30話 真なる聖女
「はっ、はっ、はっ……!!!」
限界以上に体を酷使したせいで、まともに呼吸ができない。
地上にいるのに窒息してしまいそうだ。
全身が痛み、バラバラになってしまいそう。
肺も弾けてしまいそうだ。
ゆっくりと深呼吸を繰り返す。
心と体を落ち着かせていく。
何度も何度も繰り返して……
ようやく、ある程度、落ち着くことができた。
「レオン、大丈夫!?」
「ファムか……ああ、なんとかな」
「聖闘気の重ねがけをしたでしょう!? しかも、限界を超えて……ああもうっ、なんて無茶をするのよ!? バカじゃないの、ヘタをしたら死んでいたわよ!?」
「ああでもしないと、倒すことは難しかったからな……」
「もう、無茶しすぎ! あんたがみんなに生きて帰れって言ったくせに、レオンが無茶してどうするのよ!?」
「すまない……」
「まったくもう……そうやって素直に謝られたら、怒っている私が悪者みたいじゃない。まあ……いいわ。倒せて、無事だったからよしとしてあげる。でもまあ、本当に倒せてよかったわ。レオンのおかげね」
「アニキー!」
笑顔でクライドが駆けてきた。
「それと、彼のおかげでもあるかしら?」
「そうだな」
俺達も笑顔になり、クライドを迎えて……
「キギィアアアッ!!!」
「なっ……!?」
首をほぼほぼ切断されているにも関わらず、進化体が動いた。
最後の力を振り絞り、クライドを道連れにしようと牙を向けて……
「クライドッ!!!」
――――――――――
「……お父さん、大丈夫かな?」
レオン達の帰りを待つティカは、村の入り口にいた。
村長からは家で待つように言われたが、気になり、落ち着くことができない。
入り口にいても落ち着くことはできないのだけど、家の中にいるよりはマシだった。
ここにいれば、すぐにレオンに会うことができる。
きっと、いつもの静かな笑顔を見てて、温かく大きな手で頭を撫でてくれる。
そう信じていたのだけど……
「あっ! みんな、帰って……きた……?」
「誰かっ、治癒師を呼んでくれ!!!」
クライドが泣きながら叫ぶ。
その背中に背負われているのは……
「お父さん!?」
血まみれになったレオンだった。
――――――――――
移動させる時間ももったいないと、レオンは広場に敷かれたシーツの上に寝かされた。
村の治癒師。
それと、騎士団の治癒師の二人がレオンの怪我の治療に当たる。
ポーションを使い。
魔法を使い。
治療用のキットを使い。
ありとあらゆる手段を使い、全知識と技術を動員してレオンを助けようとする。
しかし、レオンは目を覚まさない。
流れる血も止まらない。
「くそっ、ちくしょう……! 俺のせいだ、俺が、最後の最後で油断しなければ……!」
「クライド、いったいなにがあったのじゃ……?」
「……進化体は、アニキが倒したんだ。ただ、最後の力で襲いかかってきて……アニキは、俺をかばって……くそぉ!!!」
クライドは泣きながら、地面に拳を叩きつけた。
「嘘でしょ……レオン、まさかあんた、こんなところで終わらないわよね……? 今回、色々と働かされたんだから、お酒でも奢ってもらわないとダメなのに……このままなんて、そんなことはないわよね!?」
「嘘だろ、あの隊長が……」
「くっ……俺達が、もっと隊長の力になれていたら……!」
ファムや、騎士達が涙を流している。
……その光景は、ティカには見えなかった。
なにも聞こえなかった。
倒れているレオンのことしか見えない。
他になにも見えず、彼の吐息しか聞こえてこない。
そんなレオンの吐息は浅く、ゆっくりで……
今にも止まってしまいそうだった。
「……やだ……」
ティカの脳裏に、とある光景がフラッシュバックした。
覚えているはずのない、幼い頃の記憶。
両親が事故に遭い、命を落とした時の記憶。
覚えていないのではなくて。
忘れていただけ。
あまりに辛い記憶だから、心を守るために忘れていただけだった。
それも、また封印していた記憶。
心の防衛本能で閉ざしていた悲しい思い出。
「また……また、いなくなっちゃうの……?」
家族を失う恐怖にティカは震えた。
涙した。
心が悲鳴をあげる。
バラバラなって、砕けてしまいそうになる。
「一緒だって……私と一緒にいてくれる、って……それなのに……」
ティカは震えて、涙する。
そのまま泣き叫んでしまいたくなる。
……しかし。
「……ダメだよ。私は……私だって、諦めないんだから!」
きっと、レオンは諦めなかったはずだ。
クライドをかばったとしても、そのまま普通に生還するつもりで……
最後の最後まで諦めなかったはずだ。
そういう人なのだ。
ずっと一緒にいたから、わかる。
それに約束をした。
必ず帰ってくると約束した。
その約束をレオンが違えるはずがない。
だからこそ、致命傷に近い一撃を受けているのに、未だ生きているのだろう。
そんなことを本能的に感じたティカは、レオンのところに駆け寄る。
「な、なんだ……!?」
「ティカちゃん!?」
驚く治癒師達に構うことなく、ティカは、倒れているレオンに両手をかざした。
レオンとファムの話によれば、自分は聖女の素質があるらしい。
現に、傷ついた猫を癒やすことができた。
ならばレオンだって……
「治れぇえええええええぇぇぇーーーーー!!!!!」
絶叫。
それに等しい膨大な魔力が弾けて……
レオンにかざしたティカの手のひらを中心に、光が放たれる。
太陽が間近に降りたかのように、世界が白で染め上げられた。
この物語をここまで読んでくださり、ありがとうございます!。
レオンとティカの物語が、誰かの心を少しでも温められたら幸いです。
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