37話 ありえないありえないありえない
「くっ……バカな!?」
僕は、ありったけの力でありったけの連撃を繰り出した。
とっておきの技。
僕に剣を教える騎士も、これを防ぐことはできない。
必殺と言っても過言ではない。
それなのに……
「なぜだ!? なぜ届かない!?」
元聖騎士、レオン・オライオンには、僕の剣は通用しなかった。
惜しい、なんていうこともなくて。
まるで届かない。
天と地ほどの差があると、本能的に感じてしまう。
必死に攻撃をしかけるものの、全てが防がれて、あるいは回避されてしまう。
それなのに、レオンは反撃をしない。
遊んでいるかのように、僕の攻撃を受け続けるだけ。
舐められている。
怒りが湧いてくるものの、しかし、どうすることもできない。
僕の力は届かない。
「くそっ!」
このままだと決闘に負けてしまう。
もちろん、バカ正直にレオンの要求に従うつもりはないが……
決闘に負けるなんて恥、かくわけにはいかない。
どうして?
どうしてこんなことになった?
どこで計画が狂った?
聖女の力を引き出す鍵である、聖騎士のレオンを連れ戻して。
ついでに、新しい聖女を手に入れて。
リュシアとセットで利用して、僕のために役に立ってもらうつもりだった。
聖女の力と権力、その全てを僕のものにするはずだった。
しかし、現実はどうだ?
レオンとの一騎打ちに勝てず、攻めているようで追い込まれていて……
このままだと、無様な姿を晒してしまうことになる。
こんなはずじゃなかった。
こんなはずじゃなかったのに……!!!
「ちくしょう、負けられるか!!!」
土を蹴り上げて、目潰しを放つ。
隠し持っていた魔道具を使う。
後方の騎士に送り、援護射撃をさせる。
なりふり構わず勝利を掴みにいくものの……
しかし、そのどれも通用しない。
全て防がれてしまう。
その上で、レオンは反撃に転じない。
どうした、これで終わりか?
俺は、まだまだいけるぞ。
もっと戦えるだろう? 全部を出してみせろ。
そう言っているかのようだ。
余裕すら感じられて、それがまた、とても腹立たしくて……
「くそっ、もういい! 騎士達よ、こいつを殺せ! 一斉にかかり、殺してしまえっ!!!」
レオンは、聖女に必要な聖騎士ではあるが、もうどうでもいい。
代わりなんて、きちんと調べれば他で見つかるはず。
今は、この忌々しい男を一刻も早く消したい。
「早くしろっ!!!」
戸惑う騎士達を一喝すると、ようやく動き出した。
複数の騎士達がレオンに斬りかかる。
これで終わりだ。
ざまあみろ。
僕に逆らうから、こうなるんだ。
煉獄で反省することだな。
僕はニヤリと笑い……
しかし、その笑みはすぐに引きつる。
「「「ぎゃあああっ!?」」」
レオンが剣を一閃。
たったそれだけで、複数の騎士がまとめて吹き飛ばされた。
「……は?」
バカな。
なんなんだ、今のでたらめな力は?
いくら聖騎士でも、あそこまでの力を持つはずがない。
レオンが進化体を討伐した時、身体能力の強化を重ねがけしたと聞いているが……
しかし、そのようなことをした素振りはない。
なにもしていないはずなのに、騎士をまとめて吹き飛ばすなんて。
しかも、たったの一撃で。
「なんなんだ……なんなんだよっ、お前はぁ!?」
僕は、いつの間にか、どうしようもないほどの恐怖を覚えていて。
気がつけば、子供のように叫んでいた。




