第六十四幕 新たなる旅立ち
帰宅したコーデリアを向かえたのは、予想外の人物だった。
「聞いたわよ、コーデリア! もう、大変な目に遭ったのね!!」
出会い頭に挨拶もままならない状態でコーデリアを抱きしめたのは、伯母であるニルパマだった。
「お、伯母様……」
「あら、また綺麗になったのかしら? 相変わらず自慢の姪に成長してくれていて嬉しいわ。でも、面倒なことをお疲れ様だったわね」
「あ、ありがとうございます」
相変わらずはきはきとした声を発するニルパマからは、聞かずとも元気そうなことが伝わってくる。コーデリアの返事に満足そうに頷いたニルパマは、しかし少し考える様子を見せた。
「けれどそんなことに巻き込まれるなんて……それで助かった子がいるのはいいことだけど、伯母としてはもっと早く迎えに来ればよかったわと思ってしまうわね。――って、結局サイラスの結婚式が終わらなければ変わらないわね」
「お迎え……ですか?」
何の話だろう? 特に出かける予定など聞いていないのだが――と思うと、ニルパマは目を瞬かせていた。
「エルヴィス様から聞いていないの?」
「あの、父が何か?」
「うーん、聞いて居ないなら私から言っても問題はないわね。そうね。……ねえ、コーデリア。貴女、成人まで私のもとで令嬢修行の仕上げをしない?」
そんな唐突な申し出に、コーデリアは目を丸くした。
***
詳しい話はエルヴィスの帰宅を待ってから、ということで、その夜は三人での食事となった。そして食事が始まると無表情なエルヴィスに対し、ニルパマは笑みを深めて問いかけた。
「ねえ、エルヴィス様。コーデリアにまだお話してくださっていないとはどういうことかしら?」
「別に急ぐ話ではあるまい」
「三カ月ですよ、三カ月。その間話す暇がなかったということはありませんでしょう?」
にこにことしたままでも少し棘のある声に、まずは落ち着いてほしいとコーデリアは声をあげたかった。それでも実際に言えないのは余計に火に油を注ぎかねないという思いからだ。
「この子の姉も優秀だったけど、苦労したのは覚えていらっしゃるでしょう?」
「……」
「それとも、コーデリアにも苦労をさせたいというの?」
「……」
一向に勢いを落とす気配を見せないニルパマは、やはり非常に立腹していた。しかしエルヴィスがコーデリアに言わなかったのも、慣れない土地での生活を心配したゆえのことだろうとコーデリアは思う。
しかしニルパマにはそのようなことなど関係ないのだろう。
いや、むしろコーデリアのことを心配しているからこそ誘いをかけているのはわかる。
「女性同士の戦――ではなくて駆け引きは、男性同士のそれとは少し異なるわ。私も領内でなら王都と違って勝手も利くし、ほかの領主にご挨拶に行くついでに奥方に顔を売ることだってできるわ。この子が精油で勝負したいというなら役に立つと思うし、そもそもエルヴィス様も多少は丸くなっても人付き合いは悪いんですから」
「……」
「エールゥーヴィース様、聞いていらっしゃいますか?」
「……聞こえている」
その反応から、エルヴィスも考え自体には賛成しているのだろう。
「コーデリア、お前の好きにするといい」
やがてやや面倒そうな口調でエルヴィスが出した答えはその一言だった。
しかし任せると言われても突然すぎるし、そもそも詳しい話はまだ何も聞いていない。
「あの……どのくらいの間、お邪魔させていただけるのでしょうか?」
「私はずっといてくれても……って、エルヴィス様、そんなに睨まないでくださいな。そうね、成人のお祝いはこちらでしたほうがいいかと思うから、それまでの間かしら?」
その期間はコーデリアが想像したより長かった。
コーデリアが戸惑うのを見越してだろう、ニルパマは言葉を続けた。
「コーデリアはいろいろしていると思うから、即答は難しいと思うわ。でも、前向きに考えてくれると、貴女にもいい結果がやってくると思うの」
ニルパマの言葉はもっともだと思う。
エルヴィスから学んだことや、家庭教師から学んだことも必ず役に立つと思っているが、パメラディア家で手本にすべき女主人の姿を見ることはない。母親に花を贈りだしてからはや二年、突っ返されたとことはないが言葉を交わすこともやはりない。しばらく領地へ赴いていた折には花の催促があったということもあるらしいが……今のところ表舞台に立つ様子はない。
(手本がなければ、初めての社交界でお姉様が苦労なさったというのも理解できるわ)
覚えてきたことを実践するだけ、なんて言葉で片付ければ簡単かもしれないが、知識と実際の状況を合わせることが大変な場合があることも知っている。
「……」
それなら、答えは決まっている。
「伯母様、ご指導をお願いさせていただいてもよろしいでしょうか?」
これはまたとない誘いだ。
二年間、シェリーのことを気にかけながら王都で過ごす選択肢もないわけではない。シェリーは夢占いを続けるかもしれないが、成人までは表だって社交の場にでてくることもないはずだ。
(子供たちの間でなら、シェリーより私のほうが面識が広い。明らかな嘘を並べられても、おそらくはまだ大丈夫だわ)
むしろ心配になるのは成人後、堂々と大人の社会に足を踏み入れたあとのことだ。
妙な噂を並べられてはたまったものではないが、もしそのようなことがあってもそれを払拭できるだけの、誰からも一つの文句も言われないような振る舞いができれば問題を収めるための手段の一つにはできるだろう。
(王子様に迷惑をかけている令嬢、なんて噂はご免だわ。そもそも、近づかないようにしているのだから)
正直なところ、彼女とシルヴェスターがうまくいくなんてことは今のところコーデリアには想像なんてできもしない。だからゲームの中のコーデリアのように、シルヴェスターとシェリーの熱愛に嫉妬を募らせ魔術を発動させることなんて起こり得ないと思っている。……もっとも、嫉妬のためにはシルヴェスターに惚れなければいけないのだが、本能的な恐怖の対象でこそあれ、憧れを抱くには至っていないのだが。
それでもシェリーにわけのわからない言動を振りまかれるのはご免だ。
(厄介事を抱えた令嬢なんてなれば、家族に迷惑をかけることになる。それに、それだけじゃなくて――私が将来結婚することだって難しくなるかもしれないじゃない……!)
そう――恋というものを経験したいとの思いは今もある。
少なくとも記憶の中で恋というものの経験がないのだから、経験したいと思っているのだ。
大人になれば出会いの機会も広がると思っているのに、このままでは王子とシェリーを避けようとしていてもシェリーが突っかかってくる可能性が排除できない。まったく興味がないので近づかないでほしいと心のそこから思うのだが、現状でそれは期待薄だ。
当初の予想とは違う意味で、シェリーはコーデリアに取って危険な相手だ。
いまは戯言の範囲だが、信じられるかどうかは別として、ヒートアップして王子を嵌める気だと濡れ衣を着せられる可能性もゼロではない。このままではいずれ、互いに決着をつける必要も生じるかもしれないが――その時のためにも力をつけるべきだろう。
ただし、コーデリアとしては極力穏便にことを進めたいとは思っているのだが。
「誘っているのはこちらだもの、もちろんよ。でも、もう決めてしまっていいのかしら?」
「少し準備させていただくことがありますので、時間はいただきたく思います。ひと月ほどでも問題ありませんでしょうか」
「ああ、そうね。大丈夫よ。でも、もう少し余裕をみてふた月にしましょうか。でも、楽しみだわ、コーデリアが来るのは」
部屋もきちんと整えておくからね、と、先ほどまでのニルパマの怒気はどこかへ消えてしまっていた。むしろその声は弾んでいた。
「エルヴィス様も黙ってないで、送り出す激励の言葉はないのかしら?」
「……まだ行かんだろう」
「もうっ、何回だって言ってもいいじゃない」
それでもニルパマの楽しそうな声は隠しきれていなかった。
それだけ可愛がられていることはコーデリアにとってはとてもありがたいことだ。ニルパマから領地の話を聞きつつ食事を勧めていると、エルヴィスが不意に口を開いた。
「私からも一つ話がある。結婚を期にサイラスは騎士団を退役し、エルディガでしばらく暮らす」
「あら、急……でもないかしら。代行のジーク様からいろいろ学ぶということなのね」
同じく初耳であっただろうが、コーデリアとは違いニルパマに対して驚いた様子はなかった。コーデリアは知らなかったが、前々から決まっていたことではあるのだろう。
「……近衛第一部隊の副隊長は第二部隊の副隊長が引き継ぐらしい」
「あら、では第二部隊後任は……」
「ああ、イシュマだ。第一部隊の後任にとの話もあったそうだが、まずは慣れている部隊のほうがいいだろうということで落ち着いたようだ」
そのことに関してはニルパマも少し意外そうな声を出した。
「伝聞……ということは、エルヴィス様やサイラスが推したというわけではないのですね」
「私が今更軍部に口出す必要はない。サイラスも反対したわけではないが、推したわけではないようだ。実力は認めているが、能力があっても世襲だと思われることで面倒があるのはよく知っている」
兄たちが以前二人揃って話していたのは、もしかしてこれのことだったのだろうか。
いずれにしろ、パメラディア家に大きな変化が訪れる季節になることは間違いない。
「でもサイラスがいなくなって、コーデリアもこちらに来ればここは少し寂しくなりますね」
「すぐに戻る」
間入れず口を開いたエルヴィスに、ニルパマは肩をすくめた。
「コーデリアはお嫁入りが大変そうね」
「まだ早い」
「それとも婿をもらうために、うちに来る?」
「それも同じだ」
「もう、こういうことだけは早く反応なさるんですから」
エルヴィスは一貫して無表情のままだったが、ニルパマは完全に楽しんでしまっていた。
***
「と、いうわけである程度落ち着けば、しばらく私はウェルトリア領に向かうことになりました」
それから数日後、屋敷にやってきていたヴェルノーにコーデリアは簡単に事情を説明すると、彼は紅茶を飲みながら少し驚いて居た。
「突然だな。いや、伯爵が聞いていたなら急でもないんだろうけど……それは寂しくなることだな」
「あら、別れを惜しんでくださいますの?」
「ああ、今日食べたザッハトルテがしばらく食えないとなると惜しくてたまらない。ということでもう一切れいただくぞ」
しんみりとした発言は珍しいと思っていれば、やはりそっちかと言わざるを得なかった。ヴェルノーからのそのような言葉にはすべて裏があると思っても間違いではないかもしれない。
「移動図書館のことは気にしなくていい。引き継ぎさえすれば俺が適当に役を割り振っておく」
「ありがとうございます。言い出した者が抜けるとなると、気は引けますけどね」
「誰かさんのおかげで誰が抜けても大丈夫という状態にはなっているから、問題ないだろ」
「お褒めいただき光栄です」
そう返すと、二切れ目のケーキに手を付け始めたヴェルノーは肩をすくめた。
「そういえば、クライドレイヌ嬢は少々気難しいらしいな」
「クライヴ様からお聞きになられたのですね」
「珍しく俺以外に苛立っていたからな」
そんなヴェルノーの物言いに、今度はコーデリアが肩をすくめざるを得なかった。
「……もう少しクライヴ様をいたわって差し上げてください」
「善処するさ。いや、してるさ」
「なさっていません」
「まあ、何かあれば連絡はするが、今のところ優秀な家庭教師を探している最中のようだからな。……それとは全く別件になるが、出発前に引き継ぎとは別に一日、時間をとることはできないか?」
「え? ええ、できますが」
「ではジルも呼んで、壮行会という名のお忍びでも敢行しよう。もちろんディリィはロニーを連れてこればいいさ」
その堂々とした宣言に、コーデリアは笑ってしまった。それはまったく忍ぶ気のないお忍びではないか。しかし、コーデリアは笑顔で頷いた。
「ありがとうございます。門出をお祝いいただけて、嬉しく思います」
そのコーデリアの答えにヴェルノーは口の端を吊り上げた。
***
そして旅立ちを翌月に控え各種引き継ぎや旅の準備もあらかた整ってきた頃、コーデリアのもとへフラントヘイム家からのお迎えの馬車はやってきた。馬車にはヴェルノーとジルが乗っていた。
行き先は当日のお楽しみと言うことで聞いていないのだが、お忍びというのなら城下町になるのだろう……などと思っていたのに、気づけば城壁の外に出てしまっている。
「……オウルにでも向かうのでしょうか?」
「まあ、ついてからのお楽しみだな」
そのいい方から察するに、行き先はオウルではないらしい。
「ヒントだけなら、ジルが選んだところだと言っておこう」
「あら、ジル様が」
「……」
ロニーを連れているので対面にヴェルノーとジルが座っているのだが、今日のジルは静かで窓の外ばかり見ている。
「ジル、今から心配しても場所は変わらないんだから落ち着けって」
「べ、別にそんな心配しているんじゃなくて……」
「ったく。緊張で気分が悪くなったとか酔ったとか言わないでくれよ」
肩をすくめるヴェルノーに反論らしい反論をしないまま、ジルは再び窓の外を見た。
今日のジルは口数がいつもより少ない。それほど考えてくれていたのならついた場所がどんなところでもとても嬉しいとコーデリアは思う。
「ジル様が選んでくださったなら、安心ですね」
「ディリィ、それプレッシャーだぞ」
失礼な。
しかしそのジャッジをすべきジルは外を見たままなので、どう感じているのかコーデリアからは窺えなかった。
(でも……それなら、私は到着まで窓の外は見ない方がいいわね)
せっかくジルが考えてくれた場所なのだ。
きっと到着までは見ない方が、驚きだって大きくなるはずなのだから。
そうしてジルが外を見ている間、コーデリアとヴェルノーはたわいない話を交わしていた。そのうちに時間はいくらか過ぎ、馬車がゆっくりと停車するとヴェルノーとジルが先に下車し、コーデリアもゆっくりと地面に降り立った。
その場所は色とりどりの花が咲き乱れる草原だった。
花の色は淡いものもあるが、原色のものも混じっていて非常に華やかだった。
「すごい」
茎の背丈はひじから指先ほどの高さで、花は八重咲だった。不思議に思いながらも身をかがめて花に近づけば、小輪の花からはふんわりとした香りが鼻孔をくすぐった。よく見ればところどころにカスミソウのような本当に小さな花も入り混じっている。
「気に入った?」
「ええ、とってもとても素敵な景色です」
僅かに水の音が聞こえてくることから近くに川も流れているのだろう。
時折小鳥の鳴き声も聞こえる、非常に穏やかな場所だった。
「この辺りの話をしているのは聞いたことがなかったから。もしかして、と思って」
「ありがとうございます」
「ジル、ディリィ。適当に散策してこいよ。俺はちょっと休憩してる」
ヴェルノーはそういいながら木陰を陣取り腰を下ろした。そよぐ風が気持ちいいので、その場所なら確かによい昼寝もできるだろう。
「……ですが、来たばかりで休憩とはどういうことですか、ヴェルノー様。それにまだお昼前ですよ」
「寝不足なんだ、ここだとよく寝れそうだし。ああ、でも心配しなくていいよう、見える範囲にはいてくれよ」
寝ていれば見える範囲だろうが何だろうが関係ないと思うのだが、単に興味がないので勝手にしてくれという意味なのだろうか。しかし興味がないにしても、ジルと共にここまで連れてきてくれたことや、それだけの時間を割いてくれていることには感謝がある。
「ではジル様、少し歩いてもよろしいか?」
「ええ」
「ロニーは……」
「俺もここにいます。魔物の気配はありませんが、見える範囲にはいてください」
たしかに一緒に行動してもロニーは会話には参加し辛いだろう。ここでしばらく休憩してもらうのも悪くはない。
「気が合ったな。なかなかこの木陰はいいところだぞ」
「……」
(いえ、ヴェルノー様。その隣ではロニーは安らげないでしょう)
他にも適度に離れたところに木はあるし、この木に限定しなくてもいいのだが、いずれにせよロニーには断りにくい話である。これはロニーのためにも早めに戻ってきた方がいいのかと思う反面、せっかくだから満足するまで楽しみたいとの想いもある。
(ロニー、ごめんなさい。ちょっとだけ待っていてね)
ロニーだってそれくらいのわがままは聞いてくれるはずだ。
ジルと共に草原を歩くと、場所により一重咲きの花も目についた。
「これは、なんという花なのでしょうか」
「ルグという花だよ。勉学にも武術にも、お守りになる。それが転じて、知恵と武の両方の加護が得られる、旅人をお守りともされていた時代があるんだ」
「それで、私をここに……?」
首を少し傾げると、ジルは照れくさそうに笑っていた。
「母上からの受け売りなんだけどね。母上が押し花にここの花をよく使うんだけど、育っているのはこの土地の魔力のせいなのか、移植しても上手く育てるのは難しいらしくて。だからディリィも見たことないかと思ったんだ」
「ありがとうございます」
やっぱりジルが選ぶところに間違いはない。それをコーデリアは再認識してしまった。
「これほど愛らしい花ですもの、ジル様のお母様が望まれるお気持ち、よくわかります。……移植できたら尚素敵ですのにね」
「うん。でも母上も多分本気で移植する気はないんだと思う。成功してしまえばここへ来る理由がなくなってしまうから」
「確かにこの場所はとても安らぎますし、また来たいと思ってしまいますね」
少し背伸びだってしたくなる、本当に穏やかな場所だ。
庭で眺めても綺麗な花だろうとは思うが、ここだから余計に綺麗に見えるということだって考えられる。
「じゃあ、場所は言わないでおこうかな」
「え?」
教えるじゃなくて?
珍しく少し意地の悪い言葉にコーデリアは首を傾げた。ジルは笑っていた。
「王都に帰ってきたら、私に知らせて。そうすれば、私がまたここを案内するから」
ジルの言葉に目を丸くし、それからコーデリアは小さく笑った。
「……もう、少し驚いたではありませんか」
「ごめん」
「謝らないでください、遠慮なく案内をお願いさせていただきますから」
「じゃあ、約束。ディリィにしばらく会えないのはやっぱり寂しいね」
先日ヴェルノーが言ったのとは異なる様子に、コーデリアは一瞬反応が遅れた。純粋にそう思ってくれているのはわかるのだが、それに応える言葉がすぐに見つからなかった。あとは友として惜しんでもらうことは嬉しい反面、真っ直ぐな言葉を受け止めるのは恥ずかしい。しかし、何か答えなければ沈黙が続いてしまうかもしれない。
「立派な、とても立派なレディになって戻ってきます。ですから、驚いてくださいね」
「ディリィは充分立派なレディだと思うけど、その意気込みなら私も負けないように励むとしよう。あちらはこちらと少し気候が異なると聞いているから、体調には気を付けて」
「ええ、ジル様も。……ジル様、どうかなさいました?」
なぜかジルが何か言いたそうにしているように感じてしまい、コーデリアは尋ねてみた。
しかし、ジルはしばらく無言を保った後、首を軽く横に振った。
「いや、なんでもないよ。ここの花は切り花にしても綺麗だし、簡単にドライフラワーにもなる。だから、帰る前にディリィに似合う花を少し摘んで帰ろう」
「はい、ありがとうございます。では、今からその花を見繕わないとですね」
「そうだね。時間はまだたくさんあるし、お昼も持ってきてるから。フラントヘイム家のハムサンドはとても美味しいんだよ」
「まあ、それは楽しみですね」
ジルが言った『なんでもない』は、きっと本当は何かがあるんだろうとは思う。
しかし、ジルが言いたくないのなら無理に聞きだすことではないのだろう。
「本当に、無理はしないで。でも、ディリィの目的が果たせることを祈ってる」
「ありがとうございます」
こうも応援してくれる友人たちがついているのだ。
目の前のことに全力で当たっていこう、そう、コーデリアは決意と共に満面の笑みを浮かべた。
ドロップ!!4巻、2017年9月12日(火)発売します。
よろしくお願いいたします(書影等、詳細は活動報告にて)
コミカライズ、9月に入り2話更新中です、こちらもよろしくお願い致します。
なお、次幕からちょっと成長予定です。




