第53話 修練場の戦い その8〜厳粛に魔王のおっぱいを揉んでみたい!〜
【……ん?】
突っ込むべきかどうか逡巡していた僕の視界の片隅に、何か白く綺麗なものが写っているのに気づき、そちらに視線を向けると、なんと「白鳥の湖」のプリマドンナがいた。いや、いたのはリプルで間違いないんだけど、彼女が翼を優雅に動かして、オデットのごとく踊っていたのだ。戦いの真っ最中にどうしちゃったんだ!?
【魔王、そんなくだらない話は置いておいて、リプルに気をつけてください! 妙な動きをしています!】
「おお、勝利の美酒への強い動機に関する崇高な議論でつい我を忘れていたわ!」
そんな感じじゃないだろうと突っ込みたかったが敵の意図がわからず僕はリプルの一挙一投足から目が離せなかった。人間とは異なる姿の彼女ではあったが、むしろそれ故にか信じられない可動域を持って上げる腕や脚の動きは翼や魚足の効果とも相まって幻想的だった。てかやばいくらい魅せられている!
「な、なぜ目をそらすことが出来ないんだ!?」
どうやら魔王もリプルに釘付けの様子だが、これは……!?
「ハハハ、これぞセイレーンの誘惑の踊りガオ! 彼女の魔性の催眠術はまずは視覚から脳を支配していくんだガオ! もうこれでそちらに勝ち目はないガオ! ご愁傷様ガオ!」
さっきまで絶望の底にいたはずのメディットがすっかりやる気と自信を取り戻して、尊大に構えている。どうやら気分変動が乱気流並みに激しそうだ。
「クッ……あのやり取りは時間稼ぎだったわけか、メディット!」
「悪く思うなガオ、魔王様。これも作戦のうちガオ。リプルの魅了攻撃は発動まで時間がかかるのが欠点だけど、いざ起動すると効力は絶大ガオ! あきらめて軍門に下るガオ! そしてボクに母乳を飲ませるガオ! 母乳! 搾乳! 授乳ーッ!」
形成逆転を確信した腐れ軍師は好き勝手なことを言い出し始めた。てか本っ当に母乳好きだなおい!
「それは無理な話だ。何故なら我はまだ母乳が出ないからだ!」
「じゃあ予約だガオ! 初乳は貰ったガオ!」
【いい加減に母乳から離れろ! それにまだ勝敗はついていない!】
とうとう我慢出来ずに突っ込み砲を発射してしまった。でも、多分僕は悪くない……と思う。
「なかなか強気な様子だが、もはや大勢は決したガオ! ではリプル、ここで一曲頼むガオ!」
「はい!」
悠然と顔を上げた水魔は、聞く者を海底に引きずり込むという魔の歌の熱唱を開始した。




