今日の振り返り
少し遅くなったが母上は怒っていなかった。
クルーブも一緒だったと聞いて、少し安心したようだ。
適当なことばっかり言っているようで、セラーズ家では結構信頼を得ているクルーブである。
父上はいつもと変わらず俺の話を楽しそうに聞いて、最後に「賭博場には一人で出入りしないように」とだけ忠告をいただいた。そういうタイプでないとわかっていても、親として言わねばならないと思ったのだろう。
食事が終わった後は、今日一日構ってやれなかったエヴァとルークを寝かしつける。
最初にルークがこてんと直ぐに眠ってしまったので、今度はエヴァの部屋へ行って今日の話を聞かせてやる。食事の時と同じような内容だったが、エヴァは特にゾーイ様のことが気になるようで色々と質問してきた。
お兄ちゃんの口から出る女の話は全部気になるらしい。
かわいいものだけど、将来の旦那さんができた時は、嫌われないように程々にしてほしいものだ。
あ、それくらいで嫌うような奴だったら、結婚する前に俺が選別すればいいか。
エヴァが寝息を立て始めたので、そっと部屋から出る。
そうして周囲に人がいないことを確認して、イレインと今日あった出来事について話す。
「結局ゾーイ様ってどんな人なんだ」
「見ての通り。あんな人」
「だいぶ変な人ではあるけど、陛下とか殿下とは仲が良いって言ってたな。なんか裏がありそうないい方じゃなかったか?」
「……これは私の推測だけど」
イレインはやはり俺には感じられなかったものがあったらしく、少しだけ迷うような仕草をしてから続きを話す。
「ゾーイ様は〈王立研究所〉を隠れ蓑にして、陛下の代わりに街の様子を見ているんじゃないか? あの様子だとオルカ様のこともよく知っているようだった。そもそも〈王立研究所〉は公的に権力を与えられないだけで、王家の本筋に何かあった時は代わりに王位を継げるような身分の人も所属してるんだ。奇行の目立つ人が多いからみんなそういう場所なのだと思っているようだけれど、あそこには情報が良く集まる」
「つまりなんだ、あそこは王家の隠密情報部隊みたいな場所、ってことか?」
「一部本当にただの変な人もいるけど、そんな側面もあるんじゃないかってことだ」
なるほど……、かっこいいじゃん。
絶対に近付かんとこって思ってたけど、ちょっと一度訪問したくなってきた。
「ゾーイ様の意味深な台詞覚えてるか?」
「ええと、陛下の代じゃ解決できない問題が多そう、だっけ?」
「大体そんな感じだ。〈王立研究所〉に籠って変な研究だけしてる人が、そんな事情分かるわけないだろ。陛下の代では解決できない、ってことは、殿下の代に問題を引き継ぐってことだ。つまり、私たちに直接的に関係が出てくる」
「まぁ、うん……。ってことはゾーイ様は、俺たちが殿下の周りにいてふさわしい人材か推し量ってたってことか?」
「そんなとこ」
なんかでかい話になって来たな。
陛下と仲の良い父上に聞けば、もしかして事情を知っていたりするんじゃないだろうか。思い返してみると、今日の夕食の時、父上はいつもよりも口数が少なかったような気もする。
そう思ったからそんな気がするだけかもしれないけど。
もしそうだとしたら父上は意外と演技派だ。
「……でもあそこで会ったのは偶然だろ? 流石にそこまで深く考えてないんじゃね?」
「……〈王立研究所〉には、占いに凝ってる変人がいる」
占いとか俺信じてないけど。
だって俺、元の世界で占いしてもらったけど、四十までに結婚して九十くらいまで元気に生きるって言われたもん。
「そんな目でみんなよ。実際大きな出来事とか大事なことは結構あてるみたいだぞ。曖昧で解釈次第みたいなことしか言わないけど、ゾーイ様くらい洞察力が高けりゃそこから導き出せるものもあるんじゃないのか」
「それってコールドリーディングとか言うやつじゃねぇの?」
「いや、本人もトランス状態でわけわからないこと口走ってるから違う。占いってより予言って言った方がいいのか、あれは。ほら、昔なんかのテレビで見たことあるけど、抽象的なことばっかり言うやつあるじゃん」
「どう違うんだよ」
全然想像がつかねぇんだけど。
イレインもうまく説明できないのか困った顔をしている。
「イレインが聞いたのはどんなだった?」
「えーっと、ちょっと待ってろよ、それっぽい感じに思い出すから……」
イレインはしばらく黙り込んでから咳ばらいをして口を開く。
「暗がりを憎む蛇は、復讐に燃えて月と誼を結ぶ。蛇はやがて並んだ卵の一つを丸のみにするだろう。隠者の宝物は太陽と月に見初められ、いずれ決断を迫られる」
「……わかんないわ」
「わかんないだろ?」
言ってるやつもやばいし、これをまともに解読してるゾーイ様もやばい。
「後から解読したところによれば、多分太陽は王国で、月は光臨教だと思う。蛇がうちの親で、卵はお兄様。最後はよくわからない」
「……ゾーイ様にその場で聞けば分かったんじゃね?」
「それは思うし後悔もしてる。でも当時は信じていなかったし、ゾーイ様も遊びみたいなものだと言ってたからな。突然奇声を上げた上に白目剥いて喋り出した人の言うことなんて、信じる方が難しいだろ」
「あ、そんな感じなんだ」
確かにそれは占いよりは予言寄りだわ。





