第五十七話 重傷者一名、サボり一名
「.........」
葵達に助けてもらい病院で治療を受けてからの翌日、信介の家の自室のベットにて安静に寝ていた。既に起きていて眠気は残っているがまだ頭部に残る痛みと包帯の締め付けを地味に感じる為二度寝が出来なかった。
ー学校は少しの間行かなくていいからね~
昨日の夜病院帰り、車で家まで自分を送り会社に戻ろうとする母翔子は車を降りる信介にそう言った。
ーは?いいの?
ーそんなに怪我してると嫌でも目立っちゃうし、それにクソガキがいる所なんて行きたくないでしょ?
ー.....まあね
ーじゃあしばらく休みね。学校には私が言っておくから。あ、でも学校に行きたくなったら私に連絡してね。その時も私が学校に言っておくから
翔子はそのまま会社に戻っていった。
翔子の気遣いははっきり言って有難かった。わざわざむかつく相手の顔を自分から見に行くのは嫌だ。だが、捕まえてた自分が学校に包帯を頭に巻いた状態で現れた時の田中の驚いた反応は見てみたい気持ちも同時にあった。
しかし、捕まってから観る田中の様子を考えるに実力行使に出られる可能性すらあり得る。それだけは何としても信介的には避けたい事だった。自分だけならまだしも無関係な人間まで巻き込みたくはない。
なにより葵に被害がいくのが怖い。田中は葵にゾッコンで今回の件を起こした。なので葵に被害がいくのは低いがそれでも可能性としてない訳ではない。
(母さんが何やら行動してるみたいなんだよな~)
翔子が何やら行動を起こそうとしているのは昨夜の会話だけで何となく察している。正直とんでもない事をしでかしそうな予感がプンプンであるが連絡の取り様がない。
信介のスマホは現在でも田中が所持しているので信介は相変わらず誰とも連絡の取れない状態にある。唯一の救いは、翔子が学校に休みの連絡を入れてくれているという事だけ。それでも信介が家に帰っている事を葵達が知っている事が何よりの救いではあるが。
ピ~ンポ~ン!
「ん?」
家に来客のお知らせだ。信介は地味に痛む頭部を抑えベットから体を起こし玄関へ向かう。
ガチャ
「え.....」
寝間着の姿のまま信介は扉を開ける。そこには予想していた郵便配達の人ではなく
「....来ちゃった」
制服姿の葵が笑顔で立っていた。
◇
現在平日の朝八時半。既に学校に行っていなくては朝のホームルームに間に合わない時間だ。それに間に合わなければどんな成績優秀者だろうと優等生だろうと遅刻扱いとなってしまう。
無論最初から学校を休むことを連絡している場合には遅刻ではなく欠席扱いとなる。信介はこの扱いとなるが葵は連絡していない場合完全な遅刻。それも無断。
「なんで?学校は?」
「行かない。信くんが心配だから」
「.....連絡してんのか?」
「....実は、親に内緒で学校行く振りをして来たんだ」
無断欠席をしていた。葵は教師にも知れ渡っている優等生だ。そんな生徒が非行に走ってしまった。これには原因となる信介も違い意味で頭を抱えた。
「っ!大丈夫!?まだ痛むの!!?」
「これは単なる頭痛の痛みじゃないから平気」
取り合えず平日のこの時間帯に制服姿の学生がいると目を引くので葵を家の中に入れる。
「わざわざ学校を休んでまで来る必要なかったんだけど...おお!」
後ろに葵を引き連れてリビングに入る。その瞬間に後ろにちょっとした衝撃が走った。その衝撃となったものからは温かい温もりを信介は背で感じる。
「..........」
「.....葵さ~ん?」
信介は自身の背中にぴったりとくっつき腕を身体に回して抱き着く形で落ち着いている葵を気にする。
「良かった」
「ん?」
「....死んじゃったらどうしようかと思った」
昨夜の件では葵は病院に行く前に翔子から残りの四人と同じように自分の家に帰るように言われ止む無く帰宅した。その後に翔子から連絡があり信介に命の問題はないと報告があり安堵したがそれでもこうして目の前で自分の目で確認したかった。その欲望がこの場で爆発したのだ。
「死なないよ。こんなでも暫くすれば治るし」
「.......うん」
信介は葵の声が少し泣いているように感じた。顔は態勢が態勢なので確かめようがない。
「もう泣くなよ。昨日も散々泣いたろ?」
「だって.......本当に酷かったんだよ。頭から血は流れてるし、目だって死んでるみたいだったんだよ」
「そんな凄い状態だったのか」
だったら裕樹と駿が呆れている様子だったのも頷けるなと、昨夜の二人のやり取りに信介は納得する。
信介は自身の背中で涙を流しているであろう葵を確認するため、拘束されていた腕を優しくほどく。そして身体の向きを葵に対面する形に向きなおす。
葵は涙を流していた。
「あ~もう、泣くなって」
今度は信介が葵に抱き着く形をとる。身長差は少し葵が小さいぐらいなので抱き寄せられた葵の顔は信介の肩に落ち着いた。
「よしよし」
まるで子供をなだめるように信介は優しく回した手で葵の背中をさする。
「も~~~~、私子供じゃないのに」
「泣いてる子の慰め方なんて知らないし..............嫌ならやめるけど」
「ダメです。それともっとギュッっとして」
「あ、はい」
(なんだこの状況)
自分のせいで泣いている彼女を落ち着かせるためにやったこの行為に何故かご不満気味の彼女さん。それを思いやめようとするが今度はそれに怒られ追加の注文までされた。
信介はリビングでしている自分達のこの状況がおかしい事に気づき始めた。




