オーレーはジ〇イア〇
少し短めです
「ところでレベッカ先生、歌はご指導いただけないのでしょうか?」
「サラさん……とても言いにくいのだけど…私、音痴なの……」
「あ、そうなのですね…。それは、その失礼しました」
部屋の中に微妙な空気が流れる。
『あれ、もしかしてレベッカ先生って音楽そのものがダメだったりする…?』
そこにジュリエットが助け舟を出した。
「サラお嬢様、試しに歌ってみませんか?」
「あまり歌を知らないの。グランチェスター家に引き取られる前は、近所のお友達と歌ったこともあるのだけど、貴族令嬢としては口にできないような内容なのよね」
「確かに俗歌って楽しいですよね。子供が歌う気持ちはよくわかります。ちょっと内容は問題あるものも多いですけど。レベッカ様、差し出がましいかもしれませんが、私がいくつかサラお嬢様に歌を捧げてもよろしゅうございましょうか?」
「あら、それはとても助かりますわ。サロンで歌うことになるかもしれませんので、何とかしなければと思っていたところですの」
「では楽譜を用意してまいります」
いくつかの楽譜を取り出してきたジュリエットは、ピアノの譜面台に楽譜を置き、さらにピアノの脇にある譜面台の高さをサラの身長に調節してから歌唱用の譜面を置いた。
『あ良かった五線譜だ。これならわかる』
おそらく過去の転生者か転移者の功績だろう楽器や楽譜に感謝しつつ、サラは譜面台の前に立った。ジュリエットは補助ペダルを外してから椅子に腰かけ、ピアノを弾きながら歌い始めた
ジュリエットはやわらかいメゾソプラノであった。どうやら子守唄のようだ。
「眠れ眠れ可愛い子 神の御手に触れぬよう 見知らぬ星に落ちぬよう
眠れ眠れ可愛い子 神の御業に触れぬよう 私の許から去らぬよう
眠れ眠れ可愛い子 神の威光に触れぬよう 決して賢者にならぬよう」
『んーー? 神から逃げろってこと? 賢者ならなっても良さそうなのに』
前世でも子守歌はシュールな歌詞であったり、恨みがましい歌詞であることも多いが『それにしても変な歌詞だな』とサラは思った。
ジュリエットが歌い終わった後、サラも同じ歌を歌ってみた。なんとなく予想はしていたが、合唱団か聖歌隊を彷彿とさせるエンジェリックヴォイスであった。サラの歌声にジュリエットは再び滂沱の涙を流し、レベッカもマリアも聞き惚れた。
『うんうん。貴族令嬢の特技として十分よね』
周囲の反応を見てサラは暢気にそう思った。
「レベッカ先生。楽器演奏や歌唱を趣味とされている貴族令嬢もいらっしゃいますか?」
「ええ、たくさんいるわ。でも…」
レベッカの顔色があまり良くない。
「私の演奏や歌ではダメでしょうか?」
「素晴らしすぎて、趣味と呼べないレベルになってると思うの。気軽に披露すると面倒なことになりそうな気がするわ」
『な、なんですと!?』
この発言にマリアとジュリエットもこくこくと頷いている。レベッカはため息をつきながら、「その話は昼食のときにでもしましょう」とだけ言ってこの話を中断させた。
その後もジュリエットからいくつかの歌を教えてもらったところで、午前中の授業時間は終わりとなった。サラはジュリエットに今後もピアノを演奏しに立ち寄ることを約束し、音楽室を後にした。
サラは移動しながらつらつらと考えた。
『真っ先に教えそうな讃美歌をジュリエットは教えなかった。たまたま? それとも意図的に宗教色を避けた? そもそもこの国の宗教のことを私は知らない。もしかしたら私を転生させたのは、この世界の神かもしれないのに…』




