「ただ謝るだけでは守れないものがある」
幼稚園で起きた、思いがけない出来事。
子ども同士の関わりの中で、思わぬトラブルが起こったとき、親としてどう向き合えばいいのか。
「謝るだけでは、子どもの心は守れない」
そう感じた、私たち家族の小さな記録です。
※実際のエピソードを元にしていますが、登場人物や詳細はフィクションを交えて構成しています。
家に帰って、少し落ち着いた長男に理由を聞いた。
すると、彼は泣きながら、言葉を詰まらせながらも、一生懸命話してくれた。
あの日、長男は幼稚園の隅でしゃがんでダンゴムシを見ていたらしい。
その時、後ろでプリキュアごっこをしていた女の子が、突然長男を“悪者役”にした。
ふいに背中を叩かれ、「やっつけてやる!」と攻撃された。
驚いた長男は、咄嗟に振り向いて、反射的に女の子を強く押してしまった。
その拍子に女の子は倒れ、運悪く足をぶつけてしまい、縫うほどの怪我を負わせてしまった――と。
長男は、泣きながら「びっくりして…ごめんなさい…」と繰り返していた。
私は、その小さな肩を抱きしめるしかできなかった。
正当化する気はない。どんな理由であれ、人を怪我させてしまったことには変わりない。
それでも、彼なりに恐怖と驚きの中で取った行動だったことを、私は理解したかった。
後日、幼稚園での話し合いの場。
相手のご家族、先生方、そして私たち夫婦。
私は、精一杯の気持ちで頭を下げた。
でも、夫は違った。
怪我をさせたことについては、きちんと謝罪した。
けれど、「本当に申し訳ありません」と深々と何度も頭を下げることは、しなかった。
「もちろん、怪我をさせてしまったことは反省しています」
「でも、息子にも事情があったようです。どうか、それも踏まえてお話しさせてください」
夫は、決して言い訳をしたわけではなかった。
相手の怒りや悲しみを受け止めたうえで、息子をただ一方的に“加害者”にしないよう、冷静に向き合おうとしていた。
その姿に、私は戸惑いながらも、心を動かされた。
謝罪と、子どもの言い分の尊重――
どちらか一方ではなく、両方を大切にすること。
それは時に、難しく、勇気がいることだった。
でも、子どもの心を守るために必要なこと。
その姿勢を、私は夫から教えられた気がする。
もちろん、怪我をされた女の子とご家族の思いは別で、大切にしなければならない。
私たちの「事情」は、言い訳に聞こえるかもしれない。
それでも私は、子どもをまっすぐ見つめ、向き合うことを、やめたくなかった。
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最初は「とにかく謝らなきゃ」と思っていた私が、夫の冷静な姿を見て、立ち止まって考えたこと。
謝罪とは何か、子どもの気持ちをどう守るか――親としてまだまだ未熟ながら、今も模索しています。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。
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