否定はしないけど肯定もしない
王都のグランチェスター邸に戻ったサラとエドワードは、帰りを待ち構えていたエリザベス、レベッカ、クロエと夕食を共にすることにした。
実はロバートも王都に来ているのだが、今夜はアカデミー時代の同級生と会食しているため帰りが遅くなるらしい。グランチェスター領で文官を中途採用するにあたり、ロバートは王宮文官として働いているかつての同級生に手紙を書いたのだ。グランチェスター領で働いてもいい優秀な人物に心当たりがないかと尋ねたところ、彼は何人か心当たりがあるという返事を寄こしたのだという。
「なるほど。お父様は優秀な文官を求めて会食をされているのですか。優秀な方がグランチェスター領にいらっしゃるといいですね」
サラの発言にエリザベスも頷く。
「王宮文官はとても難しい試験で選抜される優秀な人材ばかりなのよ。アカデミーの卒業資格さえあれば平民でも受験資格が与えられるから、貴賤を問わず優秀な人材が集まるの」
しかし、レベッカの意見は少し異なっていた。
「王宮文官の方々が優秀であることは否定しませんけれど、貴賤を問わずというのは言い過ぎではないかしら。明らかに貴族枠と平民枠があるように見えますわ。上級文官に昇進するのも貴族か貴族家出身の方々ばかりですもの」
「それは仕方のないことよ。貴族と平民では能力に差があるのは事実でしょう? 平民の中にも優秀な者はいるけれど、生まれ持った能力の高さを考えれば貴族の方が優秀よ」
『あー、なるほど。こういうところで伯母様の貴族至上主義が垣間見えちゃうのね』
「伯母様、私も貴族の方が優秀な人材が多いことは事実だと思います」
「サラもそう思うのね」
我が意を得たとばかりに嬉しそうな表情を浮かべたエリザベスに、サラはこくりと頷いた。
「裕福な貴族は、優れた教育を受ける機会は平民よりも多いはずです。家の手伝いをしたり、働いたりしなければならない平民とは違うのです」
「もちろんサラの言う事にも一理あるとは思うのだけれど、そもそも貴族の子供の方が平民の子供よりも優秀だわ」
「先程仰っていた『生まれ持った能力』ということでしょうか?」
「その通りよ。たとえば魔法使いの大半は貴族家の出身ですし、優秀な騎士を輩出するのもやはり貴族家よ。アカデミーで優秀な成績を残す教授たちも貴族が独占している。教育の賜物だとサラは言いたいのかもしれないけれど、その教育を受け取るためにも優れた資質が必要だわ」
サラは少しだけ首を傾げ、エリザベスの熱弁に否定も肯定もしなかった。
「正直なところ、私は伯母様の意見を否定できる材料を持ち合わせておりません。馬でも能力の高い馬を繁殖に使いますしね」
「サラ! 人を馬と同列に語るつもり!?」
「伯母様が仰っていることは、そういうことですわ。優秀な個体を掛け合わせて優秀な次代を作っているのだから、貴族は優秀だと主張されていると思うのですが」
「だからと言って、人と馬を一緒にするなんて!」
「でも、貴族家の家系図と馬の血統書って、内容はほぼ同じではありませんか」
「サラ!!」
「落ち着けリズ」
エドワードは、妻の背中をぽんぽんと軽く叩いた。
「確かに我ら貴族は年頃になると結婚を迫られる。確かに繁殖させられているのと大差ないかもしれないな」
「エドまでそんなことを言うの!?」
「だがリズだってそう思ったから、不快な気持ちになったんだろう?」
「それは……」
どうやらエドワードは、エリザベスの宥め方を心得ているらしい。その様子を見ていたレベッカは、少しだけ意地悪そうな表情を浮かべ、エドワードに向けて話し掛けた。
「ふふっ。リズはエドに相応しいから結婚したのではなく、エドに愛されたから結婚したのだと思いたいのよ」
「もちろん、私はリズを愛したから結婚したんだ」
「だけど貴族の矜持として、エドに相応しいから選ばれたとも信じたいの」
「母上もリズを気に入っていたんだ。相応しくないわけがない」
「ちょっと、二人で私の気持ちを勝手に代弁しないでいただけるかしら」
「あら、違ったかしら?」
「そんな小娘みたいなこと」
「考えたでしょう?」
レベッカに事実を指摘され、エリザベスは頬を赤く染めてエドワードから目を背けた。
『最近、伯母様が可愛らしく見えてきたわ。クロエの思考が乙女なのは伯母様似なのね』
「ちょっとサラ、私とお母様を交互にチラ見するのはやめてよ。どうせお母様似とか思ってるでしょ」
「わぁクロエ鋭い!」
「褒められてる気が全然しないわ」
「それは伯母様に失礼でしょ。私は可愛いところがそっくりって思っただけよ」
「「え、そうなの?」」
母と娘が二人で照れている様子は、確かにそっくりでとても可愛かった。
「話を戻しますが、私は結婚相手に優秀なパートナーを求めるのは、とても自然なことだと思っています。事実、多くの女性は優秀な方と結婚するため、本当に沢山の努力をするんです」
「サラ、はしたないですよ」
レベッカがそっと窘めた。
「はい。お母様。いえ、淑女教育ですからレベッカ先生とお呼びする方が良かったでしょうか」
「どちらでも構わないけれど、淑女たちの秘め事を殿方に明かすのはルール違反よ」
「そうよ。淑女協定に反するわ!」
「はーい。クロエ先生」
サラとクロエは見つめ合って、くすくすと笑いだした。
「ねぇサラ、貴族が生まれ持って優秀なのは事実だと思う?」
「その傾向はあると思う。遺伝的な要素は否定できないから」
「遺伝ってなに?」
「親から子供に性質や形質が受け継がれることよ。たとえば私の容姿は実の母とそっくりなんだけど、目の色は父さん譲りよ。父さんは祖母様からこの目を受け継いでいるわ」
「あぁなるほど」
「それにね『優秀』って言葉も曖昧だと私は思っているの。だって、魔力量が多くて魔法が使える人、身体能力に優れていて剣術の強い人、文官としての能力に優れている人、芸術的な才能に溢れた人、手先の器用な人、容姿が優れている人……どれが一番優秀な人なの?」
「確かに難しいわね。貴族家によっても基準が違うんじゃないかしら」
「時代によって求められる能力も違うわよね。私たちの祖先には、いろいろな素養を持った人たちが大勢いるはずよ」
「そうね」
「そんな大勢の祖先から、いろいろな性質や形質が私たちには受け継がれているわ。同じ親から生まれても、容姿や能力が同じじゃない理由の一つね」
「理由の一つってことは、他にも理由があるってこと?」
「もちろんよ。生まれてから経験するさまざまなことが人を作っていくの。親の愛情や食事が最初の経験になるのかな。だけど、それすら生まれ落ちた瞬間から全員が異なる経験をするのだもの、人が全員違うのは当たり前よ」
「うーーーん。もしかしてサラの言いたいことって、『貴族だからって優秀とは限らない』ってこと?」
「そうなるわね」
「裏を返せば『平民だからって優秀じゃないとは限らない』ってことでもあるわよね?」
どうやらクロエはサラの意図を正しく汲み取ったらしい。
「人にはいろいろな適性があると思うの。いま、クロエが着てるドレスはルーカスがデザインしたものだけど、それはルーカスが素敵なドレスをデザインする能力を持っているからだよね。でも、ルーカスの能力を伸ばすために、クロエはグランチェスター城の服飾担当者を紹介してなかったら、貴族向けのドレスを作ることはできなかったと思うの」
「それがルーカスの経験になって彼の能力を伸ばしたってことね?」
「彼はクロエに出会えて運が良かったわね。世の中は広くて、色々な才能を持った人が沢山いるのかもしれない。機会に恵まれずに世に出ない才能もきっと沢山あるのでしょうね」
「それって、凄くもったいないわ!」
「お二人とも会話に熱中し過ぎてお食事が進んでいないようね」
困り顔をしたレベッカが声を掛けた。
「申し訳ございませんお母様」
「大変失礼いたしました。レベッカ先生」
「興味深い議論でしたから邪魔をするつもりはなかったのですけれど、会食時のマナーはきちんと守らなければね。特にクロエさんは未来の王妃を目指すのでしょう?」
「はい。先生」
「でも、クロエさんのカトラリーの使い方は大変素晴らしいわ。サラはまだ手が小さいから、大人用のカトラリーは使いづらそうね」
「少し大きくて重いです」
「今日はわざと大人用を用意するように指示しておいたの。やっぱり難しそうね」
「何か理由があるのですか?」
これにはエリザベスが答えた。
「ロブとレヴィの結婚披露宴の晩餐会に、サラを同席させるか検討しているのよ。家族席に座ることになるのだけど、代々祝い事に使用されている家族用の食器は揃いになっていて、カトラリーもすべて大人用なの」
「子供用はないんですね?」
「あなたの誕生日会のようなお茶会とは違って、貴族家が主催する公式行事に子供が参加することはないのよ。子供の参加を禁止しているわけではないけれど、最低限のマナー教育が終わってないと参加させられないから」
至極当然ではあるが、公式行事の参加者はマナーに問題がないことが大前提である。行事の最中に子供が泣き出したり、暴れまわったりすることは許されない。万が一そんな事態になれば子供の躾もできないと他家から揶揄されるだけでなく、その子供の将来にも大きな影を落とす。そのため、公式行事に貴族の子弟が初めて参加する年齢は、多少の個人差はあっても大体12歳か13歳くらいになる。
「サラとしての参加は見合わせて、ソフィアで参加する手もあると思いますが」
「ロブが騒ぐに決まってるでしょ」
「なるほど。では大人用のカトラリーに似せた子供用のカトラリーを作っておきます」
「それが良さそうね」
食事が終わり、全員が家族用のリビングルームへと移動した。いつもなら、それぞれ部屋に引き上げることが多いのだが、何故か今日は会話すべきだと感じたらしい。
「クロエさん、少しだけいいかしら? リズも一緒に聞いて頂戴」
「レヴィ?」
エリザベスが不思議そうな表情を浮かべた。
「知っていると思うけど、私は王妃殿下から淑女教育……いいえ、正確には王妃教育を受けているわ」
「もちろん知っているわ」
「クロエさんが本気で未来の王妃を目指すなら、私の教育を受けてみる?」
「レヴィ、願ってもないことだけど、結婚後もあなたは忙しいのではなくて?」
「ええ私はこれから教育機関を立ち上げるつもりだから、とても忙しくなると思うわ。だからこそ、クロエに手伝ってほしいと思ったの」
クロエもレベッカに尋ねた。
「お手伝いはサラがするのかと思っていました」
「もちろん、サラにもお願いしたいけれど、サラにはサラのお仕事があるわ。役割分担ってとても大切よ」
「じゃぁ、サラの代わりということですか?」
「それも少し違うわね。私はクロエの意見を聞きたいのよ。先程の議論を聞いてて思ったの。あなたは『平民だからって優秀じゃないとは限らない』って言ったでしょ?」
「申しました」
「それを言える貴族ってとても少ないと思うわ。私はあなたの柔軟な思考をとても好ましいと感じたの。だから質問させてくれるかしら?」
「もちろんです」
「あなたは女性にも教育が必要だと思う?」
「淑女教育とは別にという意味で質問されていると思うのですが……」
そこまで言ったところで、クロエはチラリと両親に目を遣った。
「ふふっ。その視線だけでクロエさんの気持ちが分かった気がするわ」
「ちょっとレヴィ、どうして母親の私よりわかった顔をしているのよ!」
「リズ、クロエさんはとてもあなたたちを愛していて、あなたたちの気持ちを裏切りたくないのよ。だけどクロエさんは大人になりつつあって、自分の意見を持ち始めているの」
エリザベスは俯いてしまったクロエの肩にそっと手を置き、静かに声を掛けた。
「心配しなくてもいいのよ。あなたが何を言っても、私たちがあなたを嫌いになったりはしないから」
「でも……」
「さぁ、きちんとレヴィにあなたの意見を言いなさい」
「はい。お母様」
クロエはエリザベスに促されて顔を上げ、レベッカの目を見つめながら話し始めた。
「私は女子にも教育が必要だと思っております。貴族女性であっても家計のことは把握すべきです。お金のことを口に出すのははしたないと言われるかもしれませんが、とても大切なことだと思います。乙女の塔に通うようになって、私はいろいろなことを学びました。女性でもサラのように商人になれるんです。もちろん錬金術師、薬師、あるいは文官でさえ女性ができないとは思いません」
「なるほど。クロエさんはとても素晴らしい考えをお持ちね」
レベッカは満足そうに微笑んでいるが、クロエの両親であるエドワードとエリザベスは明らかに驚いていた。
「お母様、クロエの発言に伯父様と伯母様が固まっています。いきなり刺激が強過ぎたのではありませんか?」
「どうしようサラ、私間違えた?」
「あなたの意見なんだから、間違ってるとか間違ってないとかではないでしょう。伯父様と伯母様もしっかりしてください。このままではクロエが落ち込んでしまうではありませんか」
「でもサラ、うちのクロエがお金の話をするなんて!」
「父親が債務超過に陥った挙句、姪に金貨で殴られてるのを見たら自覚するのは当然ではありませんか」
「わ、私のせいなのか。私が至らないばかりに」
「間違いなく伯父様のせいですが、原因を作ったのは伯母様ですよ。アダムとクロエの散財についても、伯母様の責任は大きいですしね」
「そうか……」
サラは落ち込むエドワードとエリザベスを見て、大きなため息をついた。
「お金のことを学んだところで、クロエが人前でお金の話をするようになるわけじゃないですよ。きちんと淑女教育を受けていますからね。知らないよりも知っている方が、生きていくのに役立つというだけのことです」
「あー、もしかしたら他の令嬢にこっそり耳打ちくらいはしちゃうかも」
「クロエがそうした方が良いと思うなら、それでいいんじゃないかな」
「お父様、お母様、もう少し話しても大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だ。お前の好きなようにしなさい」
エドワードはぎこちなく微笑んだクロエに、小さく頷いた。
「レベッカ先生。先程のサラとの議論で私は気づきました。人は貴族であれ平民であれ、さまざまなことを学び、あるいは訓練して人の役に立つことが大切だと思います。もちろん男性でも女性でもです」
このクロエの発言にはサラも驚いた。貴族至上主義の両親そっくりにサラを侮り、イジメていた女の子はもういなかった。しかし、レベッカはそんなクロエの変化にも気付いていたらしい。
「ええ、私もそう思っているわ。だから学校を作りたいの。それは私一人の力だけでは難しいことだけれど、サラはもちろん、他の先生方も助けてくれるはずよ。だけど、何よりクロエさんのような次の世代を担う方に協力してほしいの。私は自分の持っているすべてをクロエさんに教えるし、同時に一緒に学ぶつもり。そしてクロエさんの後ろには、もっと大勢の淑女たちが続くことになるはずよ」
「おいおいレヴィ、紳士は置き去りか?」
やっと本来の調子を取り戻したエドワードは、気さくにレベッカに声を掛けた。
「トマス先生たちが何とかしてくれるんじゃないかしら」
「どうかなぁ。トマス・タイラーが学校の教師になれるかは微妙だと思うぞ」
「どうして?」
「将来はともかく、直近は女子教育が中心なんだろ? トマス・タイラーが教師になったら、生徒たちは教師の顔しか見ないぞ」
「あー、忘れてたわ」
美形慣れしているためグランチェスター城ではあまり騒がれないのだが、トマスは美しすぎる元文官の教師である。そもそも女性が原因で王宮文官を辞めていることを考えると、年若い女子生徒などひとたまりもないだろう。
「サラ、どうしたらいいかしら?」
「そもそもトマス先生は、スコットとブレイズがアカデミーに入学したら教師を辞めるそうですよ」
「ええっ! そんなもったいない」
「乙女の塔の司書になりたがっていましたけど、正直ゴーレムで十分なんですよね」
トマスが聞いたら泣きそうな発言である。だが、スコットとブレイズの成績は優秀で、来年のアカデミーの入試には十分に間に合いそうである。そう考えると、トマスは自分の進退を明らかにしなければならなくなるだろう。
「そもそもトマス先生に何を担当させたかったんですか?」
「数学と歴史よ」
「それはトマス先生でなくても良いでしょう。彼の専門は経済学です。前職から考えれば会計学も専門と言えるでしょうが、そこまでの高等教育は必要ですか?」
「最初のうちは必要ないわね」
「いきなり大勢の生徒が集まるわけではありません。まずはコーデリア先生を中心とした授業で良いのではありませんか? それに、アリシアやアメリアも新しい学校には協力するって言ってましたよ」
「まぁ、それは嬉しいわ!」
「教師になるかどうかはともかく、トマス先生も学校の設立には力を貸してくださるはずです。教科書もすべて揃ったわけではありませんしね」
「確かにその通りね」
和やかな会話の途中、サラはエドワードの視線が自分に向けられていることに気付いた。
「伯父様、何か言いたそうですね」
「いや、馬車の中の会話が途中だったことを思い出してな」
「それは祖父様がお戻りになってからという話ではなかったでしょうか?」
「そうなんだが……どうにも気になってな」
「特にどの話でしょうか?」
「パラケルスス師とアメリアの移動手段だ」
「教えても構いませんが、絶対に私をアテにしないと約束できますか?」
「要するにお前にしか使えないわけだな?」
「いまのところは私だけかと思います」
「将来的には他の人物でも使える可能性があるのか?」
「リヒトなら使えるようになるかもしれません」
「転生者でなければ使えない魔法なのか」
「いえ、魔力量と想像力の問題です。そう考えるとブレイズもできるかもしれませんね」
「そんなに簡単な方法なのか?」
「人によると思いますが、実際に見たらわかるかもしれません」
サラは無言で手を振り上げ、エドワードの私室の扉前に空間を繋げた。
「伯父様、その扉を開けてみてください」
「は? なんだこれは」
「伯父様の部屋じゃないでしょうか。間違ってないと思うのですが」
「もしかして、コレはアダムを助けた時と同じ魔法か?」
「はい。その通りです」
「確か『乱用できる魔法ではない』とか言ってなかったか?」
「ええ、まぁそうですね」
「コレは乱用じゃないのか?」
「実験ですから」
少しだけサラはエドワードから視線を外すと、隣に居たレベッカとエリザベスも興味津々でエドワードの私室を覗き込んでいる
「サラ、もしかしてどこにでも繋げられるの?」
「私がその場所を知っている必要があります」
「グランチェスター城にある私の部屋でも?」
「できますよ」
だが、エドワードは深くため息をついて、サラではなくクロエに向き直った。
「クロエ、お前は驚いてないな」
「え、わ、私も驚いています!」
「動揺すると嘘が下手になる癖は、貴族として致命的だぞ。どうやらお前は知っていたらしいな」
「だってサラと一緒にいたら『そういうもの』って思うしかないじゃないですか。それに便利ですし」
クロエの方が父親よりも柔軟であった。
「まぁ確かに便利だな。だが、コレはダメだろ」
「そうですよねぇ。自覚してないわけではないんですが」
サラは苦笑しながら、先程開いた空間を閉じた。
「さてさて、どう言い訳したものやら。マチルダ王女殿下の病状が落ち着いたら、パラケルスス師の移動について尋ねられるかもしれん」
「すぐに良い言い訳が思いつかないので宿題にさせてください。祖父様や伯父様のご迷惑にならない方法を考えます」
「あぁそうしてくれ。だが、不安で仕方がない。この件は父上を交えて改めて話すことにしよう。まったく頭の痛いことばかり次々と起こるな。ひとまず今日はもう遅い。子供たちはもう寝なさい」
エドワードはソファーにどっかりと座って目を閉じ、そっと眉間を揉み始めた。どうやら本当に頭が痛いらしい。
「承知しました伯父様。おやすみなさいませ」
「おやすみなさいお父様」
短い挨拶を済ませてサラとクロエが部屋を去ると、残された大人たちは一斉にため息をついた。
「もうサラのことでは驚かないと思ってたけど、まだまだ甘かったわ」
「折角肌が若返ったというのに、一気に老け込んでしまったような気がするわ」
「まったくだな。だが、あの魔法でアダムを助けてくれたのも事実だからなぁ……。ふっ、お前たち本当にサラを養女にして大丈夫か?」
「いまさら何を聞くかと思えば。毎日が驚きの連続になったとしても、サラが娘になってくれて嬉しいわ。ロブも同じ気持ちよ」
優し気に微笑むレベッカを見ていると、エドワードとエリザベスも驚きの日々が悪くないことのように思えてきた。
あけましておめでとうございます。
本当は2024年中に投稿したかったのですが、風邪を引いて寝込んでしまいました。
今年はWebの更新も、もう少し頻度を上げられるように頑張ります。




