「片目の娘と見つけた希望」
これは、私の家族の一部始終。
夫と、長女と、私――それぞれが「見えないもの」と向き合いながらも、小さな希望の光を見つけてきた。
手術の日、病室での夜、そして訓練の日々。
心が痛くて、でも温かかった時間を、少しずつ綴っていきます。
手術室の扉が開き、ストレッチャーに乗せられた長女が出てきた瞬間のことを、私は一生忘れないだろう
思わず駆け寄ろうとした私の手を、夫がそっと握って止めた。
それは、たぶん彼なりの「落ち着いて」というメッセージだったのだろう。
でも、その手は震えていた。
ストレッチャーの上の長女は、まだ完全には麻酔が抜けきっておらず、目も虚ろで、頭を左右に小さく振りながら、「いたい……あたま、いたいよ……」と何度も泣いた。
「大丈夫だよ。もうすぐ痛いの取れるからね。頑張ったね。」
私は涙をこらえながら、何度もそう声をかけた。
だけど心の中では、自分を責める言葉しか浮かばなかった。
本当に、これでよかったのかな。
痛い思いをさせてまで、希望を託してよかったのかな。
やがて麻酔が抜け、長女の表情にも少しだけ安堵の色が戻ってきたころ、病室での時間が始まった。
夫と長男は、面会時間ぎりぎりまでいてくれた。
「なにそれー、ダサっ」
「パパの寝癖、鳥の巣みたいじゃん!」
いつものように、くだらないことで笑って、じゃれあって、まるで普通の夕方みたいに過ごした。
その空気が、何より長女を安心させていた。
そして面会時間が過ぎ、夫と長男が帰ると、病室には私と長女、ふたりきり。
なんとか気を紛らわせようと、私はスマホでYouTubeを開いた。
「これね、ママが子どものころ好きだったアニメなの。見てみる?」
そう言って見せたのが、今思えば彼女の“沼落ち”の始まりだった。
長女は真剣な表情で見入っていたけれど、笑った顔は確かにそこにあって、私はほっとしていた。
その夜は、病室の小さなベッドで寄り添いながら、ふたりで静かに眠った。
そして数日後――
ついに右目を覆っていた包帯が外される日がやってきた。
「どうかな……見える?」
私は不安を押し隠しながら問いかけたが、長女は小さく首を振った。
まだ、あまり見えない。
それが現実だった。
医師は、「今後、少しずつの回復の見込みはある」と言ってくれた。
そのための訓練として、見える左目に眼帯をして、あえて右目を使う時間を1日1時間作ることになった。
けれど、そう簡単にはいかなかった。
「見えないの、イヤ!」
「こんなの、やりたくない!」
眼帯をつけるたび、長女は泣いて嫌がり、すぐに外してしまう。
訓練が苦痛になってしまう前に、何とかしてあげたいと思いながら、私はそっと長女の背中を撫でた。
「……いいよ。焦らなくて。ゆっくりでいいんだよ。」
私たちにできることは、寄り添って待つことだけ。
回復の光はまだかすかだけど、それでも希望の灯は、消えていなかった。
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最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
あの手術の日を思い出すと、今でも胸が締めつけられます。
でも、あの瞬間を通じて、私たち家族はまた少し強くなれたのだと思います。
読んでくださるあなたが、誰かの気持ちにそっと寄り添ってくれるような、優しい方であることに、心から感謝します。
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