番外編 雨
お久しぶりですね。
今回の話は今の時期にピッタリ?って感じですね。
短いですが読んでくれると幸いです
春は過ぎ、これから夏へと向かう中通らなければいけない時期。それが梅雨。信介達の住む地域に梅雨の時期が来て一週間が過ぎたある日の事。
「.......どうしよう」
葵は厚い雲で覆われた空を見ながら呟いた。愛娘である太陽の幼稚園の迎えの前に買い物を済ませようと自宅と幼稚園からそれほど離れて居ない近所のスーパーへ来ていた。家を出る前も空は確かに雲で覆われていた。だが雨は降っていなかった。
今この瞬間を逃すまいと葵は急いで買い物へと向かった。スーパーへ着き、予め買うものを頭の中で決めていた為買い物の時間は長くなかった。ここまでは予定通り。後は、本格的に雨が降る前に太陽を迎えに行き自宅に帰るだけと、そう思っていた。
しかし天候というのは人の思った通りにいかないもの。葵が思っていたよりも雨は早く降り始め、葵がスーパーを出て外に出ようとした時には既に雨は激しく地面へ向かっている状況だった。
「このままじゃ迎えに行けない......」
そもそも最悪の想定をしていなかった葵の自業自得ではあるが、流石に数分前の自分もここまで雨が降るとは思わなっただろうと無理やり言い聞かす。しかし、この状況には困った。
傘は持っておらず太陽を迎えに行くには走って激しく地面を叩きつける雨の中に入らなければならない。しかしその後、太陽も又雨に濡れて帰らなければならない。母親として娘に風邪を起こす事だけは避けたい。だがこのままでは幼稚園の迎えに間に合わない。一度自宅に帰って向うのは手だがそれでも現時点のスーパーから直接向かった方が時間的には早い。
早い頭の回転で考えるが時間は刻々と過ぎていく。
仕方がないと、このまま買い物袋片手に幼稚園へ向かう決意を決める。そして屋根のある場所から雨の中へ繰り出そうとする。
「ママ~~!!」
その時毎日聞いている声が雨の中から聞こえてきた。どこかの親子だろうかと一瞬辺りを見渡す葵であるが、そのような言葉を発しそうな小さな子も母親らしき女性の二人組は見当たらない。自分の幻聴かと思った。
「ママ~~~~~!!!」
またもう一度聞こえてきた。今度が雨の中はっきりと聞こえた。この場所に居る筈のない娘が自分を呼ぶときに言う声と一緒だと葵は気づいた。そしてその声が自分の前の方から近づいてきていると知り、目の前の光景を見る。
激しく降る雨の中、小さな傘が近づいてきていた。その赤色の傘には見覚えがあった。赤色の傘は隣にいる黒色の傘を差した男性と一緒にこちらに向かってきていた。
近くで漸くそれが夫の信介であり幼稚園に居る筈の太陽だと確信できた。
「ママ~~!迎えに来たよ」
「太陽。走ったら転ぶよ」
可愛らしい幼稚園服を身に纏う娘を信介が手を繋いで先導している。車が行き交う駐車場だからだ。高校生の時も同じような雨の時、車によって飛び散る水を防いでくれた時の事を葵がその光景を見て思い出す。
「太陽~!ありがとね!!」
笑顔で自分に向かってきてくれた娘を葵は頭を撫でて迎える。そして信介に目を向ける。
「代わりに迎えに行ってくれたの?」
「この天気で会社が急遽この時間で業務を停止させたんだ。でも焦ったよ。帰ったら誰もいないし、外は雨が降ってるのに家には何故か傘が置いてあるままだし」
「ママ、おっちょこちょい」
「ははは....いけると思ったんだけどね」
笑いで過ごそうにも流石に雨が尋常ではない為、どうにもならない。
「幼稚園に行く途中で会えると思ったけど、いないからスーパーかなって。正解だったね」
「パパ凄い!」
流石夫だと言ったところか。連絡も無しに自分の居場所が理解出来ている。
「今からもっと雨が強くなるみたいだし、早く帰るよ」
「え、でも傘が」
「ほら早く」
「あっ」
そう言い信介は自分が差している傘に葵を入れる。俗にいう相合傘だ。
「......なんか昔にもこんな感じなかったっけ?」
葵を傘に入れた信介はそのような言葉を言った。先程自分もその時の思い出を思い出していた葵は直ぐに信介の口にした事が同じである事に気づいた。恋人ではなくなり夫婦と言う関係になっても、いつまでも信介にときめく事に葵は笑顔を浮かべる。
「ママ笑ってる!」
「.......どうしたの?」
「ん~?なんでもないよ。さ、早く帰って夕飯の支度しなくちゃ!今日は太陽の好きなハンバーグだよ!!」
「ハンバーグ!?やったあ!!!」
雨の中、一つの傘に仲睦まじく入る夫婦とそのすぐ前を歩く小さな傘。その光景はとても幸せな理想の家庭と呼ぶに相応しいものだ。
読んでいただきありがとうございます。




