39話 職権乱用はいけません
光が弾けると共に、少し離れたところにファムが現れた。
転移魔法を使用したのだろう。
「あー、疲れた。長距離転移って、かなり魔力を消費するから、ホント疲れるんだよね」
「すまないな。今度、奢ろう」
「期待しているよ♪」
「なんだ、お前達は……なんの話をしている!?」
突然現れたファムに、王子は苛立った様子で睨みつけてきた。
ファムは、そんな王子を気にした様子はなく、ヘラヘラとした様子でこちらに。
そのまま王子に告げる。
「殿下、私のことを知っています?」
「宮廷魔法使いのファム・ミリアリアだな? いったい、なんの用だ?」
「おー、ちゃんと知っていたか。失敬、失敬。殿下は、私のことなんて覚えてないだろうなー、とか思ってたけど、鶏以上の頭はあったか」
「なんだと?」
いきなり侮辱されて、王子が顔を引き攣らせた。
ファムは構わず続ける。
「でも、もうちょっと考えて行動するべきでしたね。あちらこちらに証拠を残したままで、色々と調べるのは簡単でしたよ?」
「な、なに……?」
「はい、こちらをどうぞ」
ファムはポーチから書類を取り出して、俺と王子にそれぞれ渡した。
確認してみると……これは酷いな。
賄賂、脅迫、権力の乱用……王子の犯罪歴がびっしりと書き込まれていた。
王子の顔がみるみるうちに青くなる。
「ふ、ふざけるな!? なんだ、このでたらめは! 僕は、このようなことは知らん!」
ビリビリと破かれるものの、ファムは慌てない。
さらに、ポーチから予備の書類を出してみせた。
「あ、まだまだ予備はあるから、どうぞお好きに。あ、そこの騎士君もどうぞ。みんなで見てね?」
「お前っ……!!!」
「ちなみにこれ、陛下に提出済みなので」
「……なん、だと?」
王子が震えて、その顔色は白になった。
「権力を利用した犯罪の大セール、ってところかな? いやー、すごいすごい。やらかしているだろうなー、とは思っていたけど、ここまでとは思ってなかったよ。あまりにも証拠が出てくるものだから、まとめるのに時間がかかって、ちょっと遅くなっちゃった。ごめんね、レオン」
「いや、いいタイミングだった」
「そう? なら、やったね、私!」
ファムはコミカルに笑って見せて。
すぐにその笑みを消すと、王子に冷たく告げる。
「はい、これ。陛下からの召喚令状」
「なっ、あぁ……!?」
「聖女と聖騎士の力を利用して、新しい王になろうとした……んー、国家転覆罪? 反逆罪の方かな? まあ、どっちでもいいや。とびきり重い刑が待っているのは変わらないからね。はい、ご苦労さまでしたー」
煽りすぎだ。
俺は、王子が最後の悪あがきをするのではないかと身構えていたが……
「……終わりだ……」
王子は、一言、そう呟いて、膝から崩れ落ちた。
もう悪あがきをする余裕もないらしい。
ファムがこちらを見る。
「待たせちゃったけど、その分、私、いい仕事をしたでしょ?」
「最高だ。ただ、よくこんなことができたな?」
「さっきも言ったけど、王子ってば、ちょっと頭が緩いのか、あちらこちらに証拠を残していたからね。本人は権力でもみ消したつもりみたいだけど、完全に証拠を消すとか、けっこう難しいから」
「なるほどな」
「レオンが追放されたこととか、ティカちゃんのこととか、けっこう強引に感じたんだよねー。誰か裏にいない? って調べたら、王子が引っかかったわけ。で、逆に罠にハメるためにあれこれ、っていう感じ」
ファムの行動力、そして推理力はすさまじいな。
宮廷魔法使いというよりは、もはや探偵だ。
その頭脳こそが、彼女の真の力なのだろう。
「聖女のことで、国はちょっと揉めるかもしれないけど、レオンやティカちゃんは大丈夫。今回の件、表に出さない代わりにレオンとティカちゃんには手を出さないように、って陛下と取り引きしておいたから」
「どこまでもぬかりがないな……ありがとう、本当に助けられた」
「いいよいいよ。レオンには、色々と……本当にたくさんの借りがあるし。なによりも、私達、友達でしょ? 友達が困っていたら、助けるのはとーぜん!」
「そうだな……俺も、ファムが困っていたら力になろう」
笑みと握手を交わした。
彼女との友情は一生、続くような気がした。
「お父さん!」
「ティカ」
雰囲気で戦いは終わったと察したらしく、ティカが駆けてきた。
そのままの勢いで、俺の胸に飛び込んでくる。
「お父さん、すごかったね! ばーんってやって、どがーんってして、すっごくかっこよかったよ!」
「そうか?」
「うん、お父さんは世界一かっこいい!」
にっこりと笑うティカ。
この笑顔を守ることができたのなら、無茶をした甲斐があったというものだ。
「ねえねえ、私、これで村にいられるの? みんなと一緒にいられるの?」
「ああ、大丈夫だ。ずっと一緒だ」
「そっかー……」
ティカは、静かに相槌を打つ。
それから、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「あれ? どうして……私、嬉しいのに。なんで、ひっく……なんか、泣いちゃうの……涙、止まらなくて……」
ずっと心が張りつめていたんだろうな。
緊張が続いて、不安が続いて、わりとギリギリのところにいて。
でも、全てが解決して、ぷつりと糸が切れて……
溜め込んでいたもの、全部、出てきてしまったのだろう。
「好きに泣けばいい。大丈夫だ、もうなにも心配はいらないから……今は、泣いていい」
「お父さん、お父さん……一緒だよね? いなくなったりしないよね?」
「ああ、一緒だ。ずっと一緒だ」
「うんっ、うんっ……!」
ティカは、俺の胸に顔を埋めて……
そのまま、しばらくの間、泣いた。




