18話 お願いだから……
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
村長の家。
ティカの部屋。
ベッドの上で、ティカが荒い吐息をこぼしている。
顔は耳まで赤く、汗で額が濡れていた。
タオルを冷たい水で絞り、額に乗せる。
少しだけ、ティカの様子が落ちついた。
「どうじゃ、ティカの様子は?」
換えの氷水を持ってきてくれた村長が、そう訪ねてきた。
……あれから治癒師に薬草を渡して、特効薬を作ってもらった。
すぐにティカに飲ませたものの、一瞬で治るということはない。
治癒師の話によると、特効薬を飲んだ以上、もう安心とのこと。
ただ、しばらくは高熱が続いてしまうとのこと。
「……もどかしいな」
熱にうなされるティカの手を握る。
こんなに小さい。
こんなにも……
俺は、なにもしてやれない。
できることなら代わってやりたい。
俺が全てを引き受けたい。
しかし、それはできず、ただ、こうして看病をするしかない。
「レオン……そろそろ交代しよう。昨日から、寝ずに看病をしているではないか」
「いや、俺は大丈夫だ。それよりも、村長に休んでほしい。俺がダメになった時は、その時こそ、村長に代わりを頼みたい」
「しかし……」
「……頼む。このまま、ティカの看病をさせてほしい。彼女と……一緒にいたいんだ」
「……わかった。ただ、無理はするでないぞ」
「ああ」
村長は静かに部屋を出ていった。
俺のわがままを押しつけてしまい、申しわけない。
ただ、今は、ティカの傍を一分一秒も離れたくなかった。
今まで、ティカが俺と一緒にいてくれたように。
今度は、俺がティカの傍にいる番だ。
こうして一緒にいるだけで、なにができるわけでもない。
彼女の苦しみを肩代わりすることも、軽減することもできない。
それでも。
「……ティカ……」
ティカを手を握り、祈るように額に当てる。
どうか。
どうか、女神様……
ティカを助けてください。
お願いします、本当にお願いします。
俺は、娘に嫌われるような、どうしようもない父親だ。
聖騎士の任務も放りだしてしまった。
そんなダメな男だが……
これ以上、なにも救えない男になんてなりたくない。
ティカは……
今度こそは……
「どうか……!」
祈りの言葉を口にしつつ。
俺は、夜が明けて太陽が登り。
そしてまた夜が訪れるまで、ずっと看病を続けた。
――――――――――
「……レオン、おじさん……?」
「ティカ!?」
ティカが倒れてから、三日目の夜。
ようやくティカが意識を取り戻した。
まだ熱は高く、意識は朦朧とした様子だ。
それでも、しっかりと俺を見ていた。
ぎゅっと、繋いだ手を握り返してくれた。
「よかった……気がついたのか」
「私……」
「もう大丈夫だ。少し、厄介な病気にかかっていたんだ」
「そっか……レオンおじさんが、看病をしてくれていたの……?」
「ああ。でも、俺だけじゃない。村長や村のみんな、子供達も、何度も何度もお見舞いに来てくれたぞ」
「えへへ、そっか……後でお礼を言わないとだね」
「そうだな。でも、まずは体をしっかりと治そう。話はそれからだ」
「……うん……」
ティカは、弱々しく頷いた。
ただ、その顔には笑みが浮かんでいる。
優しくて、いつもの太陽のような笑顔で……
でも、ともすれば泣きそうな。
初めて見る顔だった。
「レオンおじさんは……ずっと、一緒にいてくれたの……?」
「ああ、もちろんだ」
「どうして……?」
「……ティカと一緒にいたいと思った。絶対に傍を離れたくないと思った……不思議と、そんなことを強く思ったんだ」
「えへへ……」
ティカは、弱々しく笑う。
ただ、とても晴れやかな笑みだった。
「私と同じ……だね」
「……ティカ……」
「私も、レオンおじさんと、ずっと一緒に……」
そこが限界だったらしく、ティカは再び眠った。
ただ、今度は吐息は落ち着いていた。
まだ熱は残っているものの、今までのように高熱ではない。
よかった。
一番苦しい時間は乗り越えたみたいだ。
「ティカ……俺が守るからな。必ず……守る」
ティカの手を握りしめつつ、俺は、強い決意を口にした。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
レオンとティカの、ちょっと不器用で温かい日々はまだまだ続きます。
「面白かったな」「続きも気になるな」と思ってもらえたら、
ぜひブックマークや評価で応援してください!
みなさんの応援が、次の話を書く大きな力になります!




