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第五十話 抱く不安


「信の奴来ねえな」


 いつもの平日の高校。勿論平常運転で授業はあり校内には在学生徒が多数おり各々の教室で朝のホームルームの時を待つ。その一人、近藤裕樹はいつも一緒にいる友人の槙本信介が未だ教室に現れない事を口にする。残り五分でチャイムがなると言うのに。そんな裕樹の前にはこれまた時間ギリギリまで自身のスマホでゲームを楽しむ木村駿の姿が。


「休みなんじゃない?」


 スマホ操作の手を緩めることなく駿は裕樹の口にした言葉を返した。


「でも信介(あいつ)、学校休む時は俺か駿のどっちかに連絡してくるだろ」

「大抵俺だけどね」

「お前も結構休むのにな。なんでだ?」

(しつこいからだよ)


 ちなみに信介が割合的に駿の方に連絡する回数が多いのは簡単に冷静な駿の方に休むの一言とその理由をL○NEで送れば”分かった”や”了解”などの短い言葉で会話が終わるからだ。裕樹の場合、しつこくL○NEを送った事があり、それ以降駿と休みの日が被らない限り極力駿の方に休みの連絡を入れる。その辺の理由を知っているのは信介本人とこれまた同じ被害者でもある駿の二人だけ。裕樹はその事実を知りもしない。


(理由を送れば”大丈夫か?””見舞いに行ってやろう。なにか欲しいものあるか?”って。心配してくれるのは嬉しいけど本当に体調不良の時はちょっとしつこくてイライラする)


 信介も駿も互いに似たような性格をしていて”学校がめんどくさい”などの発言を日頃からしているにも関わらず、案外真面目に熱が出たなどの体調不良が無い限り学校には来ている。信介はないが駿の場合徹夜でゲームをし寝る時間がいつもよりも少なく睡眠不足状態であっても学校には来ている。口では言うが根は真面目なのだ二人とも。


 休む場合、休んでいない二人のどちらかに連絡を入れるのが殆ど決まりごとのようになっている。


「L○NEもないな」


 裕樹は信介から休む内容のL○NEが送られてきていないか、自身のスマホを取り出してアプリ開く。しかし新たに送られてきたものはなかった。


「俺の方にも来てないね」


 駿もアプリを開いて確認した。結果は裕樹と同じでなにも送られてきていない。


「駿の方にも来てないのかよ」

「寝坊してるのかな?」

「ありえそうだけど、今まで無かっただろ」


 そんな他愛のない話をしながら教室に担任の教師が入ってくるまで待ってみたが、信介は教室に姿を見せる事はなかった。担任教師も信介の休みを知らないようで、誰も座っていない信介の机を見るや「今日は槙本休みか?」と誰かに訊ねるように言っていた。


 それで裕樹と駿の二人は信介が学校にも連絡していないと知った。


「無断欠席なんて今まで無かったのに」

「.........」


 ホームルームを終え、一時限の授業までのしばしの間裕樹は駿と話す。これまで無かったことが起きた。信介が無断欠席。時々授業中に居眠りをするこはあるが、それでも教師からの目が厳しく向かれないように学校生活を送っていたはずの信介からしたらあり得ない事態だった。

 

 信介の空の席を見ながら駿は呟く。それを裕樹は黙ったまま同じように信介の机を見る。いつもならここで三人で談笑しているのに。風邪などの体調不良で休んでいる時は連絡を貰った時点で気にはならないのだが、連絡の取れない状態の今は何故か不安が残る。


授業が始まっても頭の中に残るモヤモヤとした不安。ただ友達の一人が学校を無断で休んでいる。ただそれだけの事の筈なのに。


「........」

「........」


 裕樹も駿もずっと信介の事が気がかりで仕方がない。


 午前の授業を終えて昼休みに突入した。裕樹と駿はいつもの位置に着くがそこにはもう一人いるはずの信介の姿はない。結局、午前中の間に信介は学校に姿を見せていない。二人で送ったL○NEにも既読の文字はない。つまりこの内容を見ていない。本当に連絡がつかなくなっていた。


「寝込んでるとか?」

「だとしたら寝すぎだろ」


 ダラダラしている信介だが流石にそこまでではない。それは二年からの付き合いである裕樹はおろか一年の頃からの付き合いの駿も理解している所。


「ここは一番身近な人に聞くのが早いね」


 駿は言った。口ぶりから既に自分では考えても答えが出てこないという諦めが含まれていると裕樹は悟った。それと同時に駿の言った信介の”一番身近な人”というワードに当てはまる人物も分かった。


「新城か」


 新城葵。今年の夏、夏休みに入る一月程前から信介と男女の交際をしている学年の枠を超えた校内のマドンナ的存在の女子生徒だ。


 去年の高校入学式の日に二人は出会い、それ以降意外にも葵の方から連絡先の交換を持ち掛け、その日から付き合う以前の間交流を深めていたらしい。


 裕樹が信介と葵に接点があると知ったのは付き合う少し前。急に昼休みに隣のクラスの人に教科書を渡しに行くと聞き、それとなく雑談で渡す相手を聞いたのだ。それで信介が”新城”と口にした時の自分の驚きは今でも鮮明に覚えていると裕樹は自覚している。そもそも校内で話している場面を見た事がない意外な二人なのに関係は既に付き合う前の男女のような親密な関係にまでなっていたのだ。そこから事情はあまり聞いていないが、色々二人の仲をそれ以上に深める要因があったようで信介からの告白し葵はそれを承諾。見事二人は付き合う事になり今に至る。

 

 付き合ってからというもの、二人はしょっちゅう校内で会えば立ち話など以前なら校内では考えられない光景を見せている。


 男友達で身近な人間は裕樹と駿のどちらかだが、女子の中だと彼女である葵がぶっちぎりの一位だ。


 確かに葵なら、信介が何故学校を休んでいるのかその理由を知っているかもしれない。






「え、新城も知らないのか!?」

「.......うん」


 しかし結果は思っても居なかった事に。完全に信用しきっていた葵すらも信介と現在進行形で連絡が取れないらしい。これには裕樹と駿の二人も動揺を隠せない。


 放課後に葵の元を訪れた裕樹と駿。葵の元には裕樹の彼女である遥と千鶴と言ういつもの二人もおり、信介さえいればいつものメンバーの集合になっていた。そこで出た答えが冒頭の事だ。


「完全に新城をあてにしてたんだけどな」

「私も信くんと連絡がつかないの。もう何通もL○NEを送ってるのに」

「無視してるとか?」

「ええ!?」

「それはないよ。信はそういったものはすぐに返すようにしてる。本人が言ってた」

「あ、それ私も聞いたことある。通知の数字がアプリの所に表示されるのが嫌なんだって」

「喧嘩でもした?」

「してないよ!」

「それなら俺と駿も無視するのはおかしいだろ」


 話し合いの中、信介と葵の喧嘩説を出す遥。しかし当事者の一人である葵がそれを否定、確かにと裕樹も正論を口にその説は消えた。 


「こうなったら日葵さんに聞くしか」


 少し前まで槙本家に短期居候をしていた信介の従姉弟である佐山日葵。信介とのデート中に乱入してきてそこから親交を深めた葵。そんな頼れるお姉さん肌の日葵に助けを求めようか迷う。連絡先の交換は済ませいつでも連絡の取れる状態にある。しかしこんなことで連絡を取り、どうしようもない理由で日葵に呆れられないかという心配が脳裏によぎり中々連絡をする決心がつかない。


 そんな迷う葵を葵以外の四人が不思議そうに見つめる。


「葵、日葵さんって?」

「信くんの従姉弟のお姉さん。すごく綺麗な人で相談相手なの」


 今は実家の方に戻っていると信介からの情報で聞いている日葵。


「その人なら知ってんのか?」

「どうだろう」


 この裕樹の言葉に葵は確かにと思う。従姉弟の日葵さんが今回の事を把握しているのか。案外

知ってそうだけど、あの公園のベンチで話してみての印象では日葵はこんな事をするような人ではない。女同士だからこそ分かるものがある。


「案外明日普通の顔して学校に来そうだけどね信は。”あれ、皆どうしたの?”って言って」

「信なら言いそう」

 

 ここにいるメンツは少なからず信介の性格面を理解している。だからこそ千鶴の言った事を信介が現実にして明日してくるのが容易に想像できた。


「......明日の放課後」


 裕樹は四人に言う。


「信が学校に来なかったら明日の放課後に信の家に行こう。盛大に学校を休んだことを責めてやる」

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― 新着の感想 ―
[一言] 重くなってきましたね。
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