グループ課題
ランチタイムには、コーデリアから新たに新設する学園について簡単に説明があった。
「狩猟大会も終わったことですし、そろそろ学園の準備を本格化いたしますわ。既にソフィア商会が買い上げた建物も内装工事が完了したという報告を頂いたので、私どもの集落で授業を受けている子供たちは可能な限りこちらの学園での授業に参加させるつもりなのです」
「コーデリア先生、集落からはどれくらいの距離なんですか?」
アダムが熱心に質問する。
「実は領都の中心部よりもやや集落に近いので、荷馬車で30分程ですわ。私が全員を馬車に乗せて送り迎えをしようと思っておりますの」
「先生のご負担になるのではありませんか?」
「大丈夫よ。そのくらいの移動では困らないわ」
コーデリアはにこやかにアダムに応えた。
「僕の学友になる子供たちの人数を教えてください」
「10名程の子供たちと一緒に移動するつもりよ」
「そんなに多いのですね」
「実は、学校で学ぶには幼い子供たちをどうするか悩んでいるのです」
コーデリアが小さなため息をついたため、サラも少し気になった。
「幼い子供たちと言うのは、集落の女性たちが面倒をみているのではありませんでした?」
「ええ、そうなのですが、私の家や庭先で遊ぶ子供たちも多かったのです。なかなか専任の子守を確保できるわけでもありませんので」
『要するに働いているシングルマザーが子供を安定して預ける先が無いってことか』
「実は乙女の塔で働いて貰っている女性たちの中には、小さいお子さんをお持ちの方もいらっしゃるのですが、グランチェスター家の使用人の子供たちと一緒に過ごせる場所を用意したんです。ただ、学園の建物からもそれなりに距離があるのに、女性たちの集落から幼い子供たちを連れ出すのもちょっと問題ですよね」
「すべての子供たちの面倒をみられるわけではないのは承知しているんですが、なかなか難しい問題ではあるんです」
「子育てが得意な女性を数名選んで、専任の子守にしてしまったらどうでしょう?」
「ですが、その方々へのお給金を支払えるかどうか…」
「それほど働く女性たちに支払われる給金は少ないということですか…」
「決して多いとは言えないでしょう」
「なるほど」
サラは食事をしつつ、暫し考えに耽った。そこにアダムが口を挟んだ。
「サラ、子守の女性の賃金をソフィア商会で負担できないだろうか?」
「うーん。アダムが平民の子供たちを思いやる気になってくれるのは凄く良いことだと思うけど、そんなに単純に考えないでね」
「どういうことだ?」
「ソフィア商会が資金を出してしまうのはとっても簡単だと思う。だけど、グランチェスター領には、他にも沢山の人が住んでいるのよ。公平性を考えるなら、領内の全域で同じことをしないといけないって思わない?」
「ソフィア商会にはお金が沢山あるんだからできるだろう?」
「不可能ではないでしょうね。だけど、それって本来は領主がすべきことだと思わない?」
「えっ?」
アダムは黙り込んでしまった。
「じゃぁ、小侯爵家の次男であるクリスにも聞いてみましょうか」
「サラは無茶振りするなぁ。確かに領民の健全な生活を守ることは領主一族の義務だ。だから僕たちは領民が食糧に困らないよう農業を守り、飢饉のときには狩りで領民を支えるように狩猟も教えられる。これはグランチェスター家の家訓でもあるからね」
クリストファーが答えると、アダムが言葉を被せた。
「食糧確保と子守に何の関係があるんだよ」
「アダム、僕は言っただろ『領民の健全な生活を守ること』って。子供も子守も僕らの一族は守らなきゃならないグランチェスターの領民なんだよ。人が生きて行くために食糧確保はとても大切だけど、それだけで守れるわけじゃないんだ」
「うん?」
「雨風や寒さをしのぐ家が必要だし、これから冬になれば暖を取らなきゃ死んじゃうんだ。暖かい服だって大事だ」
そこにクロエも参加した。
「病気や怪我で苦しむ領民だっていると思うわ。サラみたいに両親が亡くなってしまった子供だっていると思う。サラは親戚を頼ってグランチェスター家に来たけど、そうじゃない子供たちはどうやって生活してるんだろうね。私たちはどうしたらいいと思う?」
「そこまで領主は考えないといけないのか?」
「アダム、考えてもみろよ。僕たちは領民が納めてくれる税金で暮らしているんだ。だから僕たち一族は、彼らが収めた税金を使って彼らを守るんだ。そして子供たちを大切に守るのは、将来のグランチェスターに税金を納めてくれる人だからでもある」
「うわ、クリスって領民をそんな風に思ってるのね。我が弟ながら冷たいわ!」
「僕だってグランチェスターを愛してるし、領民のことも大切に思ってる。だけど感情論じゃなく、領の運営という視点で客観的に見るべきだろう?」
『あら結構意外。この子たちは自分たちが領主一族だってことを自覚してるんだわ』
小侯爵の子供たちはサラを見つめ、アダムがおずおずとサラに尋ねた。
「サラなら、正しい答えを知ってるの?」
「うーん。残念だけど、それって正解がない質問かなって思う」
これにはクリストファーも納得する。
「そうだね、僕もそう思うよ。だから国や領によって対応はバラバラだし、多分時代によっても大きく違うんだ」
「正解は無いんだけど、正直言えば領主には『できる限り頑張る』って意識を常に持って欲しいとは思うかな」
「サラは領主に対して要求が厳しそうだよね」
「そんなつもりは無いんだけどなぁ」
だがクロエは納得しなかった。
「ちょっとぉ、結局のところクリスとサラはどうしたらいいって思ってるのか全然わからないじゃない」
「提案はできるけど、決めるのは祖父様だからなぁ」
「どんな提案するのか教えてよ!」
「もう、人に聞いてばっかりいないで、ちょっとはクロエも考えなさいよ」
「うーん。うーん。うーん。…駄目、全然思い浮かばない」
「アダムはどう思う?」
「子守の専任者を領で雇って、各地域に保育所を作れば良いと思う」
「その財源をどうやって確保する?」
「え、税金から払えばいいんじゃないの?」
サラはにっこりと微笑んだ。
「じゃぁ、コーデリア先生とは別に私からの宿題を出すね。グランチェスター領の去年の収入と、予算がどんな風に使われたのかを調べてきて。その後に、小侯爵家の収入と予算がどんな風に使われたのかも確認すること。うーん、折角だからこれはアダムだけじゃなくて、クロエとクリスも一緒にやったほうが良さそう。共同課題にしましょうか。期限は年内までにしておくわね。これがクリアできたら、この前の格闘するゴーレムを1体ずつプレゼントするわ」
「おお、アレをくれるのか!」
「それはいいなぁ」
だがクロエは不満そうである。
「うーん。凄い玩具だとは思うけど、あんまり嬉しくないなぁ」
「じゃぁクロエには、着せ替えもできそうな可愛い感じのデザインにしてあげるわ。ここで働いているゴーレム程じゃないけど、それなりに秘書っぽい機能は持たせておくわ。護衛は無理だけどね」
「やったー、それなら頑張るわ!」
すると、横にいたスコットとブレイズが参戦してきた。
「サラ、僕らには何かないの?」
「オレもなんか欲しい!」
「じゃぁ、あなたたちも何かグループ課題をしなさいよ」
「テーマは決めてくれないの?」
「うーん。あなたたちは騎士団が近くにいることだし、グランチェスター領内で発生している犯罪の種類、件数、検挙率なんかをレポートにまとめてくれるかしら。ここ10年くらいの間の変遷も知りたいわ。警備体制も騎士団の機密事項に触れない程度に調べて、増強が必要かどうかなんかも現場の騎士さんたちに調査すること」
「面白そうだね。父上だけじゃなく、いろんな騎士に聞くよ」
「オレも頑張る」
「それで、あなたたちが欲しい物はなぁに?」
「「ゴーレム!」」
『お前たちもか!』
サラは真剣に子供たちに渡すゴーレムの機能について検討が必要になったことに気付いた。
サラはこの時点ではまだ気づいていない。子供たちが便利に使っているものを、親が欲しがらないはずもないということを。




