17話 邪魔をするのならば容赦はしない
急いでいるため最低限の準備だけにして、俺は村を出た。
クライドが同行したがっていたが、例の進化体の懸念もある。
クライドは村に残ってもらい、村人達を守ってもらうことに集中してもらうことにした。
悔しそうにしていたが……
「くそっ……俺、こんな大事な時にアニキの役に立てないなんて、舎弟失格だ!」
「そんなことはない」
クライドの肩をぽんと叩いた。
「クライドが村を……ティカを守ってくれると信じているからこそ、俺は、安心しで北に向かうことができる。もしも、他に誰もいなければ、俺は、村を離れることができなかっただろう。クライド、これは、お前にしかできないことだ」
「……アニキ……」
「ティカと、村のみんなのこと……頼めるか?」
「はいっす!!!」
最後は笑顔を見せてくれた。
心配してくれる村人達。
ティカを助けてと、お願いする子供達。
みんなに見送られながら、俺は、北へ向かう。
――――――――――
「……なるほど。話に聞いていたように、酷い場所のようだな」
北へ進むと、巨大な谷が。
まるで、神が刃を振り下ろして、大地を割ろうとしたかのようだ。
そこを越えてさらに進むと、荒野が広がる。
土と岩しかない、枯れた大地だ。
そこを根城にするのは、無数の魔物。
ウルフやゴブリンといった、低位の魔物。
それだけではなくて、グリフォンやブーストタイガーなどの中位の魔物。
そして……
「グルォオオオオオッ!!!」
ドラゴンという、高位の魔物も存在した。
いい獲物が現れた。
どのように食い殺してやろうか?
そのような感じで、魔物達は咆哮を響かせた。
「……煩わしいな」
俺は剣を抜いた。
体内を流れる魔力をコントロール。
そこに手を加えて、ただの魔力ではなくて、さらに一段上の力に変質させる。
『聖闘気』
聖女を守る聖騎士だけが会得できる、最強の切り札だ。
「ガァッ!」
巨大な虎……ブーストタイガーが、待ち切れないといった様子で喰らいついてきた。
俺は無視して、好きにさせる。
ヤツの牙が俺を捉えるものの、肉を貫くことはない。
むしろ、逆にブーストタイガーの牙の方が折れた。
これが『聖闘気』だ。
魔力による単純な身体能力の強化ではない。
物理的な強化も可能で、その威力は見ての通り。
それだけではない。
「失せろ」
『聖闘気』を剣にまとわせて、一閃。
鋼鉄のような毛を持つと言われているブーストタイガーを、なんの抵抗もなく、紙をナイフで切るように軽々と両断した。
それだけではなくて、その周囲にいた複数の魔物も、まとめて断ち切る。
おまけの一撃ではあるが、それだけの威力を秘めていた。
これこそが『聖闘気』の力だ。
完全な攻撃力を誇り。
完全な防御力を誇り。
使用者の力をどこまでも引き上げる、極限の攻防一体奥義……『聖闘気』。
以前、ウルフの進化体と遭遇した時は使わなかった。
使えない、と思っていたのだ。
『聖闘気』は、聖騎士に与えられた力。
言うなれば、女神の祝福だ。
しかし、今の俺は聖騎士ではない。
「聖騎士を辞めたことで、女神の祝福も失い、使えなくなっていると思っていたが……問題なく使えているな。なぜだろうか?」
……まあいい。
今は、薬草を採取することだけを考えよう。
「お前達」
『聖闘気』を全身にみなぎらせて。
そして、言い放つ。
「今の俺は、心の余裕がない。どけ」
「「「ッ……!?!?!?」」」
魔物の群れが怯んだ。
「邪魔をするのならば……斬る!」
そして俺は、魔物の群れに突撃した。
――――――――――
「レオンさんは、大丈夫でしょうか……?」
ティカの様子を診る治癒師は、心配そうに呟いた。
それに対する、村長や他の村人達の反応は……
「なに、問題はないじゃろう」
「そうだな。前は心配したこともあったけど、今は、それは無用ってことを知ったからな」
「レオンなら、無事に戻って来るさ」
誰もがレオンの生還を信じて疑わない。
薬草を採取して戻ると、それが確定として受け止めている。
強がりではない。
信頼だ。
「あいつ、ぶっきらぼうに見えて、面倒見がいいヤツだからな。ましてや、すごく大事にしてるティカちゃんのためだ。絶対に戻ってくるさ」
「俺は、北の魔物に同情するね。ちらっと、出立するレオンを見たけど、すごい気迫だったからね。今頃、魔物達は酷い目に遭っているんじゃないかな?」
「うむ……そうじゃな、信じて待とう」
村長は、皆の言葉についつい涙してしまいそうになる。
初日は、レオンのことを怪しみ、警戒する村人がいた。
しかし、今はどうだろう?
誰もがレオンのことを信じている。
家族の一員と考えている。
そのことが、我が子のことのように嬉しい。
村長は子供がいない。
縁あってティカを引き取り育てているものの、歳が離れすぎているため、親子のようにはなれない。
だからこそ、レオンのことを息子のように思っていた。
大事に思っていた。
そんなレオンが村人達に認められて、一員になることができた。
どれだけ嬉しいことか。
「レオンよ……早く帰ってくるのじゃぞ。そして、くれぐれも安全にな」
……そんな村長の祈りは届いたらしく。
しばらくして、レオンが薬草を手に帰ってきたという知らせが村中を駆け巡るのだった。




