28話 約束
「お待たせ!」
朝。
村の広場に巨大な魔法陣が浮かび上がり、そこからファムが現れた。
彼女一人ではなくて、三十人ほどの騎士も一緒だ。
「援軍を連れてきたよ!」
「助かる。こちらは、できる限り村の防御網を強化して、避難所を作ったところだ」
「うんうん、いいね! いざという時の備えは必要だよ。こっちは、一軍を借りてきた。皆、精鋭揃いだよ。レオンも、知っている顔があるんじゃないかな?」
「ああ、確かに」
いくらか見覚えのある顔がいた。
かつての部下だったり、剣の教え子だったり。
「本当に隊長だ! 隊長、どうしてこのようなところに!?」
「おい、詳細は聞かないっていう話だろ、バカ」
「仕方ないだろ、ようやく隊長に会えたんだ!」
「隊長、俺、役に立ってみせますからね! 見ていてくださいよ!」
「みんな……ありがとう」
追放されるような俺を、こんなにも慕ってくれているとは……
改めて、とても頼もしい仲間がいたことを知り、胸が熱くなる。
「おおおおお!? アニキって、こんなにすごい人だったのかよ!? いや、でも納得だぜ。アニキだからな! さすがだぜ、アニキ!」
クライドがものすごくはしゃいでいた。
子供のようだ。
「クライド、少しは落ち着いてくれ」
「無理っすよ、こんなの!? 俺、アニキの舎弟として、めっちゃ誇らしいっす!」
「あー……わかった。ひとまず、怪我のないように気をつけてくれ」
表情を険しいものに切り替えて、さらに続ける。
「これから戦う相手は、この前の進化体よりも恐ろしい相手だ。一瞬のミスが命取りに繋がる」
「……っ……」
「ただ、クライド、お前なら大丈夫だ。しっかりと戦えば、きっと生き残ることができる。活躍もできる。無理をせず、自分らしく戦え」
「はい、わかりやした!!!」
やや心配ではあるが……
でも、クライドなら大丈夫だろう。
そう信じさせてくれる、力強い顔をしていた。
「ティカちゃん、ほら」
「……うん」
シェフィに連れられて、ティカがやってきた。
とても不安そうな顔をして、わずかに体も震えていた。
「お父さんにがんばって、するんでしょう?」
「うん……でも……うぅ」
ティカが涙ぐむ。
昔のことを思い出してしまっているのだろう。
親子になれた時、過去の記憶も多少思い出して、乗り越えた様子ではあったが……
しかし完全ではない。
やはり恐ろしいのだろう。
「お父さん……大丈夫?」
「ああ、問題ない」
「本当に? 本当に大丈夫かな……? すごい怖い魔物と戦うんだよね? この前の猫さんみたいに怪我しない? 大丈夫……?」
「……ティカ……」
「なんでだろう? たぶん、今までなら笑顔でお見送りできたと思うのに、でも今は、それができなくて、心配ばかりしちゃって、悪いことばかり考えちゃう。なんでだろう……?」
「……ありがとう、ティカ」
ティカを抱き上げた。
軽いな。
でも、重い。
命の重さを感じた。
それをしっかりと受け止める。
「それだけ俺のことを心配してくれているのだろう? 嬉しいよ」
「でもでも……」
「大丈夫だ。俺は、無事に帰ってくる。約束するよ……そうだ、指切りをしよう」
「指切り……?」
「初めて会った時も、指切りをしただろう? だから今回も……な?」
「……うん」
ティカを抱き上げたまま、小指を絡ませた。
「「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます、指切った」」
俺とティカの小指がゆっくりと離れた。
「ほら、これで大丈夫だ。約束を破るわけにはいかないからな。俺は、ちゃんとティカのところに帰ってくる」
「……うん!」
ティカが笑顔になったところで、地面に降ろした。
いっぱいの笑顔を向けてくれる。
「お父さん、がんばってね!」
「ああ、がんばってくる」
不思議だな。
強い力を持つ進化体と戦う時は、いつも緊張を覚えていた。
しかし、今はそれがない。
絶対に勝てるという、勇気と力が湧いてきた。
「レオン。せっかくだから、キミがみんなに声をかけてあげて」
「俺が? いや、ファムの方が……」
「レオンを慕っている騎士ばかりだからね。私より、レオンの方が適任なんだよ」
「……わかった、そういうことなら」
わざわざここまで来てくれたのだ。
感謝の気持ちも伝えるべく、みんなの前に立つ。
「皆、聞いてほしい」
応援にやってきてくれた騎士達に語りかける。
「これから、進化体の討伐に向かう。ただの進化体ではなくて、おそらくは、街を一つ滅ぼせるような、恐ろしい強敵だろう」
「激戦が予想される。いくつもの策を用意しているが、しかし、思い通りにいかないことも多いかもしれない。苦戦が強いられるだろう」
「その上で、あえて言おう……守れと」
「俺達の剣は、なんのためにある? 大事なものを守るためだ。それは民であり家族であり恋人であり友であり……そして、己自身だ」
「己も守れ。自身が帰らないことで悲しむ人がいる。涙を流す人がきっとどこかにいる。生きて帰り、その人の心を守ることも、また一つの使命だ」
「難しいことを言っているのはわかる。ただ、だからこそ、この命令を受け止めてほしい。違えることなく、守ってほしい。それこそが、真に必要とされていることだ。誰もが皆、求めていることだ」
「戦いに勝つ。そして、皆揃い、笑顔で帰ろうではないか!」
沈黙。
そして……
「「「おぉおおおおおーーーーーっ!!!」」」
騎士達の戦意に満ちた声が響き渡った。




