね。





