27話 迫る災厄
ファム曰く。
エルセール村には、近くまで魔法で転移して、その後は歩いてきたらしい。
その途中で、妙な魔力を感じたとか。
進化体が放つ魔力にとても似ていたという。
「進化体のウルフなら、この前に倒したが……やはり、あれで終わりではなかったか」
「その進化体のウルフは、たぶん、おまけかな? 別個体の放つ強力な魔力にあてられて、進化体になっただけ。本命は別にいると思う」
「おぉ、なんていうことじゃ……すぐに、村の皆に避難を……いや。どこに避難をすればいいのか……」
エルセール村は辺境の地だ。
他の村まで、歩いて三日はかかる。
そこまで安全に移動できる保証はない。
避難できたとしても、全ての村人を受け入れてもらえるかわからない。
というか、難しいだろう。
避難は難しい。
ならば……
「俺が、その本命の進化体を叩く」
「大丈夫? や、レオンの実力を疑っているわけじゃないんだけどさ。でも、進化体のウルフが小物に思えるような、とんでもないヤツだと思うよ? 私も手伝うけど……ぶっちゃけ、軍の協力が欲しいよね。私達だけでどうにかなる相手じゃないと思う」
「それは……」
ファムの言う通りだな。
この前のヤツが小物に思えるほどの相手だとしたら、悔しいが、俺一人ではどうにもならないだろう。
「まだ、進化体の魔力反応は遠い。すぐに村を襲ってくることはないと思うから、私なら、その間に、転移魔法で援軍を連れてくることはできる。ただ……」
「……ティカの件か」
外部の者を招けば、その分、ティカの秘密を知られてしまう可能性が高くなる。
危ない橋を渡りたくないが……
「……ファム、頼む」
「いいの?」
「確実に進化体を倒さないと、エルセール村が危ない。ティカの秘密を守ることばかりに気をとられて、進化体の討伐に失敗する方が問題だ」
ティカの秘密を守れたとしても、村が滅んでは意味がない。
犠牲が出ても、やはり意味がない。
「もしも秘密がバレたとしても、その時は、俺がなんとかしよう」
「ん、オッケー。そこまでの覚悟があるのなら、いいね。森の調査は……今度でいいか。ほぼほぼいるっぽいし、後は確認作業だけだから……今は、援軍を連れてくることを優先するね」
ファムは立ち上がり、杖を構えた。
彼女の足元に魔法陣が展開される。
転移魔法を使うのだろう。
「もう行くのか? せめて今夜は……」
「時間がないからね。それに、徹夜は友達だから」
「……ファム、色々とすまない」
「んー……こういう時は、別の言葉があるでしょ?」
「力になってくれてありがとう」
「どういたしまして♪」
にっこりと笑うと、ファムの姿が消えた。
「レオンよ、このことは……」
「こんな時間だけど、すぐに村の皆に知らせた方がいい。そして、森に絶対に入らないようにという注意喚起と、村の防御網の強化……やらなければいけないことはたくさんある」
「そうじゃな……」
「なに、心配することはない」
緊張した様子の村長に、俺は小さく笑いかけた。
「エルセール村の皆は強く、優しい。とても難しい問題だが、皆が力を合わせれば、きっと解決できるだろう。それに、俺達だけではなくてファムも協力してくれている。乗り越えられるはずだ……俺は、そう信じている」
「……そうじゃな、その通りじゃ。儂も、皆を信じることにしよう」
――――――――――
その後、緊急の村会議が開かれて、進化体に関する情報が共有された。
ファムは大丈夫だろうと言っていたが、彼女も万能ではない。
もしかしたら、一分後にでも進化体が襲ってくるかもしれない。
まずは、村の防御網の強化。
それから、いざという時の避難所を構築することが決定した。
翌日の早い時間から作業が始まり……
俺の知識をフル活用しつつ、ティカの力を借りて、さらに強固な防壁を構築。
同時に、地下室を作り、いざという時の避難所を作った。
……ちなみに、ティカの能力のこと。
それと、ティカを養子にしたことを皆に説明した。
聖女の能力については、本当なら隠しておいた方がいい。
皆に悪気がなくても、知る人が多いだけ秘密が漏れる確率は上がる。
ただ、知っておくことで、いざという時の対処が可能だ。
聖女ではないか? と問い詰められた時に、ごまかしたり。
そういう事態を避けるために、先んじて行動することができたり。
それと、理由はもう一つ。
村の皆に隠し事はしたくない。
村の皆も家族のようなもの。
それなのに大事なことを黙っておくことなんてできない。
ティカがそう言い、秘密を打ち明ける決断をした。
ティカは、聖女の能力のことでやや不安に思っていたらしい。
受け入れてもらえるだろうか?
怖がられたりしないだろうか?
でも、それは杞憂だった。
皆は、「ティカちゃんは、もともと聖女みたいなものだからな!」と、あっさりと受け入れて。
子供達も、「ティカ、かっけえええ!」と、やはりあっさり受け入れていた。
エルセール村の皆は、そういう人なのだ。
聖女かどうか、それは些細なこと。
ティカがティカであるのならば、なにも気にすることはない。
それよりも、俺とティカが親子になったことの方が驚かれていて……
同時に、たくさんの祝福をされた。
俺達なら理想の親子になれると、そう笑顔で祝ってくれた。
……少し涙が出そうになったのは内緒だ。
やはり、この村は温かい。
エルセール村の人達は、とても優しい。
そんなところが進化体に踏みにじられるなんて、絶対に我慢できない。
必ず守る。
……今度こそ守る。
決意を固めつつ、作業を進めて……
そして、三日後。
決戦の時が訪れた。




