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22話 ティカの力

 朝。

 起きると、すでにキッチンにティカの姿があった。


 子供用の台を使い、料理を作っている。


「ティカ、おはよう」

「おはよう、レオンおじさん!」

「早いな」


 一緒に寝たが、起きたらすでに姿が消えていて、少し驚いた。


 騎士時代の経験から、俺は、それなりに早起きなのだけど……

 それ以上に、ティカは朝起きるのが早い。


「うん。私、早起きなんだよ? おひさまが昇ってきたら、んー? っていう感じで目が覚めるんだ!」

「健康的でいいな。ただ、一人で朝食を作らなくてもいいのに。まだ病み上がりなんだから、俺も手伝おう」

「ありがとう、レオンおじさん。でも、私一人で大丈夫だよ」

「しかし……」

「本当に平気だから。レオンおじさんは、ゆっくりしてて。私がしたいんだ」

「……なにかあれば、すぐに言ってくれ」


 ティカの頑なな意思を感じて、素直に引き下がることにした。


 さて、空いた時間はどうしようか?


「鍛錬でもするか」


 聖騎士ではなくなったけれど、代わりに冒険者になった。

 体が資本なのは変わらない。

 日頃からしっかりと鍛えておかないとな。


 外に出て、軽い運動をこなす。

 それから木剣を振り、素振りを始めた。


 基礎中の基礎のトレーニングではあるが、基礎こそが一番大事だ。

 全ての基盤となり、ここから色々なところへ発展していく。


「あれから、進化体は一度も現れていないが……」


 まだ、というだけかもしれない。

 いつ、なにが起きてもいいように、しっかりと備えておこう。

 そのためにも鍛錬は必須だ。


「あいつも、魔法の基礎は勉学と言っていたから、似たようなものだな……うん?」


 ふと、猫の鳴き声が聞こえてきた。

 ただ、とても弱々しい。


 気になり、近くの茂みを覗いてみると……


「これは……」


 後ろ足に酷い怪我を負った猫がいた。

 おそらく、魔物にやられたのだろう。


 木剣を放り捨てて、猫を抱えて家に戻る。


「ティカ、すまない。医療用のキットなどはあるか?」

「え? レオンおじさん、怪我とか……わっ!? そ、その猫ちゃん、どうしたの!?」

「魔物に襲われて、ここまで逃げてきたみたいだ。このままだと、まずいかもしれない。医療用のキットはあるか?」

「う、うん! すぐに持ってくるね!」


 ティカは、慌てた様子で奥の部屋に駆けていった。

 その音で起きたらしく、村長が降りてくる。


「おはよう、レオン殿。なにやら騒がしいが、どうしたのかな?」

「村長。実は、この猫が……」

「む? その子は……診せてくれないか? 儂は、こう見えても治癒師の心得があってな」

「レオンおじさん、医療用のキットを持ってきたよ! あっ、おじいちゃん! 大変だよ、猫ちゃんが……!」

「うむ。今、診ているところじゃ。そのキットを貸しておくれ」

「う、うん! どうぞ!」


 村長は猫をテーブルの上に寝かせて、医療用のキットを使い、治療を試みる。


 慣れた手つきだ。

 治癒師の心得があるというのは本当らしい。


「むぅ……」


 一通りの治療が済んだところで、村長は難しい顔になる。


「応急処置はした。あとは、村の専門の治癒師に見せるべきじゃろうが……」

「……厳しいのか?」

「……そうじゃな。儂の見立てでは、もう……」

「そんな!」


 ティカが泣きそうな顔になる。

 ぐったりしている猫にそっと触れて、何度も何度も優しく撫でる。


「猫ちゃん、死んじゃうの……?」

「すまんのう……儂には、これ以上のことはできん。村の治癒師でも、おそらくは……」

「うぅ……」

「ティカ……これは仕方ないことじゃ。この猫は運が悪かった……せめて、儂らで最後を見届けてあげようではないか。そして眠った後は、丁寧に弔おう」

「……そうすることしかできないの?」

「そうじゃな」

「……やだ!」


 ティカは強い口調で言い、猫を抱きしめた。


「諦めるなんて、やだ! だって、猫ちゃんはまだ生きているんだよ? まだ、なんとかなるかもしれないんだよ? それなのに、もう諦めるなんて……私、やだよ! やだやだやだ、絶対にやだ!」

「……ティカ……」


 村長は困った顔をして。

 しかし俺は、ティカの言葉が胸に響いていた。


 簡単に諦めてはいけない。


 そんな大事なことを、俺は、どうして忘れていたのだろう?

 リュシアに追放された時も、どうして簡単に諦めてしまったのだろう?


 本当は、もっと粘るべきだった。

 どれだけ怒りを買ったとしても、しっかりと話し合うべきだった。

 それなのに、俺はもう娘に嫌われていると、話し合うことを諦めて、追放を簡単に受け入れて……


「……そうだよな」


 簡単に諦めるべきではない。

 まだ結果は出ていない。

 ならば、できる限り抗うべきだ。


「村長。ティカと猫を頼む」

「どうするつもりじゃ?」

「間に合うかわからないが、また薬草を探してこよう。特効薬だ。うまくいけば、猫を助けることができるかもしれない」

「しかし、もう……」

「できる限りのことをしたい……いや、するべきだ。ティカを見て、そう思った」

「……そうじゃな。儂も、できる限りのことをするべきか」


 村長の心も変わったらしい。


「ティカ、猫に呼びかけるんじゃ。何度も何度も。そうすれば、あるいは」

「う、うん。わかったよ! 猫ちゃん、がんばって! 私達が絶対に助けてみせるから、だから、猫ちゃんもがんばって! がんばれ!!!」


 その時。


「え?」


 ティカの両手が輝いた。


 淡い光。

 それは温かく優しくて……

 まるで、母に抱かれているかのよう。


 光は猫を包みこんで、傷を癒やしていく。

 命に関わる酷い怪我だったのに、何事もなかったように癒やされていく。


「これは……なんという、奇跡じゃ……」

「いや……違う」


 ティカが起こした現象に、俺は心当たりがあった。

 というか、今までに何度も何度も見てきた。


 癒やしの力。

 即ち……聖女の能力だ。

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