11話 狩りに行こう
「よう、レオン!」
翌日。
冒険者ギルドに顔を出すと、クライドの姿があった。
「よう、クライド!」
ティカが真似をして、男っぽい挨拶を返した。
「ティカ、そういう口をきいてはいけない」
「ふぇ?」
「もちろん、ティカがクライドに親しみを持ち、それ故の挨拶ということはわかる。ただ、親しき中にも礼儀あり、だ。きちんとした挨拶をしないと、ダメな言動が当たり前になってしまい、自分の品格を落としてしまうことになる……俺の言っていることは、わかるだろうか?」
……いや、待て。
こういう言動がダメで、リュシアを怒らせてしまったのではないか?
見守るべきではないのか?
迷うのだけど、
「……うん、ごめんなさい」
ティカは反省した様子で、素直に謝罪をした。
「レオンおじさんの言う通りだよね……私、ちょっとダメだったかも」
「あ、いや。俺も言い過ぎたかもしれない。あまり気にしないでほしい」
「ううん、そんなことないよ。レオンおじさんが教えてくれなかったら、私、間違ったままだったと思うから。だから、注意してくれてありがとう、レオンおじさん」
ティカは、にっこりと言う。
もしも、これがリュシアだったら……
『は? 品格? 聖女であるあたし以上に品格を持っているヤツなんていないでしょ。ってか、あたしは聖女様なの。相手が下に出るべきで、あたしは上にいて当然。わざわざへりくだる必要なんてないわ』
……と、反発されていただろうな。
というか、実際に、似たような感じで反発されていた。
よかった、ティカは話を聞いてくれた。
とはいえ、俺も全て正しいことを言うなんてこと、ありえない。
自覚なしに間違ったことを言う時もあるだろう。
気をつけないとな。
しかし……
リュシアは、今、王都でうまくやっているだろうか?
追放されて、親子の縁も切られているが……
それでも、そう簡単に忘れることはできず、うまくやっていてほしいと願う。
「レオンおじさん、どうしたの?」
「いや……なんでもない、大丈夫だ」
「そう……? 痛かったりしたら、言ってね? ティカ、がんばるから!」
「ああ。なにかあれば、頼りにさせてもらうよ」
「にゃふー」
頭を撫でると、ティカは嬉しそうな顔をした。
なんだか猫みたいだ。
「ところで、レオンはヒマはあるか?」
クライドが思い出した様子で問いかけてきた。
「なにかあれば、依頼を請けようと思っていたが……」
「ギルドの方は問題ありません。というか、クライドさんに協力してあげてほしく……」
シェフィを見ると、そんな説明が返ってきた。
「ちと、一狩り行こうと思うんだが、レオンも一緒に来いよ」
「狩りというのは……動物か?」
「いや、魔物だ。適度に数を減らしておかないと、危ないだろ? ついでに素材も手に入れて、色々と利用したいって感じだな」
「なるほど……了解した。同行しよう」
「おっしゃ、決まりだな! 冒険者の先輩として、俺が狩りのイロハを教えてやるよ!」
「なんでしょう……逆に、クライドさんが教えられる未来しか見えないのですが……」
「レオンおじさん、クライド、がんばってね!」
ティカの応援を受けつつ、俺達は村の外に出た。
――――――――――
「よし! じゃあ、今日は先輩として、狩りの仕方を教えてやるぜ!」
「よろしく頼む」
森の中に移動したところで、クライドが先頭に立つ。
「まずは、獲物の見つけ方だな。動物と魔物では行動パターンや習性が違うから、通常の狩りの方法は通用しないんだ」
「そうだな、それは知っている。動物は本能が動くことが多く、あまり考えることはしない。足跡や臭いを辿るのが定番の方法だろうか? 一方、魔物は知能が高い個体が多く、こちらを罠に仕掛けようとする。それを見抜いて、冷静に対応することが必要だな」
「お、おう……詳しいな? 俺が言おうとしたこと、全部、言われたぜ」
騎士として、魔物の相手はうんざりするほとしてきたから、それなりの知識はあるつもりだ。
「それじゃあ、そんなずる賢い魔物の狩り方をレクチャーするぜ! レオンも言った通り、やつらはずる賢い。足跡を見つけても、それは罠の可能性があり、仲間のところへ誘い出される、なんてこともある。臭いも同様に、罠を仕掛けられることがある。だから、魔力を探すべきなんだぜ」
「魔物は、動物と違い魔力を持つ。故に、魔力を探知すれば自然と魔物の存在を突き止めることができる、というわけだな?」
「お、おう……またしても詳しいな? と、とにかく、実践してみるぜ。今日は、ウルフを狩ろうと思うが……そうだな、連中の魔力はあっちから感じるぜ!」
クライドは北を指さした。
確かに、そちらからウルフらしき魔力を感じるが……
「より正確に言うと、北東ではないだろうか? 北東からも魔力を感じて、それは他の個体よりも強い。おそらく、群れのボスがそちらにいるのだろう」
「えっ、マジか!? えっと……あ、マジだ! 確かに、北東からも感じるな! おいおいおい、すごいな、レオン! 俺が見逃していたのに、それに気づくなんて……レオンは、冒険者の才能があるかもしれないぜ」
「そうなのか? ありがとう」
クライドのようなベテランの冒険者にそう言われたら、そこそこ自信がつくな。
がんばろう、という気持ちになる。
「ウルフは、必ず群れで行動する。その辺りは、狼と同じように、仲間意識が強いからだ。あと、群れの方が狩りが成功しやすい、という理由だな。だが、恐れることはないぜ! 連中は数は多いが、個体の力は弱い。俺とレオンが力を合わせれば、問題なく倒せるはずだ!」
「そうだな。足を引っ張らないように、がんばろうと思う」
「謙虚にならなくてもいいぜ。シェフィから、レオンは強いって聞いているからな。俺と肩を並べるつもりで、一緒に力を合わせて戦おうぜ!」
「わかった、共にがんばろう」
二人、息を潜めて進んでいく。
ウルフの魔力反応。
それと気配が近くなり……
「……いたぜ」
森の中の広場に、二十頭ほどのウルフがいた。
今は休憩中らしく、のんびりとした様子でそれぞれがくつろいでいる。
「よし。俺が突撃するから、レオンは援護を頼むぜ」
ふむ?
ただのウルフとはいえ、単純な突撃は効率が悪いが……
『パパうざい、どうでもいいことで口を挟まないで!』
……そうだな。
そこまで大きな問題があるわけではない。
クライドに任せることにしよう。
「わかった、背中は任せてほしい」
「へへ、頼りにしているぜ」
カウントダウン。
ゼロを刻むと同時にクライドが前に出て、遅れて、俺も剣を手に広場に出た。
そして、二人でウルフの群れを相手にする……
――――――――――
「これで……ラストだ!」
クライドが剣を一閃させた。
その軌跡は鋭く、ウルフは避けることができない。
胴を両断されて、そのまま地に沈む。
「へへ、どうだ? これが俺の実力さ!」
「ああ、素晴らしいと思う」
彼なら、すぐにでも騎士になれるだろう。
それだけの確かな実力がある。
「……しかし」
先日に続いて、ウルフの群れか……
王都の方ならともかく、辺境でここまで数が多いなんていうことは、あまりない。
よくないことの前触れかもしれないが、しかし、それを調べる術を持たない。
あいつがいれば、そういうことは簡単にわかるのだけど……
追放された今、残念ながら、簡単に連絡を取ることはできない。
仮に連絡を取れたとしても、こんな辺境まで来てくれるわけないか。
「よし! 素材を回収して村に帰ろうぜ」
「ああ、そう……っ!? 危ない!!!」
「え?」
クライドを突き飛ばして、代わりに前に出た。
同時に抜剣して、突如、襲い来る黒い影を受け止める。




