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番外編 大学生活 スマホを見せてと伝えたら


 

「スマホの履歴?」


 大学の講義も終え、バイトの予定もない天気の良い日だった。高校時代からの友人達、そして彼女の葵と久しぶりに懐かしい面子が揃う。何処かへ遊びに行くのではなくただ雑談をする為に信介達は馴染みのあるファミリーレストランに集った。


 高校時代よりも顔を合わせる機会は極端に減ったがそれでも度々個人同士で近況を報告したり、遊びに行くなどしていたが、それでもやはり全員が同じ場所に集うのは信介は心の底から嬉しかった。皆変わりようのない元気な姿で安心もした。


 各々頼みたいものを店員に伝え終えると、どういった話の流れになったのかは分からないが唐突に千鶴から打診を受けた。


「そうそう。私の大学の友達の娘にね同棲中の彼氏がいるんだけど最近その彼氏の動向が怪しいって言ってたんだよ。それでもまあ最初の方は疑いだけで留まってたんだけど、つい他の娘達と助言しちゃって。で、彼氏がお風呂に入ってる間に彼氏のスマホを見たんだって。そこで浮気相手とのやり取りも確認出来て証拠も揃った。そのあとは別れちゃってさあ」

「うんうん..............え、俺と信って今浮気を疑われてんの!?」

「何で!?」


 ゆっくりと千鶴の友達の話を聞き終えた信介と祐樹の二人。しかしその話の流れと最初の千鶴の打診を受け、二人は今自分達が話に登場した彼氏と同様の疑惑を掛けられているのだと分かると激しく狼狽えた。


「.......」


 ただ一人だけこの話に該当しない駿だけは面白そうに場面の動きを観察している。


「遥さん!?俺の事そんな風に疑ってんの!!?普通に傷つくんですけど!!!」

「葵もだ!というか普通に聞けば答えるし今のところ隠し事なんてないんだけど!!!」

「別に疑ってる訳じゃないんだよ!」

「ただ私達は普通に”スマホ見せて”って言ったら簡単に渡してくれるのかなって軽い好奇心のつもりだったんだけど......」


 寧ろここまでの信頼関係を全て今の時間で崩壊しかねない勢いだ。覚えのない容疑を掛けられ強気な姿勢に入る彼氏二人は双方の彼女に向けて”心外だ”と言わんばかりの物言い。変わって彼女の二人はここまで険悪に近い雰囲気に様変わりするとは予想できていなかったのか逆に弱弱しい対応で弁明をする。


「..........この空気どうするの?」


 静観を決め込む駿であったが流石に目の前で言い合いにまで発展してしまうと行動を起こすしかない。この流れを作った原因、張本人である千鶴に尋ねる。駿に問いかけられた千鶴は冷や汗をかいていた。


「いや、素直にごめんとしか」

「久しぶりに皆揃ったっていうのに」

「...........」

「これで皆して帰るとかになったら中条のせいだからね」

「な、何とかします!」


 駿に脅され千鶴は言い合いを続ける四人に落ち着くよう説得を試みる。 

 

 信介と祐樹は最初のスマホを見せてくれという内容に怒っているのでなく、彼女の二人が千鶴の先程の話を聞いて今回の頼み事をしてきたことに不満を感じてしまったとのこと。そして葵と遥の二人は不満を感じてしまった二人の機嫌を取り戻そうとしつつも若干の疑いはある後ろめたさが罪悪感として残り強く説明が出来ないでいるのだった。


 途中から駿も加わり千鶴と二人で四人を落ち着かせる。元々根は優しい者の集まりで直ぐに頭は冷えて冷静になった。


 場面の切り替わりには丁度良く店員が頼んだ注文をテーブルに置いていった。皆は料理を食べながら冷静になった頭で先程までの話を進めた。


「今回の件は中条からの話の流れが悪いね。信と祐樹が熱くなるのも無理はない」

「それは本当にごめん。まさかここまでヒートアップするとは思わなかったんだよ~!」

「良いよもう。俺達が考えすぎないようにすれば良いって話でしょ」

「別にスマホの中身ぐらい見てもいいし」


 頼まれたフライドポテトを摘まみながら二人はそれぞれに彼女の前に自分達のスマホを置いた。数分前のやり取りとは違いあっさりと渡されたことに動揺をしつつも置かれたスマホを手に取り葵と遥はそれぞれ操作し始める。 


 SNSなどの他者とのやり取りにネットの閲覧履歴などを確認するが、特に面白味のある話題は見受けられない。しかし葵の場合は違った。


「履歴が一切ないんだけど」


 メッセージアプリなどの履歴は存在するもののネットで検索をしたりどのようなサイトを覗いたかを示す履歴が信介のスマホから消されている状態であった。ネット社会の現在、一日にネットを開かない人は殆どいない。履歴がないとするならば持ち主本人が最初から履歴が残らないように設定しているのか。或いは何かしらを調べ終わった時に履歴を全て消去しているかの二択となる。


「履歴を放置してるとスマホが重くなるかもって毎回消してるんだよ。メッセージの方も半年に一回ぐらいやり取り全部消してるしね。葵みたいに毎日連絡取り合ってる人は消さないけど。大事な約束事とかある人とかもね」


 信介の考え方は最近では当たり前になってきているごく普通のものだった。不必要になったデータを今もスマホの中に入れておくとスマホの操作が鈍くなったり発熱する速さが早いなどの不具合が起きやすくなる。あまりそのようなことに時間を使いたくない信介は毎度ネットを閉じる際は履歴などを消すことを習慣化していた。その為履歴の欄を覗いても不自然なぐらいに真っ白なのだった。


「さっぱりしてる性格の人は多いよねそういう人」

「逆に祐樹の方は凄いためてるね」

「ん?」


 気になって葵は遥の持つ祐樹のスマホを覗く。”簡単自炊”や”バイト代土地別平均”など生活感溢れるものから”学生、おススメ場所”などプライベートを思わせるものとどれも祐樹っぽいと言えばぽいものばかりがあった。


「人によって色々あるからね。でもまあ別に怪しく思うものはなかったならいいでしょ」

「うん。見せてくれてありがとう」

「信介も.....」


 葵と遥はスマホを持ち主に返した。


「はあ何か疲れた」

「俺も」

「千鶴が変なこと言うから」

「........すみません」

「別に怒ってる訳じゃないから」

(.........久しぶりに集まったけど皆変わってないな、この感じ)


 いつも場を動かすのは千鶴で良い方向にも悪い方向にもいき、基本駿以外の四人が対象となって駿は蚊帳の外。それでも十分もすればまたいつものように談笑をする。


 駿は仲間外れになったという気持ちはない。寧ろ皆が変わりなく元気に笑っている姿を見て心を癒されたのだった。



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