42話 のんびり暮らしたい
一連の事件は解決した。
その後のファムの話によると……
第二王子カリスト・ヴァン・アールヴェルグは、廃嫡となり、辺境に追放されることになった。
国の監視の元、なにもない場所で一生を過ごすという。
リュシアは、追放こそされなかったものの、王都の離宮で軟禁。
同じく、一生をそこで過ごすだろうと言われている。
その話を聞いた時は胸が傷んだ。
どれだけ酷い言葉をぶつけられたとしても。
うざい、と絶縁されたとしても。
それでも、リュシアは俺の娘だ。
亡き妻から託された大事な子供だ。
できるなら力になりたいと思うが……
ファムの話によると、今のリュシアは非常に微妙な立場だ。
釈放などは難しいらしい。
いつか……
いつかまた、昔のように、笑顔で話ができたらいいと思う。
ただ、俺は、リュシアに言われたものの、一度、彼女の手を放した。
そんな俺に、そんなことを想う資格があるのか。
そして……
――――――――――
「アニキ、雨漏りの修理、終わりました!」
「早いな。俺も、ちょうど終わったところだ」
俺とクライドは、ギルドの依頼を請けて、傷んだ家の補修を行っていた。
魔物を討伐するわけではなくて、希少な素材を採取するわけでもなくて。
こんな日常的な依頼ばかり。
ただ、これはこれで楽しいかもしれないな。
依頼人に報告。
完了のサインをもらい、冒険者ギルドへ戻る。
「あ、レオンさん、クライドさん。おつかれさまです。依頼の方、どうでしたか?」
「問題なく完了した。これが、依頼人のサインだ」
「えっと……はい、確かに。それにしても、昼過ぎまではかかると思っていたんですが、早いですね」
「へへ、アニキにかかれば、家の補修なんて朝飯前さ! なにせ、アニキは補修のプロで、補修騎士だからな!」
勝手に変な役職につけるな。
まあ……
最近は剣を振るよりも、こうした作業の方が多いため、あながち間違いとも言えないのだが。
「他に依頼はあるか?」
「えっと……今日の分は終わりですね。お二人共、ありがとうございました」
「そうか。なら……昼を食べるか」
少し早いが、色々と動いたからわりと空腹だ。
クライドも賛成らしく、飯だー! と喜びの声をあげている。
「ジャンのパン屋にでも行くか?」
「いいっすね! アニキの分は、俺が奢りますよ!」
「いや、そういうわけにはいかない」
「たまには舎弟らしいことをさせてくださいよー」
クライドの場合、一度許可したら、どんどんエスカレートしそうで、やや怖い。
舎弟ではなくて、仲間や同僚でいいと思うのだが……
「恐れ多いっす!」と、頑なに拒否するんだよな。
「あ、あのー……」
「ん? どうした、シェフィ?」
「もしも問題なければ、私もご一緒してよろしいでしょうか……?」
「なんだ、そんなことか。なにも問題はない。だろう、クライド?」
「そうっすね! 飯は、みんなで食った方がうまいっす!」
「……クライドさん、悪い人じゃないんだけど、気が使えないんですよねぇ」
なにやらシェフィが拗ねた様子で言うが、よく聞こえなかった。
「なら、みんなでジャンのパン屋に……」
「こんにちはー!」
元気な声と共に、ティカが現れた。
「ティカ? どうしたんだ?」
「あ、お父さん! えへへ、よかった。はい、これ!」
「これは……弁当か?」
「うん。お父さんのために作ってきたの!」
「そうか……ありがとう」
「にゃふん♪」
頭を撫でると、ティカは嬉しそうに目を細くした。
ないはずの猫の尻尾がふりふり揺れているような気がした。
「あ、クライドとシェフィお姉ちゃんの分もあるよ」
「マジか!? ありがとな!」
「ありがとう、ティカちゃん」
「なら、ここで昼にするか」
空いているテーブルに弁当を広げた。
メインはサンドイッチだ。
トマトやレタスを挟んだ、野菜がメインのもの。
チキンを挟んだ肉がメインのもの。
それと、フルーツと生クリームを合わせた、スイーツ感覚のサンドイッチもあった。
それと、カットされた果物。
けっこう本格的だ。
「すごいな。ティカがこれを作ったのか?」
「うん、そうだよ! お父さんのためにがんばったんだよ!」
「ありがとう。嬉しいよ」
「にゃふー」
「ティカなら、きっといい嫁に……いや、なんでもない」
ティカの花嫁姿を想像して。
その隣に立つであろう男を想像したら、なんだか無性に腹が立ち、想像を止めた。
「アニキ、今からそんなだと大変っすよ?」
「ふふ。レオンさんも、そういうところがあったんですね」
「……忘れてくれ」
やや顔が熱くなってしまう。
「お父さん、はい!」
ティカがサンドイッチを差し出してきた。
「はい、あーん」
「え? いや、それは……」
「あーん」
「ティカ、俺は自分で食べられる」
「あーん」
「だから……」
「……あーん」
「……あむ」
泣きそうな顔をされては勝てず、羞恥があるものの、素直に差し出されたサンドイッチを食べた。
「ど、どうかな? 美味しい?」
「ああ、美味しい」
「本当!?」
「本当だ。こんな嘘は言わない」
「やったー! お父さんに美味しいって言ってもらったー!」
ティカは、ぴょんぴょんと跳ねて、全身で喜びを表現した。
その愛らしさに、自然と笑顔になる。
クライドとシェフィも笑顔になっていた。
穏やかな時間。
明るい空気。
……そうだな。
俺が求めていたのは、こういうものだったのかもしれない。
仲間と、友と。
優しい村の人達と……
そして、娘と一緒にのんびり暮らしたいものだ。
いつまでも、ずっと。
ひとまず、ここまでが一部、という感じでしょうか?
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
わりと思いつきと勢いで書いてきたところはありますが、たくさん読んでいただけて嬉しいです。
この後を続けるか、そこはものすごく悩みどころでして……
しばらく考えさせていただければ、と。
ここで終わるかもしれませんし、しばらくしたら再開するかもしれません。
なので、ひとまず連載中にはしておきます。
この作品をリファインしたものを新しく投稿しているので、
そちらも読んでもらえたら嬉しいです。
『 娘に『パパうざい!』と追放された父親ですが、辺境でも全力で親ばかをします!』
https://book1.adouzi.eu.org/n3620km/
ひとまず、今はこの辺りで……!




