15話 憧れの的
いくらか懸念は残るものの、無事、進化体を討伐することができた。
これで、しばらくは村は平和だろう。
ただ一つ、困ったことがある。
それは……
――――――――――
「アニキー!」
「「「アニキーーー!!!」」」
買い物のために外に出ると、子供達が笑顔でやってきた。
みんな、口を揃えて「アニキ」と言う。
「あー……おはよう」
「おはよう、アニキ!」
「アニキはなにをしているの?」
「私もアニキと一緒に行くー!」
……こんな調子だ。
あれから、クライドが村中に俺のことを話して回ったらしく……
子供達の間では、なぜか俺が英雄視されて、親しみと尊敬を込めて、クライドと同じように「アニキ」と呼ぶようになっていた。
「その……アニキはやめてくれないか?」
「えー、なんで?」
「アニキはアニキだよねー?」
「違うよ」
一緒についてきたティカが、子供達の言葉を否定する。
いいぞ。
その調子で諭してくれ。
「レオンおじさんは、アニキじゃなくて『えいゆー』なんだよ!」
「えいゆー……?」
「絵本に出てくるような?」
「マジで、すっげー!」
「えへんっ」
ティカ……さらに状況が悪化しているぞ。
それと、なぜキミが自慢そうにする?
……家族のような存在が褒められて嬉しい、ということだろうか?
そう思ってくれているのなら嬉しいが……
ただ、リュシアのことが頭をよぎり、素直に尋ねる勇気もない。
……情けない男だな、俺は。
「レオンさん!」
子供の一人が、まっすぐな顔でこちらを見た。
「俺に剣を教えてくれよ!」
「なぜだ?」
「俺も、レオンさんみたいな『えいゆー』になりたいんだ!」
「しかし……」
「あと……あんなことがあっても、守られているだけなんて嫌なんだ! 俺だって、みんなを守りたい!」
……ウルフに襲われた時のことか。
無力を感じた時の絶望。
その気持ちは痛いくらいにわかるつもりだ。
「俺は英雄ではないが……わかった、少しくらいはいいか」
「僕も!」
「私も!」
「わかった、まとめて面倒を見よう」
こうして、臨時で村の子供達に剣を教えることになった。
――――――――――
木の枝を渡して。
それを剣に見立てて、素振りの方法を教えて。
一時間ほど、剣の扱い方を教えた。
「「「……」」」
みんな、なぜか呆然とする。
「どうした? 疲れたか?」
「ち、ち……違うよ!?」
「なんか僕、ものすごく剣が振れるようになっている気がするよ! 剣じゃなくて木の棒だけど!」
「私も、すごくうまくなったような気がする!」
「もちろんだよ! だって、レオンおじさんは剣の達人だからね! むふー♪」
だから、なぜティカが誇らしそうに?
「みんな、筋がいいんだろうな。俺も、教えていて楽しかった」
「本当!?」
「ありがとうございます、レオンさん!」
「「「ありがとうございます!!!」」」
揃って頭を下げた。
とても礼儀正しい子供達だ。
この子達は、いずれ成長して剣士などになって、村を守る一員になるのだろうか?
それとも、冒険者や騎士になるのだろうか?
どちらにせよ未来が楽しみだ。
「ありがとう、レオンさん!」
「また教えてね!」
「それは構わないが、ちゃんと練習を欠かさないように。今日、教えた事を、ちょっとずつでもいいから繰り返して、体に覚え込ませること。わかったな?」
「「「はーーーい!!!」」」
子供達は元気に返事をして、立ち去った。
他に用事があるのだろう。
……と思ったら、女の子が一人、戻ってきた。
「レオンさん、レオンさん」
「どうしたんだ?」
「レオンさんって、結婚していないんだよね?」
「そうだな」
「なら、将来は、私がお嫁さんになってあげるね♪」
「えぇ!?」
なぜか、ティカが強く反応した。
「えっと……ありがとう。キミなら、きっといいお嫁さんになれるだろうな」
「えへへー、レオンさん、かっこいいし優しいし、強いから好き♪ 絶対に私と結婚してね?」
女の子は、今度こそ立ち去る。
「むぅ……」
「ティカ?」
「……なんでもないよ」
なにかしてしまっただろうか……?
「俺も、買い物を済ませないとな……ティカ、行こう」
「あ……うん、そうだね。いこう! えへへー♪」
ティカはにっこり笑顔で、とてもごきげんだ。
よかった、きげんを直してくれたみたいだ。
「どうしたんだ?」
「レオンおじさんがみんなの人気者で、嬉しいな」
「そう……なのだろうか?」
騎士ではなくなり、ただの歳を重ねた冒険者になった俺が、人気者に……?
「レオンおじさんはかっこいいよ! 私、かっこいいところ、いっぱい知っているもん!」
「ありがとう、ティカ」
「にゃふー」
「……ティカがそう思ってくれているのは、その……なぜだろうか?」
「んにゃ?」
「俺のことを……家族のように思っているから、俺のことになると、誇らしい気持ちになるのだろうか?」
「えっと……えへへ。うん、そうだよ♪」
ティカは、ちょっと照れた様子で言う。
「レオンおじさん、その……ね? なんだか……お父さんみたい♪」
「……俺が……?」
「うん! かっこよくて優しくて頼りになって……一緒にいると、ふわふわーって温かい気持ちになるの! パパみたいで、にっこりしちゃうの!」
「……そうか」
その言葉は、俺の胸にとても染みた。
よくも悪くも……染みた。
「ありがとう、ティカ」
「ねえねえ、レオンおじさんは?」
「うん?」
「私のこと……どんな風に思っているの?」
「それは……」
答えはすぐに出た。
ただ、照れが先行してしまい、言葉に迷う。
……と、俺はバカだろうか?
ティカが素直な想いを教えてくれたのだから、俺は、きちんと応えるべきだ。
「……もう一人の娘みたいに思っている」
「にゃはー♪」
ティカは、にっこり笑顔になった。
「あれ? もう一人っていうことは、レオンおじさん、子供がいるの?」
「そうだな……娘が一人。ただ、怒らせてしまってな。会えていない」
「大丈夫! レオンおじさん、優しいから、絶対に仲直りできるよ!」
「そうだろうか……?」
「うん! それまでは、私が一緒にいてあげるね♪ ぎゅー!」
ティカは、俺の心の隙間を埋めるかのように、笑顔で抱きついてきた。
優しくて、温かくて。
……本当にいい子だな。
「ありがとう、ティカ」
「えへへー、どういたしまして♪」
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