表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/42

30話 真なる聖女

「はっ、はっ、はっ……!!!」


 限界以上に体を酷使したせいで、まともに呼吸ができない。

 地上にいるのに窒息してしまいそうだ。


 全身が痛み、バラバラになってしまいそう。

 肺も弾けてしまいそうだ。


 ゆっくりと深呼吸を繰り返す。

 心と体を落ち着かせていく。


 何度も何度も繰り返して……

 ようやく、ある程度、落ち着くことができた。


「レオン、大丈夫!?」

「ファムか……ああ、なんとかな」

「聖闘気の重ねがけをしたでしょう!? しかも、限界を超えて……ああもうっ、なんて無茶をするのよ!? バカじゃないの、ヘタをしたら死んでいたわよ!?」

「ああでもしないと、倒すことは難しかったからな……」

「もう、無茶しすぎ! あんたがみんなに生きて帰れって言ったくせに、レオンが無茶してどうするのよ!?」

「すまない……」

「まったくもう……そうやって素直に謝られたら、怒っている私が悪者みたいじゃない。まあ……いいわ。倒せて、無事だったからよしとしてあげる。でもまあ、本当に倒せてよかったわ。レオンのおかげね」

「アニキー!」


 笑顔でクライドが駆けてきた。


「それと、彼のおかげでもあるかしら?」

「そうだな」


 俺達も笑顔になり、クライドを迎えて……


「キギィアアアッ!!!」

「なっ……!?」


 首をほぼほぼ切断されているにも関わらず、進化体が動いた。

 最後の力を振り絞り、クライドを道連れにしようと牙を向けて……


「クライドッ!!!」




――――――――――




「……お父さん、大丈夫かな?」


 レオン達の帰りを待つティカは、村の入り口にいた。

 村長からは家で待つように言われたが、気になり、落ち着くことができない。


 入り口にいても落ち着くことはできないのだけど、家の中にいるよりはマシだった。


 ここにいれば、すぐにレオンに会うことができる。

 きっと、いつもの静かな笑顔を見てて、温かく大きな手で頭を撫でてくれる。


 そう信じていたのだけど……


「あっ! みんな、帰って……きた……?」

「誰かっ、治癒師を呼んでくれ!!!」


 クライドが泣きながら叫ぶ。

 その背中に背負われているのは……


「お父さん!?」


 血まみれになったレオンだった。




――――――――――




 移動させる時間ももったいないと、レオンは広場に敷かれたシーツの上に寝かされた。


 村の治癒師。

 それと、騎士団の治癒師の二人がレオンの怪我の治療に当たる。


 ポーションを使い。

 魔法を使い。

 治療用のキットを使い。


 ありとあらゆる手段を使い、全知識と技術を動員してレオンを助けようとする。


 しかし、レオンは目を覚まさない。

 流れる血も止まらない。


「くそっ、ちくしょう……! 俺のせいだ、俺が、最後の最後で油断しなければ……!」

「クライド、いったいなにがあったのじゃ……?」

「……進化体は、アニキが倒したんだ。ただ、最後の力で襲いかかってきて……アニキは、俺をかばって……くそぉ!!!」


 クライドは泣きながら、地面に拳を叩きつけた。


「嘘でしょ……レオン、まさかあんた、こんなところで終わらないわよね……? 今回、色々と働かされたんだから、お酒でも奢ってもらわないとダメなのに……このままなんて、そんなことはないわよね!?」

「嘘だろ、あの隊長が……」

「くっ……俺達が、もっと隊長の力になれていたら……!」


 ファムや、騎士達が涙を流している。


 ……その光景は、ティカには見えなかった。

 なにも聞こえなかった。


 倒れているレオンのことしか見えない。

 他になにも見えず、彼の吐息しか聞こえてこない。


 そんなレオンの吐息は浅く、ゆっくりで……

 今にも止まってしまいそうだった。


「……やだ……」


 ティカの脳裏に、とある光景がフラッシュバックした。


 覚えているはずのない、幼い頃の記憶。

 両親が事故に遭い、命を落とした時の記憶。


 覚えていないのではなくて。

 忘れていただけ。

 あまりに辛い記憶だから、心を守るために忘れていただけだった。

 それも、また封印していた記憶。

 心の防衛本能で閉ざしていた悲しい思い出。


「また……また、いなくなっちゃうの……?」


 家族を失う恐怖にティカは震えた。

 涙した。


 心が悲鳴をあげる。

 バラバラなって、砕けてしまいそうになる。


「一緒だって……私と一緒にいてくれる、って……それなのに……」


 ティカは震えて、涙する。

 そのまま泣き叫んでしまいたくなる。


 ……しかし。


「……ダメだよ。私は……私だって、諦めないんだから!」


 きっと、レオンは諦めなかったはずだ。

 クライドをかばったとしても、そのまま普通に生還するつもりで……

 最後の最後まで諦めなかったはずだ。


 そういう人なのだ。

 ずっと一緒にいたから、わかる。


 それに約束をした。

 必ず帰ってくると約束した。


 その約束をレオンが違えるはずがない。

 だからこそ、致命傷に近い一撃を受けているのに、未だ生きているのだろう。


 そんなことを本能的に感じたティカは、レオンのところに駆け寄る。


「な、なんだ……!?」

「ティカちゃん!?」


 驚く治癒師達に構うことなく、ティカは、倒れているレオンに両手をかざした。


 レオンとファムの話によれば、自分は聖女の素質があるらしい。

 現に、傷ついた猫を癒やすことができた。

 ならばレオンだって……


「治れぇえええええええぇぇぇーーーーー!!!!!」


 絶叫。

 それに等しい膨大な魔力が弾けて……


 レオンにかざしたティカの手のひらを中心に、光が放たれる。

 太陽が間近に降りたかのように、世界が白で染め上げられた。

この物語をここまで読んでくださり、ありがとうございます!。

レオンとティカの物語が、誰かの心を少しでも温められたら幸いです。

よければ、ブックマークや評価ポイントで、この物語を広める手助けをしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇◆◇ 新作はじめました ◇◆◇
『追放された回復役、なぜか最前線で拳を振るいます』

――口の悪さで追放されたヒーラー。
でも実は、拳ひとつで魔物を吹き飛ばす最強だった!?

ざまぁ・スカッと・無双好きの方にオススメです!

https://book1.adouzi.eu.org/n8290ko/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ