20話 誕生日
朝。
起きると、すでにリビングにティカの姿があった。
いつかの光景を再現するかのように、みんなの朝食を作っている。
「おはよう、ティカ」
「おはよう、レオンおじさん!」
「もう大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫! レオンおじさんのおかげで、すっかり元気になったよ。ありがとう、レオンおじさん♪」
「そっか……よかった」
頭を撫でると、ティカは気持ちよさそうに目を細くした。
それから、ぎゅっと抱きついてくる。
……さらにスキンシップが増したような?
「えへへー♪」
「あらためて、おはよう」
「うん! おはよう……レオンおじさん!」
なんだろう?
今、挨拶までに間があったような?
「あ、そうだった! 私、おじいちゃんにお使いを頼まれていたんだった」
「大丈夫か? 俺も一緒に行くか?」
「ううん、大丈夫。もう元気だから! 少しは体を動かしておかないと、なまっちゃうよ」
「そうか、気をつけて」
「うん、いってきます!」
「いってらっしゃい」
ティカは笑顔で外に出た。
いってきますといってらっしゃい。
その言葉を、また口にする時が来るなんて……
今の生活は温かくて幸せで……いいな。
できることならずっと、と思う。
「おはよう、レオン」
村長が姿を見せた。
「ティカは?」
「お使いがあると、外に出ていったが」
「ふむ、うまくいったようじゃな」
「……もしかして、ティカに聞かせられないような内密な話が?」
「内密ではあるが、深刻なものではないから心配するでない。すごい顔をしているぞ?」
頬に手をやる。
俺は今、どのような顔をしているのだろう?
「実はのう……三日後、ティカの誕生日なのじゃよ」
「……なんだって?」
「儂とレオンで祝いたいと思うのじゃが……すまんのう。ここ最近、色々とあったせいで、伝えるのが遅くなってしもうた」
「いや、それは仕方ないと思うが……そうか、ティカの誕生日なのか」
「儂は、料理を担当する。毎年、ティカの好きなケーキを焼くのが恒例になっていてのう。それをプレゼント代わりにしているのじゃが……いつも食べ物では、ティカも可愛そうじゃろう? そこでレオンには、なにかいいプレゼントを探してほしいのじゃが」
「わかった、任せてほしい」
ティカが喜ぶような誕生日プレゼント……責任重大だな。
チョイスをミスしたら、ティカの笑顔が曇る。
逆に成功すれば、太陽のように笑ってくれるだろう。
「全力で任務を遂行する」
「あ、いや。そこまで力を入れなくてもいいのじゃが……まあ、やる気があるのはよいことか」
――――――――――
「ティカちゃんの誕生日プレゼントですか?」
「うーん、そうですね……可愛いぬいぐるみなんてどうでしょうか?」
「女の子は、やっぱり可愛いものが大好きですからね」
「私も好きで……その、えっと、私の誕生日も……な、なんでもありませんよ!?」
「やっぱり、訓練用の剣ですよ!」
「女の冒険者も多いっすからね。アニキを間近で見ているティカなら、私も冒険者に、ってなること間違いなしっすね」
「その時に備えて、今から剣をプレゼントするのもアリっすよ」
「ち、ちなみに、俺の誕生日には……な、なんでもないっす!」
「ほう、ティカちゃんの誕生日かい?」
「うちで焼いたケーキの生地を使って、村長がいつもケーキを作っているが……うーん、それじゃあ意味がないか」
「なにか手作りがいいんじゃないかな? きっと喜んでくれると思うよ」
――――――――――
「誕生日プレゼントか……難しいな」
いくらかの人に話を聞いて、参考になる話を得た。
ただ、今からとなると時間が足りない。
せめて、一週間くらいあれば……いや。
嘆いていても仕方ない。
できることを最大限にやろう。
「プレゼントは……アレにするか」
――――――――――
……三日後。
「誕生日、おめでとう」
「ティカよ、おめでとう」
「わーい! レオンおじさん、おじいちゃん、ありがとう!」
夜。
ティカの誕生日パーティーを開いた。
机の上に並べられたたくさんの料理。
中心に、村長が作ったケーキが置かれている。
ティカの目はケーキをすでに捉えていて、ちょっとよだれも垂れていた。
「ティカよ。今日は、好きに食べてよいぞ」
「やった! ありがとう、おじいちゃん!」
村長が苦笑しつつ言うと、ティカは満面の笑顔でケーキを食べ始めた。
ぱくぱくと勢いよく食べて、口の周りをクリームで汚していく。
でも、これくらい元気な方がいい。
「はっ!?」
半分くらいを食べたところで、ティカが手を止めた。
「えっと……レオンおじさんもおじいちゃんも、ケーキ、食べたいよね?」
「いや、儂は構わんよ」
「そうだな。俺は……あまり甘いものは得意ではないんだ。だから、ティカに食べてもらえると助かる」
「そ、そうなの……? えへへー、そういうことなら仕方ないよね。ティカが食べてあげるよ、えへん♪」
再びケーキを食べるティカ。
嬉しそうでなによりだ。
そうして楽しい食事の時間が過ぎて。
腹いっぱいになるほど食べて。
パーティーがお開きになろうとした、そのタイミングで、俺はとある包みを取り出した。
「ティカ、これを」
「えっと……なにこれ?」
「誕生日プレゼントだ」
「えっ、本当に!?」
「その……喜んでもらえるといいのだが」
「開けてもいい? 開けてもいい!?」
頷くと、ティカは目をキラキラさせつつ包みを解く。
そして、中から出てきたものを見て、さらに目を輝かせた。
「わぁあああああーーーーー!!!? クマさんだ!!!」
俺が用意したプレゼントは、クマのぬいぐるみだ。
昔、リュシアにせがまれて作ったことがあり、その時のスキルが活きた。
ただ、完璧というわけではなくて、ところどころ歪になってしまっている。
「すまない。本当なら、もっと綺麗なものにしたかったのだが、そこまで手先が器用ではなくてな……」
「これ、レオンおじさんが作ったの?」
「ああ。買ってもよかったが、商人が来るタイミングが合わなくてな……よかったら、今度商人が来た時に買おうか?」
「ううん、大丈夫。これでいいよ。というか、これがいい!」
ティカは、ぎゅっと熊のぬいぐるみを抱きしめた。
「レオンおじさんが私のために作ってくれた、世界でたった一つのぬいぐるみ……すごく嬉しいよ。ありがとう、レオンおじさん!」
「……どういたしまして」
……ちょっと泣きそうになってしまったのは秘密だ。
こうして、ティカの誕生日パーティーは終わり……
また一つ、思い出が増えた。




