第六十話 事件後
仕事が忙しく全然書ける時間が取れず遅くなりました!すいません
世間の注目を集めた事件から数日。今でも朝の情報番組やワイドショーなどで扱われているそれはかなり注目度が高いのか新聞でもSNSでもその記事ばかりが取り上げられている。
会社の脱税疑惑は、元々六助が隠していた情報としていたのでそれはすぐに疑惑から証明へと変わった。額にして数億円もの脱税をしていた。現在ではそれを払い終え事態は収束へと向かっている。しかし、流石に世間からの目もあり社長はこれを機に失脚、新たに副社長をしていた妻がその座に就いた。元社長の夫はそれを補佐する役割に落ち着いている。
しかし会社の問題は落ち着いてきているがもう一つの問題は未だ解消をしていない。元社長の夫と現社長の妻との間にいる一人息子が犯した同級生拉致監禁。それに加えた暴力行為による罪は徹底的に警察が調べ上げた。
「それでは今日の取り調べを持って聴取は終了となります」
「そうですか。ありがとうございました」
「お身体に気を付けてください!」
警察による取り調べは数日間に渡った。入院はしていないものの重傷を負っている事に変わりがない事と、暴力を受けていた時の記憶が取り調べの時に思い出され精神的ストレスを感じてしまう恐れがあると警察側が判断しての事。
事情を聞いて来た刑事の方々は、信介への確認事項を全て終え家から出て言った。取り調べの都度、毎回同じ人に当たっていたので最後という事もあり家を出ていく時に身を案じる言葉を掛けられた。
今回の件で田中の身柄は警察に捕まった。刑事さんから聞いた話だと記事が出た時に家に行くと家には姿が無く、捜索した結果どうやらウチのすぐ傍で身柄を拘束したらしい。その時の確保劇を見ていた近所の人やニュースでのコメントでは何やら荒げた声で警察官達に連行されていたそうだ。そしてその後の田中の様子をさり気なく事情聴取の時に聞いてみた。
ーああ、彼?まだ自分が犯罪を起こした自覚がないのか少し挙動が可笑しくてね。全然取り調べが出来ないんだ。キミの話をすると「あいつが悪いんだ!何の才能も力もない奴が彼女を奪うから!」と機嫌を悪くするし。
聞いた刑事さんはそんな田中の様子を思い出してか呆れた顔で話してくれた。本当に話が進まない状況に呆れているようだ。しかし信介や葵達の証言で監禁されていた工場から信介の血痕が発見されている。何度も拘束されている時に殴られたりしてその時工場の地面に着いたものだと信介は考えて居る。
それに田中自身周囲の人達から良く思われていない事から今回の件で完全に味方を失った。実の両親も会社と共に舞い込んできた今回の事で息子への期待を無くしているそうだ。ただでさえ会社のイメージ低下で業績に影響が出ているのに警察関連の事を起こしたのだ。流石に縁までは切らないが前のように守るつもりもないらしく、保釈金も払うつもりはないらしい。元々、下請けの会社の息子や娘など歳の近い人に威張ったり学校でも変わらない自分主義の発言を繰り返していたことからかなり問題は抱えて居た様だ。ただ親が凄いだけで誰も問題にはしていなかっただけで。
「刑事さん方は帰ってみたいね」
「母さん」
部屋に入ってきたのは母翔子だ。しかしいつもの仕事着のスーツやそれに似たきちっとした服装ではなく緩い感じの印象のある格好で部屋に入ってきた。
「今日で一応聴取は終わりだってさ」
「あら。ようやくね」
翔子は信介同様に暫くの間、仕事を休んでいる。今回の件で息子との時間を大切にしたいと思い、会社に長期の休みを取った。言うなら有給休暇だ。それがどれだけの日数あるのか知らないが仕事漬けと言ってもいい仕事に明け暮れていたのでかなりの休みが取れると信介に嬉しそうに報告していた。
「まだ痛む?」
「ん、頭?もうそこまで痛みはない。身体の方も。治ってきてるって言うよりは痛みに慣れてきたって感じ」
まだ怪我をして一週間に近い日数しか経過していない。担当してくれた病院の先生からも時間はかかるだろうと言われている。気長に待つしかない。
「あ、そうだ!」
翔子は思い出したかのように声を上げた。
「今日の夜、葵ちゃんが泊まりに来るって」
「..........は?」
痛みが消えた頭に痛みがよみがえった感覚を覚えた。
「俺何も聞いてないんだけど」
果たしてこの母の発言は誠であるのか。だとしたら何故彼氏の自分ではなくその母親に言ったのか。信介は訳が分からなくなった。
その数時間後の夕方六時過ぎに、翔子の言う通り葵は槙本家にやって来た。平日で学校帰りの筈だが流石に一度家に帰ったようで服装はラフな服に身を包んでいる。そして両手には少し大きめの鞄を持っている。
「.........ホントに来たよ」
「いらっしゃい葵ちゃん!!」
玄関に立つ葵を見て母の言った事が事実であった事に対する驚きで状況についていけていない信介をよそに、葵が現れてテンション爆上げの翔子は元気に出迎える。
「お邪魔します」
「さあさあ上がって上がって。って、私がいない時に何度も上がってるか」
「そうだな」
軽いツッコみを入れる具合には状況の判断が出来てきた。
「アオ」
「ん?」
元気な翔子の後ろをついて行こうとする葵を信介は引き留めた。
「なんだお泊りって。俺何も聞いてないんだけど」
「実は急に決まったんだよ。翔子さんから”未来の娘の事は今のうちに知っておきたいから近日中にうちにお泊りしに来ない?”って」
本当に翔子の行動力は恐ろしいと、実の母の読めない行動に信介は頭を悩ませた。
「無理に泊まりに来なくても良かったんだぞ」
「大丈夫だよ。明日は土曜日で学校はお休みだし、それに.....」
「?」
「....そろそろ、信くんの家に泊まりたいって思ってたし」
顔を赤くさせながら葵は言った。
「お泊りって.....前にもしたよな」
信介の脳内では付き合う以前にこの家でみんなと行った勉強会兼お泊り会の映像が再生される。
「あの時はほら、千鶴達もいたし」
「今回も母さんはいるけど」
「それでも、やっぱり好きな人と過ごすっていうのは彼女からしたら憧れなんだよ」
葵は嬉しそうに言う。それを前にする信介は照れ臭く顔を背けた。
リビングでは翔子が気合を入れて買ってきた刺身やらお肉、そして今回のメインである鍋が中心に置いてありその中には既に準備万端のようにぐつぐつと煮込まれている肉や野菜が美味しそうに信介達を待っているようだ。
夕食はとても賑やかに行われた。信介からしたら久しぶりにここまで家族との時間を賑やかに過ごす事に最初の方はあった違和感も傷の治療中の時間を有効に使い徐々に慣れていっている。
夕食も食べ終わり、信介は自分の部屋に一人戻った。葵は翔子との共同作業で食器の片づけを手伝ってくれている。その間に風呂を済まし静かに部屋に戻ったのだ。
一人漫画を読む信介。部屋には頁をめくる音だけが響く中、その静寂を破りにかかる者が現れた。
「信介!」
「おっ!?」
突如現れた人物の発した声に驚く信介。声を出して入ってきた人物、翔子は扉の前で大きな敷き布団を持っていた。
「葵ちゃんはこの部屋で寝かせるからね!」
「......ああ」
突然の事で返事が遅れてしまった。しかし、この事態はもはや信介の中では予期していた事。彼女が彼氏の家に泊まりに来る。そうとなれば彼女の寝る場所は誰が考えても一つの場所しかない。そう、彼氏の部屋。つまり同室だ。
テキパキと自分の部屋にある物を部屋の隅に追いやり、持ってきた布団を空いた空間に敷く翔子。それを見ながらこの先の事を何も考えて居なかった事に今更になって気づき内心焦る信介。
(今思えば二人で同じ部屋で寝た事なんてねえぞ!いや、勉強会の時はリビングのソファで寝てしまったけど、その時はそもそも部屋に戻るだろうと思ってたからだし)
脳内で軽いパニックになっている中、翔子は素早く準備を終えた。
「よし、これでオッケー。今葵ちゃんお風呂に入ってるから」
「あ、ああ。分かった」
「........信介」
急にすまし顔に変わった翔子。それを前に信介も自然と姿勢を正した。
「将来の私の娘になる葵ちゃんの寝込みを襲うなんて事ないようにね」
「........」
まさかの母の言葉に図星をつかれ黙ってしまった。翔子は話を終えると用が済んだのか部屋を出て言った。母の言葉を固く脳内に留める信介。
ヒョコ
すると今部屋を出て言った翔子がドアの隙間から顔だけ出した状態で信介を見る。
「なんだよ。まだ何かあるの?」
「一つ言い忘れてた。葵ちゃんから来たなら文句はないわ」
「は!?」
「じゃね~!!」
「馬鹿だろ!?」
ありがとうございました




