10話 もう一人の冒険者
その日から、防壁の補修、強化の作業を始めた。
俺が外に出て、石材や土を集めてくる。
その間に、ティカが木材を謎の力で強化する。
どこからか話を聞いたらしく、村のみんなも手伝ってくれた。
みんなも自分の仕事や他にやることがあるはずなのに。
「これは村の問題だろう?」と、笑顔で手伝ってくれる。
……本当にいい人達だ。
感謝しつつ、作業をすすめていく。
既存の防壁に沿わせる形で、新しい防壁を構築した。
本来ならとても大変な作業で、数カ月はかかるだろう。
ただ、村のみんなが協力してくれて。
その上で、チームワークはバッチリ。
おかげで、一週間ほどで見事な防壁を完成させることができた。
「「「おおおおおぉ!」」」
完成した防壁を見て、村人達が歓声をあげる。
厚さは、倍の六十。
高さも倍の四メートル。
さらに、既存の防壁に沿わせる形で建築することで、強度は倍増。
既存の防壁も壊すことなく利用できて、理想的な防壁ができあがった。
「すごいな、レオン!」
「これはレオンが考えたんだろう? こんな工法を思いつくなんて、なかなかできることじゃないよ」
「いや、これは……」
王都の方では主流になっている工法なので、俺の力ではない。
「レオンの力さ」
農夫のリックが笑顔で言う。
「レオンが防壁の問題を見抜いて、改善するために動いてくれた。俺達だけだったら、こうはならない。なにも気づかないままだ。だから、レオンのおかげだ」
「そう……なのだろうか?」
「そうさ。もっと誇れ。俺がやってやりました、ってな。それくらいのことをレオンはやってのけた……すごいことさ」
「おう、その通りだぜ! レオンは、俺達の誇りだ」
「今度、酒を奢らせてくれよ!」
「……ありがとう」
そんな風に褒められるなんて、思ってもいなかった。
素直に嬉しく、みんなの役に立てたことも嬉しく思う。
……いいところだな、エルセール村は。
やってきたばかりだけど、王都では得られなかった温かさに満ちている。
この村にやってきてよかった。
まだ短い間だけど、心の底からそう思うことができた。
これからもがんばろう。
「おぉ!? なんだ、これ!?」
浸っていると、ふと、大きな声が響いた。
我に返り振り向くと、見知らぬ若い男性が。
二十歳くらいだろうか?
大人ということは一目でわかるが、まだ若さが残っている。
服の上からでもしっかりと鍛えられていることがわかる。
軽装と腰に下げた剣を見る限り、冒険者だろうか?
「あっ、クライドさん!」
シェフィの知り合いだろうか?
「やっと帰ってきてくれたんですね。まったく連絡がないから、なにかあったんじゃないかと心配しましたよ」
「悪い悪い。手紙も出せないような、人がまったくいない場所にいたんだ。ただ……ほら、見てくれ。たくさん稼いできたぜ!」
クライドという青年は、背中に背負っていた大きなバックを地面に降ろした。
中から色々な種類の毛皮を取り出していく。
「どうだ!? これだけあれば、村のみんなもかなり楽になるだろ。売ってもいいし、加工してもいいし、なんでもアリだぜ!」
「すごい……こんなにたくさん。大変だったでしょう?」
「まあな。でも、村のためなら、これくらい大したことないぜ!」
「ありがとうございます。では、これで依頼は完了ということで、手続きさせていただきますね。それと、お伝えしたいことがあるんですが……」
「お? なんだ、見たことのない顔だな」
俺に気づいた様子で、青年は、やや警戒するような目をこちらに向けた。
「こちらは、レオンさん。応援にやってきてくれた、新しい冒険者ですよ」
「おっ、なんだ。同業者か! 悪いな、変な目で見て。たまーに、この村に変なやつがやってくるから、ちと疑ったよ。悪い悪い」
「いや、気にしていない。改めて……レオン・オライオンだ、よろしく」
「俺は、クライド・ガーランドだ! よろしくな、後輩!」
にかっと、気持ちのいい笑顔でそう言われた。
「く、クライドさん! レオンさんは、とてもすごい方で……」
「ん? そうなのか? レオンは、ベテラン冒険者なのか?」
「いや。歴でいうと、なったばかりだな」
「なんだ、新人じゃねえか。なら、変にかしこまる必要はねえな。あんたの方が歳上だが、冒険者歴は俺の方が上だ。先輩ってことでいいか?」
「ああ、それで構わない」
「おっ、話がわかるじゃねえか。おっさんになると、なんか、妙に頭の硬いヤツがいるだろ? 俺の考えが世界で一番正しい、みたいな。ああいうヤツは苦手だけど、でも、レオンとならうまくやっていけそうだ。よし! 先輩として、俺が冒険者について色々と教えてやるよ!」
「本当か? それはありがたい」
本心だ。
騎士歴は長いが、冒険者は話で聞いたくらいで、その実態を詳しくは知らない。
教えてもらえるというのなら教えてほしい。
「……おい、クライドにレオンのこと、しっかり教えておいた方がいいんじゃないか?」
「……色々と普通じゃないってこと、知れば驚くだろうな」
「……まあ、すぐに知るだろうし、これはこれでいいんじゃないか? 俺達だけ驚いて、クライドだけ驚かないって、不公平だろ」
「「「確かに」」」
村人達がなにやら話していたが、よくわからないので、気にしないことにした。
「ああもう……村の恩人でもあるレオンさんに、なんていうことを……」
「シェフィ、諦めよう? ああなったクライドは、もう人の話を聞かないよ?」
そんなことを言いつつも、ティカは楽しそうであり、嬉しそうだ。
他の村人達も、クライドの帰還を喜んでいる様子。
悪い者ではなさそうだ。
初めて見る顔ということで、俺も、わずかに緊張していたが……
警戒する必要はないらしい。
「ってか、この防壁なんだ? こんな立派な防壁じゃなかったよな?」
「レオンおじさんが考えて、みんなで作ったんだよ!」
「おぉ、マジか!? レオン、お前、やるなあ!」
「ありがとう」
「うんうん。冒険者は腕っぷしが強いに越したことはないが、俺みたいに、頭もよくないと務まらないからな。その点、レオンは合格だ! レオンなら、良い弟子になれるぜ!」
「そうだろうか? 自信はあまりないが……新人故、色々と教えてほしい」
「ああ、任せておけ! 冒険者の先輩として、しっかり鍛えてやるぜ!」
はっはっは、と得意そうにクライドが笑う。
……こうして、エルセール村の冒険者が二人になった。




