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第四十四話 姉の心


「信ちゃ~ん」


 私は、お風呂から上がってリビングに入り、リビングのソファで寛ぐ従姉弟の信介に声を掛けた。


「ん~?」

「お風呂あがったから入っていいよ~」

「ここ、一応俺の家なんだけど」

「いいじゃん。固い事は抜きだよ~」


 信ちゃんはソファから立つと私の直ぐ横を通り過ぎてリビングから出て行った。素直にお風呂に向かったのだろう。


 私がアメリカから帰ってきたのは二日前の夕方。アメリカと言うより、それと地続きになっている国だったり海を挟んだ国、場所は違えど圏は同じ場所に行ったりと自由にしていた。


 私はソファの信ちゃんが座っていたと同じ位置に座る。


 母親同士が姉妹で、当然の如く私と信ちゃんは出会った。まだお互い子供だった時はお姉ちゃんである私が信ちゃんのお世話みたいな事をしていた。と言っても、昔から物静かな子で騒がしかったのは私かな?。よく嫌がる信ちゃんを無理やり外に連れ出して公園で遊んでいた。


 そんな信ちゃんだけど私はある事に気づいた。


 そうだ。信ちゃんに今まで無かった女の影が見えるのだ。


 私がアメリカに行くと親戚の集まりで発表した時、信ちゃんはまだ可愛らしい中学生だった。でも、中学生と言っても男女の恋愛が正式なお付き合いと発展する初めての舞台と言える。私が中学の時にも友達の色恋沙汰が様々な形で噂されていた。実際私も何回か告白されたりしたし、一人だけ同級生の当時仲の良かった男子と付き合った。


 まぁ。私の話は置いておいて問題は信ちゃんだ。


 信ちゃんとは従姉弟という関係性ではあったけど、よく私の買い物に付き合ってくれたり荷物を持ってくれたり(嫌々荷物を持っていた信介)周りに自慢できるぐらい大の仲良しと公言できる。


 そんな信ちゃんに色々と変化がある。


 私が不自然に思ったのはスマホを確認する頻度だ。学生という事もあって私が信ちゃんと関われるのは朝と今の様に学校から帰ってくる夜の間だけ。それだけしか信ちゃんの事は見てあげられないけども、それだけの僅かな時間だけで以前の信ちゃんと違う点が分かるとは私の信ちゃんに対する愛の大きさかな?と口には出さないで心の中で呟く。

 学生でスマホを持っていないなんて事は今の時代滅多な理由がないといない。

 信ちゃんがスマホを確認するのは朝に比べて明らかに回数が多い。友達と連絡を取っている、スマホゲームをしていると思っていたけど違った。


 そして何故か持っている服がオシャレなのだ。信ちゃんは元々世間の流行なんかには疎く、ファッション全般で言うと全くと言っていい程興味がない。だから私がアメリカのお店で、信ちゃんの成長を見越して服やらを買ってきたのだ。だけど、信ちゃんの部屋に信ちゃんが学校に行っている間にこっそり侵入してみればどうだ。信ちゃんに似合いそうな服がクローゼットの中のハンガーに掛かっているではないか。私は最初信ちゃんが自分で購入したのだと、少しでもファッションに興味が出たのだと姉として嬉しく思った。だけどそこで疑問が出る。身なりを気にしているのならあの長すぎる髪型はなんだと。後ろの髪なんて少しではあるがゴムで結べそうだ。前髪だって目にかかる程長い。とても自分の外見を気にしている訳ではないように見える。


 そんな自分の格好に無頓着な信ちゃんに女の影。


 それを確信に変えたのは本当に偶然だった。


 信ちゃんがトイレに行ったときにソファの前にあるテーブルに置かれた信ちゃんのスマホの画面が点灯したのだ。そしてそこに自然に視線がいき、そこで見てしまったのだ。”アオ”と表示された通知を。

 

 最初は男かと思ったが、信ちゃんはスマホの設定をいじっていないようで相手から送られてきた内容がそのまま画面に表示されるのだ。


アオ:今大丈夫かな?

アオ:今度の休みの日の事で


 本当はいけないことだと分かっているけど見てしまった。そして文面を確認するにこの送り主は女だと私の直感が伝えてくる。


だとするとだ。何故この女の子の事を信ちゃんは私に教えてくれないのか。


 昔から何かと私に隠し事がある信ちゃんだけど、こんな人間関係までの隠し事は初めてではないか。私に隠したい人?


 という事はつまり本当にこの女の子は信ちゃんの彼女だったりするのかな。そんな私の中の好奇心をくすぐる問題が信ちゃんにあるなんて。


(いけないな~信ちゃん)


 こんな面白い事を姉である私に報告しないなんて。


 これは私も行動を起こすしかないかな?

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― 新着の感想 ―
[一言] お姉さん、是非ともこの面倒くさい男を引っ掻き回したって下さい。笑
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