19話 それぞれの視点
頭が重い。
ぼーっとして、まともにものを考えられない。
悪い風邪にかかっちゃったのかな?
それとも……もっと酷い病気?
私はベッドの上に寝て、ただ苦しそうに声をあげるしかできない。
レオンおじさんは、とても心配そうにしていた。
おじいちゃんも村のみんなも、心配そうにしていた。
ごめんね。
迷惑かけて、ごめんなさい。
私……
うん。
これ以上、みんなに迷惑をかけたくないから。
ここで終わりになったとしても……いいよ?
女神様、聞こえますか?
私は、もう……大丈夫です。
これ以上は、なにも望みません。
だから、せめて、最後はちょっと楽にしてほしいです。
……なんて。
そんなことを祈ったんだけど。
『……それは許可できません』
ぼーっとした頭の中、ふと、そんな声が聞こえてきたような気がした。
でも、私が今、どこにいるのかわからない。
ふわふわと浮いているようで、でも、どこにいるかわかなくて……
ただ、とても温かい人が近くにいるような気がした。
『大丈夫、あなたは助かりますよ』
「でも私、これ以上、みんなに迷惑は……」
『それは本心ですか? もうみんなに会えなくてもいいのですか?』
「……」
『沈黙、それがあなたの答えですね。ふふ、あちらの子と同じように、あなたも素直になれない子なのですね』
「どういうこと……?」
『秘密です。でも、安心してください。先も言いましたが、あなたは助かりますよ。あなたのための騎士が、今、全力で……心からの本気で、あなたを助けるためにがんばっていますからね』
「お姉ちゃんは……」
『だから、安心して今はお休みなさい……私の愛し子よ』
……なんて、そんな夢を見た。
曖昧で。
よくわからない夢。
ちょっと恥ずかしいから、レオンおじさんにも内緒だ。
でも、あれは、とても大事な夢のような気がして。
「……なんだったのかな?」
よくわからないけど……
でも、夢の中のお姉ちゃんが言っていたことは本当だ。
レオンおじさんが私のことを助けてくれた。
嬉しい。
嬉しい。
嬉しい。
「……レオンおじさん……」
これからも……
ずっと、ずっと一緒にいたいな。
――――――――――
王都の王城。
そこにある聖女の私室で、リュシアはベッドに横になっていた。
コホンコホンと咳がこぼれる。
熱も高く、意識が朦朧とした。
コーラル病だ。
大人はかからないが、まだ大人の手前であるリュシアは感染した。
幸いというべきか、王都なので特効薬はいくらでもある。
早くに処置をしたため、重症化することなく、命の危険もない。
ただ……
「……ねぇ、誰か……」
寝たままのリュシアは、人を求めて声を発した。
……それに応える者はいない。
「ねぇ……誰か、いないの……?」
水が欲しいわけではない。
空腹になったわけでもない。
体を拭きたいわけでもない。
ただ……
「なんで……あたしだけ、なのよ……」
一人が寂しいだけだ。
ふと、リュシアは昔のことを思い出した。
いつだったか?
風邪を引いた時、レオンが徹夜で看病してくれた。
なんでもわがままを聞いてくれて。
ずっと手を握ってくれていた。
繋いだ手は温かく……
かけられた声も、やはり温かい。
「……パパ……」
無意識のうちに呼びかけるものの、しかし、それに応える者はいない。
レオンは、もう王都にいない。
聖騎士ではない。
なぜなら、リュシアが追放したから。
「あたしは……」
リュシアは、おぼつかない意識で、レオンのことを考える。
口うるさくて、心配性で、やはり口うるさい。
でも、本当は優しくて、頼りになる父親で……
「あたし……本当は……」
その先の言葉は続かず。
リュシアは、薬の影響で眠りに落ちた。




