表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/128

第八十一幕 今の日常報告会

 店の定休日を利用してコーデリアはネイルケアクリームを作成した。

 働いている以上、爪紅ではすぐに傷が入ってしまう恐れもあるが、爪の手入れの品であれば使用に困る者は少ないはずだ。


(少なくとも、ケイリー様以外は皆大丈夫だったし、ケイリー様も魔力との相性は悪そうじゃないのよね)


 ふわりと漂う香りで前向きになってもらえたらいい、そうコーデリアは願いながら配る準備を行った。


 そして、翌日。

 今日のコーデリアはフルビアの所とクレープとガレットの店のほうに顔を出す予定があるので、開店前に店に顔を出した。

 開店準備をしていた皆はネイルケアクリームをとても喜んでくれたので、コーデリアはほっとした。この様子だと店の奥で準備をしているケイリーにも喜んでもらえる――そう思ってコーデリアはケイリーのもとにも向かったのだが、一人で部屋にいたケイリーはコーデリアから声をかけられたことでびくりと肩を震わせた。


「ごめんなさい、驚かせてしまいましたね」

「い、いえ……」


 普通に朝の挨拶をしただけのつもりだったコーデリアからケイリーはやや視線をそらしつつ、首を横に振った。しかし、その様子がコーデリアには少し不思議に映った。


(最初に出会った時のような……そんな、緊張感があるような……?)


 しかし、この間でだいぶ打ち解けたつもりはある。急に態度が戻る原因など、コーデリアには心当たりがない。


「もしかして、お加減が悪いのですか?」

「い、いえ、そんな……なにも……」


 だが視線が全く合わない現状でコーデリアはケイリーの言葉を素直に受け止めることができなかった。


「少し失礼いたしますね」

「!?」

「お熱はございませんね」


 ケイリーの額に置いた手から伝わる体温はごくごく普通だ。

 しかし熱がなくとも腹痛やだるさなど、コーデリアが今感じられない部分に不調がある可能性もある。定休日意外にも定期的に休みはとってもらっているが、それでも令嬢であるケイリーにとっては初めての仕事なのだ。気が休まらなかったのかもしれない。


「ケイリー様、もしよければ今日はお休みなさってくださいませ。頑張ってくださいすぎて、疲労が蓄積されているのかもしれませんわ」

「いえ……本当に、なにもないのです。ただ、その……」

「その?」

「いえ、何も、ありません」


 しりすぼみに言葉を切ったケイリーに、コーデリアは困ったなと眉を寄せた。

 ケイリーは嘘が本当に苦手らしい。


「では、信じさせていただきます。ですから、本当にお加減が悪くなった時は仰ってくださいね。ケイリー様が倒れられては、心配ですから」

「あ、ありがとうございます……」


 だが、その言葉でもやはり目が合うことはなかった。

 一体何があったのかとは思うが、この状況でコーデリアが長居すれば余計にケイリーにとってプレッシャーになってしまうようにも感じてしまう。ほかの者にケイリーの体調が悪いかもしれないことを伝え、様子を見てもらうことにしよう……そう考えたコーデリアだが、当初の目的を忘れてしまっていたことを思い出した。


「ケイリー様、こちら、もらってくださいませ」

「え?」

「今、皆に配っていたのです。爪のお手入れ用のクリームです。香りも楽しんでいただけましたら、幸いです」

「あ……ありがとうございます」


 驚くケイリーは、そのクリームの入った缶を大事そうに手の中に包み込んだ。


(よかった。ここで働くのがいやになったとか、そういうことではないのね)

 もしもここで働くのが嫌になってしまっているのに、気を使って無理に働いているとなれば心苦しい。だから、少なくともそうではなさそうなことにほっとした。


「あ、あの」

「どうかなさいましたか?」

「その、夜会に参加されて……どう、でしたか?」

「夜会ですか?」


 尋ねるにしては日が過ぎた話題だなと思いつつ、コーデリアは首を傾げた。近々いくつか夜会に参加する予定はあるが、参加したとなればまだマイルズのところだけだ。


「いえ、その、あの……申し訳ございません」

「いえ、こちらこそ申し訳ございません。ただ、そうですね……いろいろあったので、何からお話すればよいのやら」


 問い返しでケイリーに緊張させてしまったことを申し訳なく、そしてどうしてケイリーが謝ったのかと思いつつ、コーデリアは苦笑した。


「ケイリー様には、どこまで噂が届いていますでしょうか?」

「あ、その……申し訳ございません、私、噂には疎くて。ですが、コーデリア様はガネル様やハック様と仲がよろしいのかと、思いまして……」

「え? マイルズ様やクリフトン様ですか?」


 思いがけない方向からの質問に、コーデリアは目を瞬かせた。

 ただ、マイルズは主催していた家の子息であることや、コーデリアも一緒に躍っていたことをケイリーが聞いたのかもしれないと思った。クリフトンについては夜会ではそれほど長く話したつもりはなかったが、ヴェルノーとジルのようによくつるんでいる間柄なのかもしれないと思えば、特に不思議だとは感じない。


「ええ、幼い頃にヘーゼル様のお誕生日会で知り合いました。私も緊張してしまうので、知り合いの多い夜会が初めて向かう場で本当によかったと思います」


 ケイリーが知らないのであれば、無理にシルヴェスターやシェリーの話はせずに済むよう、コーデリアは問題のない部分だけを切り取って無難に返答した。

 シルヴェスターの件に関しては誤解される恐れがあるし、シェリーの件はクライドレイヌ伯爵家から融資を受けているというファインズ家の娘として心苦しくなられるのもコーデリアの本意ではない。

 しかし、コーデリアの返答を聞いたケイリーの「そうですか……」という声はやや沈んでいるようにも聞こえた。だが、やはりコーデリアには心当たりが思い浮かばない。それでも現状の気落ちした様子はこのまま放っておくには心配だ。


「ケイリー様。明日、もし体調がよければ私にお付き合いいただけますか?」

「え?」

「デートをいたしませんか? ここでの取り扱いを庶民向けにした商品を、私が持っている飲食店でも展開するつもりなんです。その準備にいくのですが、移動図書館の事務所にも寄って、甘いものを食べて、気分転換いたしましょう」


 そういえば、ケイリーは申し訳なさそうに微笑んだ。


「ありがとうございます、コーデリア様」


 提案が受け入れられたことに、コーデリアは安堵した。



**



 そんなことがありつつ、コーデリアはめまぐるしい毎日を送っていた。

 そしてコーデリアも常連客の御婦人やニルパマを通じて知り合った御婦人などから夜会への招待を受け、少しずつ顔をだすペースを増やしていった。


 そしてそのような日々の中で店に遊びに来たヘーゼルをコーデリアは店の裏の小部屋に案内した。作業場や倉庫とは別に用意しているこの部屋は商談や少し特別な客人を迎えるための部屋である。


「聞きましたよ、コーデリア様。最近は花の女王だと噂されているそうじゃないですか」

「その噂は……素直には喜べませんね」

「あら、純粋な尊敬として皆言っているだけですよ。男性陣はさぞや羨ましいことでしょう」

「私も、とてもありがたいとは思っているのですが……」


 ですが、の続きは『できれば少しだけ手加減してほしい』だ。

 夜会での令嬢たちとの交流は、見事に商品の宣伝の場になり、コーデリアは毎回身動きがとれなくなるほど、大勢の令嬢に囲まれている。そして、それ故に呼ばれはじめたのが先程のヘーゼルの言葉である『花の女王』だ。

 おそらく精油のことやパメラディア家が植物に対する魔術を得意としていることもあるのだろうが、どうにもこうにも言葉が仰々しい。できればもう少し可愛いらしい言葉をコーデリアとしては希望したい。


「今度、私も花の女王のご様子を拝見しに行かねばなりませんね」

「もう、からかわないでくださいませ」


もちろん自分を歓迎してくれていることは嬉しいし、商品に興味を持ってもらえることは嬉しい。さらに、商品を愛用してくれている様子が見られるなんて、この上なく嬉しいことだ。


「でも、お店の中の女性たちを見て不思議に思いました。精油を混ぜるといろいろな香りがするのに、いろいろな種類の香油や香水を使っている女性たちが集まっても、あまり香りが混ざるような風には感じませんね」

「それは魔術のおかげですね」


 色々な香りが混じれば、むせ返るような匂いになる危険もある。だからコーデリアは店の化粧品にはベースになるものにほかの香りが近くにある場合はあまり遠くに香りを飛ばないよう、引き戻すような魔術を施している。ベースごとに、互いの香りが空気を挟んで磁石の同極で反発しあうようなイメージに近い状況だ。そして同時に、香りが弾き合っても急に使用者にとってその香りが強くならないように、濃度の調節も同じく魔術でおこなっている。急に香りが濃くなってしまったら、使用者ののどや鼻が驚いてしまう可能性も高い。


(術式を考えるのは簡単ではないけれど……この世界に魔術があって本当によかったわ)


 そして、使える家に生まれたことをコーデリアは心から感謝した。

 前世の知識があるからこそできることを、今生の力がなければできないということと組み合わせて考えるのは、とても楽しいし、うまくいったときの喜びはひとしおだ。


(ただ、私が知らないご令嬢たちの興味を知るためにも質問攻めに合うばかりではなくて、歓談に混じりたいのよね……。もう少し落ち着けば、それも叶うかしら)


 投げかけられる質問の方向性からも興味を窺うことはできるが、それはすでにコーデリアが作ったものの好みがほとんどだ。新しい何かを考えるのであれば、できればやはりご令嬢方からの話ももっと聞きたいと思ってしまう。


「ところで、コーデリア様。運命の相手探しはいかがですか?」

「うっ、運命の、ですか」

「あら、動揺なさいました?」


 咄嗟に出た反応に機嫌をよくしたヘーゼルにまじまじと見られながら、コーデリアは軽く咳ばらいを行った。

 確かにそのつもりで夜会に出陣したのだが――現在の所、そちらの成果はよろしくない。

 というのも、そもそも花の女王と呼ばれるようになってしまった通り、男性と話すタイミングがなかなかない。時折女性たちの合間から男性も話しかけてはくれるのだが、その場合は大概商談をしたいという申し出のようなものだった。


(まあ、そのあとのお約束で親しくなることもあるかもしれない……けど、今はあくまで本当に商談よね)


 商売に関する情報はコーデリアにとってもありがたいもので、エルヴィスの役に立つことができることもあるかもしれない。そう思えば決して悪い状況とはいえず、当初の目的のひとつであった婚活は少し現状からは遠ざかってしまっている。


 ただ、コーデリアも最初の気合を空回りさせてしまったとは思うものの、今はまだそこまで焦っているというわけでもなかった。幸いにもこの世界の初婚年齢は幅広く許容されている。せっかく成人したのだから出会いを増やしたいと思う気持ちは本物だが、それは待っていても出会いなどやってこないと思っているから機会を作っていきたいとの思いが強いのだ。


(それに、その、できれば一緒に長い間いたいし……焦ってしまうのも、ちょっと……)


 あとは、積極的に出会いの場を増やしたいと思う反面、どうしたら思い合うような流れになるのか、コーデリアには未知数だ。


「のんびりと、考えさせていただきますわ」


 何人かからは個別に商談の申し入れも受けている。そこで雑談をすることもあるかもしれないし、そうなれば分かることがあるかもしれない。


「わかりますわ、コーデリア様……そのお気持ち」

「え? ありがとうございます」


 何も言っていないのにこのなんとも表現しがたい心が伝わったのだろうか――? そうコーデリアが不思議に首を傾げると、ヘーゼルは強く拳を握った。


「だって、クライドレイヌ嬢、あのお方の頭は一体どんな作りになっていますの!? いろいろとんでもないお話は聞いておりますよ!」


 そして怒りで叫ぶヘーゼルの姿にコーデリアは自分が思っていることとヘーゼルの想いにずれが生じていることを理解した。燃え上がる空気が見えるような気持ちになりつつ、コーデリアは乾いた笑みを浮かべた。


「まあ……その、実害は……まだ、それほど大きくはございませんし」

「大きくないというだけで実際出ているではございませんか! 彼女を傅いている周囲は一体何を考えていますの!? コーデリア様に失礼な行いをなさったなど……信じられません!」

「落ち着いてくださいませ、ヘーゼル様」


 コーデリアはガネル子爵家の夜会以降、五回夜会に参加している。そしてシェリーに会ったのはそのうち二回だ。夜会は晩餐会でもない限り基本的に参加表明は不要なので、コーデリアも特に親しい場合を除き参加を先に伝えることはしていないし、他人に伝えることもしていない。だからこそ本来コーデリアが出る夜会を予め知ることは不可能なはずなのだが、コーデリアはこれまでに二度、シェリーに遭遇してしまっている。

 その二回はヘーゼルは一緒にいなかったのだが、噂は耳にとどいてしまっていたらしい。


(五回のうちの二回だけなら、充分偶然だとも考えられるのよね。でも、あまりクライドレイヌ伯爵家と仲がよろしくないところを選んでいることを考えれば、話は違ってくる)


 主催者もコーデリアとシェリーのやり取りを知っているからだろう、コーデリアのことは歓迎していたが、シェリーの姿を見た時には表現しがたい表情を浮かべていた。それを見れば、招待したわけではなく誰かの連れとしてやって来たのだろうと想像できる。


(もしもそれが夢のお告げだとすれば、やっぱり厄介な能力だわ)


 今まで自分に関することは全て外れるだろうと予想していたコーデリアにとっては大きな誤算である。

ただ、少々不快な思いはしても、今のところコーデリアは不利益は被っていなかった。

 むしろシェリーの名門伯爵家の令嬢としては不適切である態度や失言をコーデリアは水に流そうとするので、穏やかな令嬢であると周囲からの評判を上げていた。


(ご挨拶の件はカウントしないとしても、無理に私のドレスの裾を踏んで謝罪らしい謝罪をしなかったことや、走って自分からぶつかってきたのに被害者ぶる様子なんて、御友人たちからも距離を置かれてしまうでしょうに)


 被害妄想が強い令嬢だと思ってしまえば、そばにいる自分までいつ責められることになるかわからない――そんな思いもあってだろうか、いままでどちらかといえばクライドレイヌ伯爵家と親交があった家の令嬢も、数人はコーデリアのもとへ挨拶にやってきており、その後シェリーと接触している形跡はない。どうも、見限ったということだろうか。

ただ、それでもシェリーのそばにはまだまだ人がいるというのは、その夢見の力を求める人々がいるからだろう。


「コーデリア様。怒るべき時は本当に怒らなくてはいけませんよ。そうでなければ何をしても怒られないって、きっと彼女は思っていますわ」

「ご心配いただきまして、ありがとうございます。でも……私が静止するような言葉を述べたところで、彼女は聞かないと思いませんか?」

「それは……まあ、彼女には難しそうですが」


そのことをヘーゼルは考えていなかったようで、こめかみに手を当てていた。


「それに、もしもシェリーさんが逆上してしまえば、普通なら到底考えつかないようなことをなさるかもしれません。もう少し、様子を見るのはいかがでしょうか?」

「もう、コーデリア様ったら冷静というか、のんびりしすぎているというか……。でも、もしも彼女がコーデリア様のドレスを破いたりなどいたしましたら、コーデリア様の御意思とは関係なく私が遠慮なく制裁させていただきますよ」

「さすがに、それはないと思いたいです」


 そのような凶行になれば避けたり抵抗できたりできるのではないかとも思うが、コーデリアとしてはそれはさすがにないだろうと予想している。そこまでのことは凶器の持ち込みがなければできないことだし、そもそも今までのドレスの裾を踏むのも、ぶつかるのもゲームの中にあったイベントだ。『ヒロイン』が最初の『コーデリア』に遭遇した後の行動によって、どちらかのイベントが発生するようになっている。

 とはいえ、コーデリアにもいつシェリーが登場するのかはわからない。『ヒロイン』はそんな細かいことまで気にしていなかったような気もするし、言っていたとしてもあくまでライトゲーマーだったコーデリアはそこまで詳しいことは覚えていない。さらに主催者ですら知らないものを知るのは難しい。


(あの様子で招待状のない彼女を連れてくるのは彼女の言葉を信じている方だから私が知ることは難しいし、私に絡んでくるのもいきなりだし……いつも驚かされるわね)


 そして、驚いているのはそれだけではない。


「シェリーさんのご様子ですが、どうも私が関わる場所以外ではそれほど妙には見えないのですが……私の前だけどうしてああなってしまうのか、とても不思議です」


 二年前のシェリーであれば、たとえ相手が伯爵であっても遠慮というものがなかった。だがクライドレイヌ伯爵の教育の成果もあってか、今のシェリーはコーデリアの前を除けば令嬢としてのぎこちなさも特にない、普通の令嬢の様子である。


(そもそも、『ヒロイン』はクライドレイヌ伯爵がのんびりしていたこともあって、まだ社交界に顔を出したときは純粋にしきたりに疎かったのよ。だからコーデリアを怒らせたのだけど……シェリーはすでにほか令嬢と親交も深めているわ)


もしもその令嬢たちとの交流の中でシェリーが無作法なことを繰り返していれば、悪い噂のひとつでも流れたはずである。だが、それはなかった。


(それでもシェリーをよく思っていたようなご令嬢の中にも、私に対する彼女の振る舞いに眉を顰める方もでてきている。彼女との距離を測りなおしているように見えるわ)


 だとすれば、一概にシェリーの行動を放置しておくのもわるいことではない。少しの実害は、実際にはほぼシェリーが自身で被っているだけだ。

 邪魔はされるが、このまま放っておけばシェリーの株が下がり、クライドレイヌ伯爵の耳に届けば外聞を気にした伯爵が何とかしてくれるという可能性もある。

 ただ、だからといって注意が不要というわけではない。やはりゲームで出てくるような行動以外でもやはり何をしでかすのかわからない。


(正しい振る舞いを知っていれば、自らの行動が人にどう映るかなど、少し考えればわかるはずなのに)


 それでもなお、ゲームの再現ともいえる行動を起こそうとしているのは、夢を見て、その夢に何一つ疑問を持っていないからだろうか。


「どうせ自分のほうが優位だと見せつけたいのではないですか?」


もちろん、ヘーゼルにはシェリーの行動が夢に関わるものであるなんて想像すらできないことだろう。コーデリアは苦笑した。


「……もしも彼女が何らかの信念をもって私にだけ特別な対応をされているのなら、それだけ強く思えるものに出会えて幸せなのかもしれないとも思います」

「コーデリア様?」

「ただ、今の状況は褒められませんし、空気が壊れてしまうことは申し訳なく思いますが」

「本当に、その通りですわよ。人がいいというのも大概になさいませ」


 そうして溜息をつくヘーゼルは深く心配してくれていることがわかり、コーデリアも申し訳なくなる。


(……正直、シェリーの評判がさがっているうちはまだいいわ。でも、私も同情を寄せられているうちはまだいいにしても、妙なトラブルの原因だと思われてはマイナスになる)


 今はまだかまわないとしても、やはりシェリーからの攻撃がいつ止むかわからない現状では避ける方法を探していくことも必要だろう。


「では、リフレッシュに参りましょう」

「え?」

「私の親戚に、ハールシ家がございますの。夜会は伯母様か伯父様の知り合いしか入らない、内々の会なのですが、コーデリア様にもぜひお話したいと、伯母は常々言っておりますわ。私のためにも、来ていただけませんか?」


 コーデリアはその家名に、思わず目を瞬かせた。

 ハールシ家は、成人の宴で挨拶をさせてもらった以外にも、コーデリアが十二歳の時にニルパマが対抗心を燃やしていた女性の家名でもある。当時伯母が大変いい笑顔を浮かべていたのは覚えている。おそらく呼んで欲しいというのは精油の関連であることは間違いないと思うが、顔を合わせたのがその二回であっても言い分は充分成立しているということなのだろう。


「およびいただけるのでしたら、ぜひ」

「ありがとうございます。そうだわ、せっかくですからケイリー様もお誘いして、一緒に楽しみに行きましょう!」

「え、えぇ。でも、ケイリー様はあまり夜会がお好きではないのでは……」

「これから必要な時も出てきますわ。小規模ですし、慣れるにはきっといい場ですから! きっと楽しくなりますわ」


 ヘーゼルはいいことを思いついたとばかりに、すでにケイリーが参加することは決定済みだといわんばかりの勢いだ。その様子にコーデリアはすぐ戸惑うケイリーを思い浮かべてしまったが、絶対に断ることはできないだろう。

 ただ、それはただ単にヘーゼルの積極性に押し負けるだけではなく、ケイリーも必要になることはわかっているだろうから……ということもきっとあるのだろおう、と思ってしまった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドロップ!! ~香りの令嬢物語~ 書籍版 (全6巻発売中)コミカライズ版
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ