第113話 さよならおっぱい その6
「ムネスケよ、今から話すことはそなたの痛みを和らげてくれるかどうかわからないのだが、一応言わせてくれ。この世界の生物は、そなたに限らず、皆何らかの形で地球の生命体の写し身なのだよ。紅い月光の神秘的な魔力によって命の宿った我々は、種族は異なれど地球の生物の影響を受けているのは明らかだ。そなたの想い人のセンパイとやらが我にそっくりなのも、それは当然というものだ。我はおそらくそのセンパイとやらの生き写しなのであろう……文字通りの意味でな」
【……!】
薄々そうではないかと察してはいたが、改めて真実を告げられて、僕の身体の上から下まで激震が走った。
「ハハハ、少しは驚いてくれたか? 今ビクビクッと震えたぞ、そなた。何故センパイと我が似ていることを知っているのかというと、夜毎にそなたが寝言でセンパイのことを口走っていたからだ。無断で聞いていたのは悪かったがな」
魔王が悪戯っぽく笑う声を僕は随分と久し振りに聞いた気がした。
「こんなことは今のそなたにとっては何の慰めにもならないかもしれないが、たとえ他人の複製体であったとしても、それもまた一つの独立した人生なのだ。自分を卑下し貶めることなどしなくてよい」
僕を温める魔王の体温が少し上昇した気がする。それほど彼女の発する言葉には熱がこもっていた。徐々に、徐々にだが、僕は硬化しきっていた自分の感情がほだされていくのを感じていた。しかし、今の話が本当ならば、僕と魔王は最初から因果の紅い光で結ばれていたとでも言うのか?
「全ては本人次第ということだ。時に世の中は偽物の方が本物よりも輝く場合がある。そなたがやれば出来るやつだということは今までの出来事でこの城の誰もが知っている。何も気にする必要などないのだ」
【……!】
魔王は言葉の一つ一つが僕の中で咀嚼され、乾季の途中の雨のように荒廃した地面に染み込むのを、ずっと黙って待ってくれた。少なくとも僕にはそう思われた。恋人同士のように身体と身体を合わせてくっついた濃密な空間の中で、時間が明らかに今までとは違う流れ方をしていた。
「さて、そなたに伝えたいことはそれだけではないぞ。やはり我はそなたを召喚した者として、そなたのために責任を取らねばならないと思う」
魔王の声音が微妙に変化し、来た時のような悲壮さが滲んでいた。何をするつもりだ?




