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「大丈夫って、あなたに言いたかった」

子どもの成長を見守る中で、ふと、自分の過去に触れてしまう瞬間があります。

今回のお話は、長男の姿に重なる「弟」との記憶、そしてその記憶に縛られていた私自身の心と向き合う時間を描きました。

少し重たい内容かもしれませんが、どうか静かに読んでいただけたら嬉しいです。

長男の寝顔を見ながら、私は静かに自分に問いかけていた。


 ――私はまだ、やり直せるだろうか。  この子のために、今からでも向き合い方を変えていけるだろうか。


 そんなふうに悩み続けていたある日、ふと気づいたことがあった。


 長男が成長するにつれて、彼の中に、誰かの面影が重なるようになったのだ。

 顔も、性格も、ずっと夫に似ていると思っていた。けれど――


 人に誤解されやすい行動。

 じっとしていられないこと。

 感情のままに動いてしまうところ。


 その不器用さが、私の二歳年下の弟にそっくりだった。


 あの頃、小さかった私たちは――

 母の機嫌ひとつで、世界が一変するような日々を生きていた。

 怒鳴り声、暴言、叩かれる音。

 泣いても、叫んでも、誰も助けに来てはくれなかった。


 弟が泣いていると、私はいつも彼をかばった。

 でも、かばえばかばうほど、私が殴られた。

 小さな腕では、彼の体も、心も、守りきれなかった。


 弟は、その後、思春期を迎えるころには荒れはじめ、

 高校も途中で辞めてしまった。

 今は家庭を持っているけれど、定職にはつかず、

 体も、タバコの吸いすぎでどこかいつも弱っている。

 心に影を落としたまま、彼は今も、どこか彷徨っているように見える。


 私は、あのとき、彼を救いたかった。

 ぎゅっと抱きしめて、「大丈夫だよ」「愛してるよ」と言ってやりたかった。

 でも、それができるのは本当は母の役目で――

 私じゃ、どうしても足りなかった。


 だから私は、いまでも弟のことを思い出すたび、

 胸の奥が、じくじくと痛むのだ。


 そして気づけば、長男と弟を重ねて考えてしまう。

 もし、私があの頃の弟を育てていたら。

 ちゃんと愛して、ちゃんと寄り添って、安心できる居場所を作ってやれていたら。

 弟は違う未来を歩んでいたのだろうか――と。


 そして、私は思ってしまうのだ。

 長男を育て、彼が幸せになることで、弟の人生の欠片まで報われるのではないかと。

 そんなこと、きっとただの自己満足だとわかっているのに。


 けれど、それでも。

 私は、あのとき守れなかった弟の分まで、今のこの手で、

 長男の心を守りたいと思ってしまう。


 それはきっと、私の願いであり、祈りだった。



---


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

弟のこと、母との関係、そして今、長男と向き合う私の気持ち――

書きながら、ずっと自分の中の痛みと対話していた気がします。


誰かを愛するって、過去の自分も一緒に抱きしめ直すことなのかもしれません。

こんな私の言葉が、どこかで誰かの心にそっと寄り添えたら幸いです。


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