番外編 いつまでもずっと
お久しぶりです!
「久しぶりだね、雫」
とある霊園。俺はスーツのようにピシッとした格好で来る事はなく、ダボッとした普段着でこの場を訪れていた。幼馴染であり初恋である大事な人、草加雫の為に。
「もう雫が居なくなって随分立つよ。俺ももう十代でもないし、とっくに雫の歳越しちゃったよ」
誰も居ない墓石。ただ、そこに雫が眠っているという事実。まるで俺は雫がそこにいて優しい笑みを浮かべて俺の話を聞いてくれている事を思いながらつらつらと話す。長くなると見越して墓石の前で胡坐をかいて。
「ちょっと前にプロのゲームチームに入った事は伝えたよね?実はさ、俺世界大会で優勝して来たんだよ。凄いでしょ。雫と同じゲームで楽しくやってた俺が世界の人と相手をして優勝までしたんだ。凄い達成感だった」
話す事は沢山ある。
「前に......って言ってももう何年も前にさ一緒に雫の墓掃除した二人、友達なんだけど結婚して子供もいるんだ。凄いよね」
「高校の時の友達でいつもいた一緒にいたグループみたいで俺を含めた六人いたんだ。男女三人ずつで、そのうち二組付き合ってるとかどんな組み合わせだよって思ったよ。でも人付き合いが苦手な俺でも高校っていう繋がりがなくなっても交友が続いてるんだから良い奴らなんだ」
友達の事。
「それに比べて俺は未だ独身貫いてるよ。ゲームが職業みたいで最近では認知もされてるし、やってるゲームの大会なんかもテレビの広告とかやるぐらい。でもそれでもまだ収入とか今よりも将来の事を考えるとやっぱり他の人の理解は難しいみたい。まあ、それでも同じチームの人の中に彼氏彼女がいる人はいるんだけどね」
仕事関係。
「でも別に恋愛事で困ってるって訳じゃないんだ。結婚願望もないし、何より友達の子供が、さっき話した二組の子供達がさ可愛いから。それで十分なんだよね。雫にも見せたいよ。俺結構子供に懐かれてんだよ」
話せ。
「やっぱり大人になっていくと昔に感じてた事が変わるのかな。俺昔は子供あんまり好きじゃかったのに。なついてくれてるからかな?」
兎に角話すんだ。口を回せ。
「でも多分ずっと親しい訳じゃないんだろうな~。あ~、その時は成長を感じると共に悲しくなるんだろうな~」
目から何かが込み上がってきた。流すつもりじゃなかった。
「....はあ......もう.....」
結局我慢していたものを流してしまった。久しぶりにこの場所に来たからか、変に安心して、何故か変に最近の近況だったりを話してしまった。前はこんなに弱くなかったと思う。でも、社会人となり色々な人と関わるウチに何故だろうか。考えてしまう。自分に何が足りないのかを。
今更だ。本当に今更、何年も経って心に空いた穴を再認識してしまった。
「......雫.....俺、弱いのかな」
気づけば墓石に聞いていた。
「.........雫も悪いよ」
前を向けない俺も悪い。でも、俺の心の中でいつも笑っている雫の姿が、とんでもなく輝いて見えるんだ。そんなもの見せられたら立ち止まるしかないじゃん。
「雫は「くよくよしてないで前を向いて!もう私はいないんだから」とか言いそうだけど、俺は雫を諦める気はないから」
流れていたものを腕で拭う。
別に居ない人に想いを持つ事は悪い訳じゃない。
「俺の執念深さを舐めないでよ。雫が嫌がっても俺は雫の事を好きで居続けるから」
胡坐をかいていた足を解放し、立ち上がる。
「また来るよ。今度来る時も色々と話を持ってくるよ」
最後に墓石に別れの挨拶をし、墓石から離れる。
雫はもう居ない。そんな事はとっくの昔に、あの日、血だらけで倒れた雫をこの目で見た時から理解している。救えなかったからとか、後悔から来る想いじゃない。俺が好きだから雫の事を好きで居続ける。
「......さて、気持ちを切り替えないと。これから信と裕樹に会うのに目元赤くてたら変に気を遣わせちゃうな。行くときコンビニで飲み物買って冷やそ」




