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9歳の誕生日 7

「サラ。そろそろ演奏しなくてはね」


暢気に周囲を観察していたサラに、クロエが声を掛けた。


「もうそんな時間なのですね。楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいますわ」


正直、パーティ自体はあまり楽しんでいないサラではあるが、今日の演奏だけは楽しみにしていた。実は楽団と一緒にヴァイオリンを演奏することになっているのだ。最初はソロのピアノ演奏のつもりだったのだが、残念ながらこのホールにはピアノが置かれていなかった。ピアノを運び込むことも不可能ではないのだが、『たかが子供の誕生日にピアノを運び込んで調整するのは馬鹿馬鹿しい』というサラの一声でヴァイオリンの演奏に決まった。


サラは独演のつもりだったのだが、エリザベスがパーティのために手配した楽団の代表者から『折角なので一緒に演奏しないか』という誘いを受けた。狩猟大会以来、サラの演奏は社交界でも噂になっており、楽団もサラの噂に乗っかって知名度を上げたいと考えていた。今回成功すれば、こうしたパーティでの仕事が増えるかもしれない。


舞踏会でもないのに楽団を呼ぶのは、社交界の最近の流行である。パーティのBGMのためだけに楽団を呼ぶ行為は酷く贅沢に思えるが、こうした貴族家の需要がなければ楽団員たちの多くは音楽だけで食べていくことができない。音楽の仕事がない日には、農家や商家で働いたり、人によっては冒険者として依頼をこなしたりするのだそうだ。


そう考えれば、ゲルハルト王太子が音楽家を始めとする芸術家のパトロンになっていることは、ロイセンの文化を発展させる重要な役割を担っていると言えるのだろう。サラはなるべくこの流行が長く続くよう積極的に新曲を提供するつもりでいる。もちろん、商人としてシュピールアの売上向上を目的としているが、文化発展の一助になりたいと考えているのも嘘偽りのない本音である。


楽団からの誘いは、シュピールアの音源を増やしたいソフィア商会にとっても渡りに船であった。リハーサルで音を合わせた瞬間、サラはこの楽団と演奏したい曲が次々と頭の中に浮かんできた。サラは今回のパーティ用にヴィヴァルディの四季のオーケストラ譜を書き起こした。ヴィヴァルディ自身はこれらを四季と総称したことはないらしいが、更紗だった頃には四季と呼ばれるのが普通だった。ちなみに、今日演奏するのは季節に合わせて『冬』である。楽譜はすべての季節を書いているが、サラ個人としては、夏の第3楽章と冬の第1楽章が好みだ。


相変わらずの音楽チートではあるが、マルカートが嬉々として付与したスキルであろうことは容易に想像できる。何しろ過去に聞いたことのある曲であれば細部まで詳細に思い出せる上、オーケストラ譜まで書き起こせるのだ。便利なのでサラも気に入っているスキルではあるが、マルカートが望むほどサラが音楽にのめり込むことは無さそうである。




アルフレッドにエスコートされ、サラはゆっくりと楽団が控えている舞台へと歩を進めた。主役の移動ということで、招待客たちも一斉にサラとアルフレッドを見つめている。楽団の近くに控えていたジュリエットから自身のヴァイオリンを受け取り、楽団と音合わせした後に指揮者と軽くアイコンタクトをとる。


指揮者はサラに微笑み掛け、タクトを軽く振り上げた。そして、指揮者はコンサートミストレスを務めるヴァイオリン奏者の女性に向かって軽くタクトを振り下ろした。それが開始の合図である。サラに向かうのではなく、コンミスに向かっているのは、指揮者とコンミスが演奏全体を統率しているからだ。サラを引き立たせるという目的を忘れているわけではないが、この二人にとってサラは楽器の一つでしかない。


冒頭の数小節で会場の雰囲気が一変した。先程までのざわめきが嘘のように静まり返り、楽団の奏でる音が空間を支配していく。


『あぁ心地いいなぁ』


サラは自分が音楽の一部になっていることに、不思議な喜びを感じていた。グランチェスター領に吹き荒れる冬の強風のように激しい音を奏でても、指揮者とコンミスはサラを孤独に暴走させることはない。むしろ、目の前に見たこともない冬の情景を呼び起こすようにサラを向かうべき方向へと導いていく。


『ゲルハルト王太子……あなたは間違ってる。本当に大切にするべきなのは、こんな風に音楽で世界を創れる人たちだよ。楽器が上手に演奏できれば音楽家になるわけじゃないんだよ』


ここにはいない隣国の王太子の顔が浮かんだため、この曲のシュピールアと楽譜を彼に贈ろうとサラは思った。


最後の音が消えると、耳が痛くなるほどの静寂が会場を支配した。あまりにも周囲の反応が薄いのでサラが心配になった次の瞬間、会場からドォォォとしか聞こえない程の称賛の声と拍手が響き渡った。


『この世界にはブラボーとかブラーヴァみたいな便利な言葉がないんだな』


転生者のお陰で前世の文化がさまざまな場所で見受けられるが、すべてが同じというわけではない。アンコールを催促するように拍手がなり続けていたりもしない。


「サラ、よくやったね。素晴らしい演奏だったよ」


ロバートがサラを抱え上げて頬にキスをすると、サラもロバートにキスを返した。ロバートの後ろには、順番を待つようにグランチェスター侯爵も待機している。


「ありがとうございますお父様。ですが、早く下ろしてください。もう9歳なのに、赤子のように抱え上げられるのは恥ずかしすぎます」

「いくつになってもサラは可愛いからいいじゃないか」

「そういう問題ではありません。祖父様も、そこで待つのはおやめください。抱っこされませんからね」


この遣り取りを見ていた周囲は、肩を震わせて笑っている。


そこに、この微笑ましい雰囲気を台無しにする男が近づいてきた。王太子の長男であるアンドリュー王子である。


「サラ嬢、誕生日おめでとう。演奏に間に合って良かった。相変わらず素晴らしいね」


正確に言えばアンドリュー王子が会場入りしたことを確認して演奏を開始したので、いつ来ても間に合うのは当たり前である。


「お褒めにあずかり光栄でございます」

「楽団ごと城に呼んで再演してくれないだろうか。母上たちにも聞かせたい」

「本日の楽曲は楽譜も販売いたします。卓越した技術をお持ちの城の楽士の方々にお持ちくださいませ」

「相変わらずサラは冷たいなぁ」


王室の誘いをあっさりと断ったサラの態度に眉を顰める貴族も少なからずいたが、それでも9歳の女の子が王宮で演奏することを尻込みする気持ちは理解できる。もちろん、実際には尻込みしているのではなく面倒だと思っているだけなのだが。


「まぁサラは良いんだけど、ソフィアとグランチェスター小侯爵夫妻は、明日登城するように。母上がお呼びだ」

「かしこまりました」


エドワードとエリザベスは深く頭を下げたが、その後ろにいたソフィアは膝をつかんばかりに最敬礼の姿勢を取っていた。ソフィアの立ち居振る舞いは優雅で美しく、とても一介の商人のようには見えない。


『マギの学習とゴーレムの身体能力が合わさると自由自在ね。あの姿勢って、人間が長時間やってたら足がプルプルしちゃいそう』


アンドリュー王子は小侯爵夫妻とソフィアに楽にするように声を掛け、次いでロバートとレベッカの方に顔を向けた。


「オルソン令嬢のことは知っていたけど、どうやらグランチェスター領には沢山の妖精がいるようだね」


この発言に周囲からざわっとしたどよめきがあがった。


『しまった。妖精の恵みだと誤解されてる!』


多くの人が誤解していることがある。妖精の恵みは老化を緩やかにすることはできても、肉体を若返らせる効果はない。妖精の恵みがあれば若返ると誤解されるのは、子供のうちに妖精と友達になるケースが多いことが原因である。ミケやノアールのように時間を司る妖精であれば魔法で肉体年齢を操作することもできなくはないが、姿を変えるには膨大な魔力を必要とする。


サラが内心ドキドキしていると、エリザベスは涼しい顔をしてアンドリューに応じた。


「グランチェスターの森には、多くの妖精が住んでいそうな気もいたしますが、残念なことにまだ私は妖精と出会ったことがございません。もうじき妹となるレベッカが羨ましくてなりません。もう少し頻繁に領地に戻るべきかもしれませんわね」


エリザベスの発言に、アンドリュー王子が眉を片方だけ上げた。


「つまりそのお姿は妖精との友愛ではないと仰るのですか?」

「然様でございます」

「グランチェスター小侯爵が驚く程に若々しくなったことは宮中でも話題になっていたが、今日の小侯爵夫人を見れば若返っているのは明らかだね」

「殿下、私はそれほどまでに老け込んでおりましたでしょうか?」

「いやいや誤解しないでほしい。夫人は以前からとても美しい方だよ。ただ、その、あまりにも変化が劇的なものだから……」


三十路の女性の容姿に言及するには、アンドリュー王子は経験値が不足しているようだ。


「ふふっ。ご無礼申し上げました。少しだけ殿下を揶揄ってしまいましたわ」

「そ、そうか。その、不躾な質問をしたようで申し訳ない」

「殿下の御下問はもっともかと存じます。実は夫婦でソフィア商会の新しい商品の被験者になっているのでございます。この商品は肌が再生する力を助ける効果の高い魔法薬なのだそうです」

「つまり、肌だけが若くなったってことかい?」

「然様でございます。人の顔には、シミ、シワ、たるみがあると、どうしても老けた印象になってしまうのだそうです。この商品は、そうした年齢肌を再生するそうなのですが、まだ検証段階で販売しておりません」


アンドリュー王子はソフィアに向き直って直接尋ねた。


「ソフィア、夫人のいうことは本当かい?」

「御意にございます」


ゴーレムのソフィアは、下手をすればサラがソフィアの姿になった時よりも優雅に顔をあげつつも、直接王族の目を見ることのないよう目線は下を向いている。


「俄には信じられないな。その商品を王室に献上できるか?」

「まだ開発中の商品でございます。安全性も確認されておりません」

「だが、小侯爵夫妻を被験者にできる程度の品質なのだろう?」

「すべての方に問題なくご使用いただける保証はございません。この商品は事前に小侯爵夫妻の肌の状態を確認してから、その方にとって最適な魔法薬を製造するのでございます。万が一にも肌にトラブルが発生した場合には、薬師が駆けつけて対処できる体制も含めた完全なオーダーメイドでございます。故に大量生産もできません」

「ではソフィア、其方に王宮に出入りする許可を与えよう。母上のため、その魔法薬とやらを作れ」


アンドリュー王子は、何でもないことのように平民であるソフィアに命じた。


「大変申し訳ございません。お肌の状態を確認し、魔法薬を製造できるのは専門的な知識を持つ当商会の薬師でございます。この者はグランチェスター領に住む平民であるため、王宮に上がることは非常に難しいかと存じます」

「ではどうしろというのだ」

「現段階では、グランチェスター領にあるソフィア商会にお越しいただくしかございません」

「王太子妃である母上に、グランチェスター領まで来いというのは無礼が過ぎるだろう。ソフィア商会は早急に王都の拠点を設け、薬師も王都に常駐させるべきではないかな」


『なんだ、結局この王子もこんな感じか』


クロエが好きな相手でもあり、グランチェスター領や王宮の晩餐会では好感が持てる相手だっただけに、居丈高に振舞うアンドリュー王子の姿にサラは落胆を隠せなかった。


だが、それ以上にサラが気にしたのは、ゴーレムがこの状況でどのような態度を取るかであった。断れば王子の機嫌を損ねることは明らかだが、王都までリヒトやアメリアを連れてくるのはリスクが高い。大勢の貴族の前でサラが出張るわけにもいかないため、心配したところで何か手が打てるわけではない。


「畏れ多いことではございますが、それも難しいと申し上げるほかございません。この魔法薬はグランチェスターに生息する薬草、アクラ山脈の湧き水などを使用しております。これらの素材は日持ちしないのでございます。製薬して瓶に詰めてしまえば、一カ月程度まで使用期限を延ばすことも可能ではあるのですが……」


少し困ったように首を傾げる仕草は、サラがソフィアの姿になったときそのままで、サラはマギとゴーレムのコピー能力に驚いた。しかも、マギはこの国の王子に向かって『嘘というわけではないが、それだけが原因ではない』という言い訳を、顔色一つ変えることなく並べている。


するとアンドリュー王子はニヤリと笑った。


「やはりそうか。魔法薬なんて言ってるけど、実際にはそんなものは存在しないのではないかな。そこまで劇的に若返る薬がそう簡単に作れるとは思えないし、本当に作れるのだとしたら、その薬を作る過程の劣化版みたいな薬が話題になってたはずだ」


『あ、なるほど。信じてないってことね』


「殿下はそれほどまでに妖精との友愛をお望みでいらっしゃるのですね。ご期待に沿えず大変申し訳ございません。ですが……」

「ですが?」


アンドリュー王子は身を乗り出し、ソフィアの言葉に耳を傾けた。


「殿下が仰せの通り、この薬を作る過程でできた別の魔法薬は提供する準備がございます」

「それはどんなものなのかな?」

「実はパーティの招待客の皆さまには、お帰りの際にお土産をお持ちいただくことになっております。サラお嬢様が『皆様が本当に欲しいと思われるお土産をお渡ししたい』と仰せになったため、私どもソフィア商会の商品の中からお好きな物を選んでいただける商品カタログをご用意いたしました。カタログの中からお好きな物を1点お選びいただくようになっております」

「それは面白い趣向だね」

「実はその商品の中には魔法薬も含まれており、女性用と男性用のご用意がございます。女性はお肌にハリと潤いを与える効果があり、男性用はお肌の油分を最適な状態に保つと共に、人によっては御髪にも効果が認められ……」

「「「なんだと!!」」」


アンドリュー王子が言葉を発するよりも早く、周囲の男性陣が大きな声を上げた。


『なるほど。マギはここで切り札を使うわけね。悪くないわ』


「あくまでも『人によっては』でございます。万人に効果があると保証されているわけではございません。本来お肌のために開発された魔法薬ですので、頭皮にも良い影響がでることもあるといった程度でございます」


『ヤバい。ジジィたちの目が獲物を狙う猛獣のようになってる』


そして、この爆弾発言はアンドリュー王子にも絶大な効果があった。王である祖父も含め、王室の男性は中年になると頭頂部の方から少しずつ髪が寂しくなっていく傾向にある。王冠を被っている辺りから薄くなるため、一時期アンドリュー王子は王冠に薄毛の呪いがかかっているのではないかと本気で疑っていた。


「ソフィア、その魔法薬を至急王宮に献上せよ。なるべく大量にだ!」

「殿下、魔法薬は大量生産には向いておりません。献上できるほどの魔法薬を用意してしまいますと、他の方へのお土産に支障がでてしまうのですが……」

「他の者は待たせておけ」


アンドリュー王子は声高に命令したが、近くにいたランズフィールド侯爵が王子を窘めた。


「殿下、平民の商人をそのように困らせてはなりませんぞ。確かに彼らは王室や貴族家に命じられれば、高価な商品であっても献上せざるを得ない立場です。しかし、ソフィア商会の商品ともなれば、値段も相応でしょう。それを『献上せよ』と詰め寄るのは、将来この国を背負って立たれるお方としては、残念なお振る舞いかと」

「確かに、仰る通りですね」


ふっと肩の力を抜いたアンドリュー王子は、申し訳なさそうな表情で周囲を見回した。


「それに、殿下は私どものような切実なジジィたちを差し置いて、魔法薬を独占されるのはあまりにも理不尽です。私の大事な毛髪は、明日をも知れぬ儚さなのですからな」


ランズフィールド侯爵はお道化たように肩をすくめ、広くなり過ぎたおでこをぺちぺちと叩いた。すると周囲からくすくすとした笑い声が聞こえてくる。


『なるほど。場の雰囲気を作るのが上手ね。セクハラジジィだけど』


「そういうわけで、ソフィア商会はせっせと魔法薬を作ってくれ」

「大量生産には向いていないのですが……」

「そこは努力してもらわないと」


するとヴィクトリアが優雅な微笑みを浮かべ、ランズフィールド侯爵に語り掛けた。


「ランズフィールド侯、切実な女性たちを差し置いて、魔法薬を男性陣で独占されるのはあまりにも理不尽でございますわ」

「ふっ、これは一本取られたな。だが、美しきアールバラ公爵夫人には、魔法薬など必要なさそうに見えるのだがなぁ」

「ほほほ。相変わらずお上手ですこと」


ひとまず、場の雰囲気は和やかなものとなった。それにしても、9歳の少女の誕生日パーティだというのに、会話が枯れ過ぎているような気がするのは何故だろうか。サラは少しだけ落ち込んだ。


「それにしても、僕たちは妖精にいつ会えるのだろうね。やはりグランチェスターのように自然に囲まれた場所に行かなければ駄目なのかな」


アンドリュー王子がぽつりと零した。


『王宮や貴族家で噂を集めるのが大好きな妖精とか、王都にある貴族邸の酒蔵で酒を飲む妖精もいるけどね』


サラはここに至って、グランチェスター侯爵が秘密の花園を知った時に『この妖精の聖域だけは守り通せ。そのためであれば王室や未来のグランチェスター侯爵であっても欺いて構わぬ』といった言葉が腑に落ちた。


『王室はここまで妖精に執着してるのね』


「そんなわけでグランチェスター侯爵、次の社交シーズンが終わったら、グランチェスター領に滞在したいんだが構わないだろうか。僕は僕の妖精の友人を探したいんだ。それにソフィア商会や乙女の塔にも興味があるしね」


『げっ』


王子の発言である以上、この申し出はほぼ命令である。内心どのように思っていたとしても、アヴァロン貴族であるグランチェスター侯爵としては、「光栄にございます」と答えるしかない。


「サラ嬢、できれば乙女の塔にも招待していただけないだろうか」

「殿下、乙女の塔はその名の通り女性だけの塔なのですが」

「だがトマス・タイラーや君の学友たちは出入りしているのだろう?」


『まぁ知ってるとは思ったよ。ソフィア商会や乙女の塔の周囲には、沢山の密偵がうろうろしてるもんね。どれかは王室の密偵ってことか。然もありなん』


「先生と学友は特別ですから!」

「僕も学友なら問題ないだろう?」

「殿下は大人ですから、私たちの学友にはならないのではありませんか?」

「トマス・タイラーの授業を僕も受けてみたいんだ」

「殿下が滞在する建屋まで、トマス先生がお伺いすればいいのではないでしょうか。来年は私の学友たちはアカデミーに行ってしまいますので、きっとお付き合いくださるかと思います」

「サラ嬢は冷たいなぁ」

「じゃぁ、アンドリュー王子と一緒に、今度は僕が学友になるよ!」


サラの隣にいたアルフレッドが大きな声を上げた。


「アル、それはダメよ。アルはまだ6歳なのだし、公爵がお許しにならないと思うわ」

「そんなことないわ。私も一緒に滞在すれば良いだけですもの」


『げげげっ』


ここにヴィクトリアが参戦してきた。これは、断れないヤツである。断れば王室、アールバラ公爵家、グランチェスター侯爵家の間に波風が立ってしまうことになる。


しかも、ここは多くの子供たちが参加しているパーティの会場である。結果として、グランチェスター領への滞在ムーブメントは、この場にいる多くの貴族家に伝播していく。どうやら社交シーズンが明けると同時に、グランチェスター領にはアンドリュー王子と大勢の貴族家の子供たちが押し寄せることになったらしい。


『社交シーズンが終わったら、グランチェスター領でサマーキャンプってこと?』


サラの脳内では前世のスカウトジャンボリー的な光景がぐるぐるしたが、さすがにこの世界の貴族家の子供たちはそこまでアクティブではない。それに、グランチェスター領に他家の貴族令息や令嬢が滞在するのであれば、傍系のサラではなくエリザベスやクロエが仕切るべきである。おそらく将来の嫁としてマーグも駆り出されるはずなので、サラ自身はそれほど頑張らなくて済むのではないだろうか。


『断れるわけでもないのだし、なるようにしかならないでしょう』


こうして社交シーズン明けの再会を約束し、サラの誕生日パーティは夕刻に幕を閉じた。本来は子供を中心としたお茶会のようなパーティなので終了時間も早い。最後の招待客を見送ったサラは、日が落ちかけている冬の空を見上げた。


『あぁ本当にここは異世界ね。星座も何もかも違うわ』


今日、サラは改めて王室や上級貴族の影響力を把握した。今はまだ力がなく、アンドリュー王子やアールバラ公爵家からの申し入れを断れない。数年後、サラが妖精の恵みを隠せなくなるまでに、王室や他の貴族家からの圧力に屈しないだけの力を身に付けなければならないことをサラは改めて思い知った。

やっと誕生日パーティ終了

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― 新着の感想 ―
王子出てくる度に、ヘイトが溜まっってく。 祝いの一言も無く、嫌がる9歳の子供に権力で脅迫。 熱病の対策で大変なのに、そういった配慮も無し。 民の命より己の欲望優先なのね。 そう言えば、グランチェスター…
この馬鹿王子はもう毒杯or除籍でいいよ。なされない場合、アヴァロンからの撤退でいいんじゃない。 この馬鹿王子も何かに憑依されたりしないよね?
このクソ王子はダメだな 傲慢すぎる全力全開の威圧で頭頂部に深刻なダメージ与えるべきでは?
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