21話 二人の夜
ティカの誕生日パーティーは大成功だ。
喜んでもらえたようでなにより。
今日は気持ちよく眠ることができそうだ。
そう思いつつ、自室のベッドに横になり……
「……レオンおじさん、まだ起きている?」
扉がノックされて、次いで、そんな声が聞こえてきた。
「ああ、起きているよ。どうぞ」
「おじゃましまーす」
パジャマ姿のティカは、なぜか枕を抱えていた。
「どうしたんだ?」
「えっと……その、あのね……えっと……」
「遠慮しないで言ってみてくれ。なにをしたい?」
「……一緒に寝てもいい?」
「それは……いったい、どうしたんだ?」
「その……なんていうか、レオンおじさんともう少し一緒にいたいな、っていうか。一緒に寝たら、いい夢を見られそうだな、って……ダメ?」
ティカは上目遣いでこちらを見る。
その仕草は反則だろう。
なんでも言うことを聞いてしまいたくなる。
「……わかった、構わない」
ティカは子供だし、家族のようなものだ。
問題ないだろう……そう判断して、ベッドの半分を空けた。
「本当!?」
「ああ、本当だ」
「私、ちょっと寝相悪いけど、レオンおじさんを蹴っちゃうかもだけど……」
「鍛えているから、なにも問題はない」
「いびきをかいちゃうかも」
「それは俺が心配すべきことだな」
「えっと、えっと……」
自分で言いながらも。
でも、遠慮してしまう気持ちもあり、迷っているのだろう。
そんなティカの背中を後押しするかのように、優しく笑う。
……俺は、ちゃんと笑えているだろうか?
「おいで」
「やった! ありがとう、レオンおじさん!」
ティカは笑顔でベッドに乗ると、ぽすぽすと枕の位置を調整する。
こだわりがあるらしく、何度も調整を重ねていた。
それから、布団を被り横になる。
「えへへー♪」
「嬉しそうだな」
「うん! だって、レオンおじさんと一緒に寝てみたかったの」
「村長はいいのか?」
「おじいちゃんとも寝ているけど、うーん……今日は、レオンおじさんと一緒に寝たい!」
「そうか」
ティカの頭を撫でた。
嬉しそうにされる。
「……なんか、わくわくして寝れないかも!」
遠足みたいな気分になっているらしく、目はバッチリ冴えている様子だ。
「ねえねえ、少しお話してもいいかな?」
「ああ、大丈夫だ」
「レオンおじさんは、すごく強いよね! それにかっこよくて、優しくて、頼りになって……えへへ、お父さんみたい」
「そう……だろうか? しかし、俺のような男が父では、ティカは嫌だろう?」
「そんなことないよ! むしろ、すっごく嬉しいかな!」
「そう……なのか」
「どうしたの、レオンおじさん? なんだか、辛そうな顔をしているけど……」
「……王都にいる、娘のことを思い出してな」
このような子供に聞かせる話ではない。
ただ、勝手に口が開いてしまう。
「俺は、娘のためを想い、よかれとあれこれ口を出していたのだが……それが、娘は嫌だったらしくてな。怒らせてしまった。仲直りもできず……そのままだ。俺は、もっと娘に優しくすればよかった……」
「大丈夫だよ」
ティカは、ぎゅっと俺の顔を抱きしめた。
「レオンおじさんは優しいよ。口うるさいとかダメとか、そんなこと、絶対にない! 絶対だよ!」
「しかし……」
「その子は、ちょっと素直になれなかっただけだと思うよ。だって、レオンおじさんは、こんなにも素敵なんだもん」
「……ティカ……」
「だから、大丈夫。きっといつか、仲直りできるよ。なんなら、私が説得するよ!」
「……ありがとう」
今度は、俺がティカの頭を撫でた。
この子は、本当に優しいな。
俺のことを、ここまで心配してくれている。
とても清らかな心を持っているのだろう。
それこそ、聖女のように。
「えへへ」
ティカは、再びぎゅっと抱きついてきた。
「レオンおじさん、温かいね」
「そうだろうか?」
「うん。ぽかぽかー」
ティカの瞳がとろんとしてきた。
声も伸びてくる。
「眠いのか?」
「……ちょっと」
「なら、寝よう」
「やー……レオンおじさんと、もっと……お話、するのー……」
「大丈夫だ」
ぽんぽんと、ティカの頭を撫でた。
幼い頃のリュシアにそうしたように。
優しく、そっと触れる。
「明日、話せばいい。明日話しきれなかったら、明後日、話をすればいい。明後日がダメなら、その次。さらにその次……時間はたくさんある」
「……レオンおじさん、一緒にいてくれる……?」
「もちろんだ」
「……やったー……」
そこが限界だったらしく、ティカの目が閉じる。
すやすやと穏やかな寝息を立て始めた。
「……おやすみ、いい夢を」
ティカの寝顔を見ていたら、自然と、とある想いが湧き出してきた。
それは心に広がり、俺の一つの夢となる。
この子の笑顔を守りたい。
そして、一緒に暮らしたい。
今の俺は、それが新しい人生の目標なのかもしれない。
そして、それをくれたのは……」
「ティカ……ありがとう」
温かな想いを胸に、俺もゆっくりと目を閉じた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
誰かのために必死になりすぎて、気づけば独りになっていたレオン。
そんな彼が、少しずつ何かを取り戻していく物語が、誰かの心にそっと寄り添えたらうれしいです。
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