第四十三話 合わせたくない理由
授業終了のチャイムが校内に響き渡り、学生の癒しである昼休みに突入した。
信介はいつもの裕樹に木村と言ったメンツで集まり昼飯を食べながらの雑談に入ろうとする。
「あれ?信、今日は弁当なんだ」
信介が日葵の作った弁当をリュックから出し机に出した。それを不思議そうに見つめる木村が言葉を発す。それに同調するように裕樹は「確かにな。新城の手作りか?」と葵が作ったものと勘違いする。
確かに普段弁当を持ってこない奴が急に弁当を持ってくれば、珍しいと思われるのは仕方のない。ましてや、彼女持ちだと周りでは勝手に「彼女の手作り弁当」だと解釈するのは自然の流れであった。
しかし、今回は本当にそれが勘違いである。彼女ではなく、従姉弟の姉が作ったものである。
「違うよ。今、家に従姉弟が泊ってて作ってくれたんだ」
隠すようなことでも何でもなかった信介は正直に日葵が、従姉弟が作ったと二人に話した。
「へえ、でも何で信の家にいるの?」
「昨日アメリカから帰ってきたんだよ。なんで居座ってるのかは俺も不明」
そういえばと、信介は今更の疑問がわく。信介の叔母に当たる、つまり日葵の母親なのだが実家は槙本家から車で一時間も掛からない場所にある。そこで叔母と叔父、今は二人で暮らしている。
しかしそこまで距離がないのなら何故槙本家に帰ってきたのか。本当に今更の疑問が生まれてしまった。普通に帰ってきて、普通に飯を作って食べ、風呂に入っていた。そして朝には当たり前のように二人分の朝食と自分の学校の為に弁当まで作っていた。
逆に何故今まで謎にならなかったのか不思議なぐらいだ。
「にしても態々従姉弟の為に弁当を作るなんて仲が良いんだな」
「周りの家がどうかは知らないけど、うちの親戚は基本仲が良いよ」
弁当にまかれている布の結びをほどく。そこには普通の弁当箱が一つ。ご飯とおかずが一緒に入るタイプの弁当箱である。
そこには何の違和感も抱かず、どれどれと少しワクワクした気持ちを胸に弁当の蓋を開ける。
そして中身がオープンになった時、信介はそれを前にして目を見開いた。
衝撃
その一言に尽きる。
「どうしたの信......ってこれは」
「.....本当に従姉弟が作ったのか?」
信介が弁当の蓋を開け、中身を見た途端に動きを止めたことで二人は信介の弁当の中身を除く。そして出てきた言葉は、驚きと戸惑いであった。
弁当は普通の半分白飯で残りの面積をおかずが占めている。おかずだって、昨日の鮭の身が余っていたのかほぐされた状態で入っているし、その他には卵焼きとか枝豆など健康的だ。
問題はご飯、白飯だった。何故かその形はハート型なのだ。
何とも愛情あふれる弁当に見える。
「えっと......仲が良いんだね」
「仲の良さは良いけど.....何でご飯がハートの形をしているのか。絶対面白がってやったな」
「..........」
「おい裕樹、写真を撮るな」
動揺と驚きの渦に飲まれる信介と木村の二人を置いて、裕樹は一人無言でスマホを取り出し、問題となっている弁当の写真を一枚撮る。
「こんな漫画だけの物を現実で見られる機会なんてそうそう無いからな。記念だよ」
「弁当は信のだけどね」
衝撃の強い弁当から一転し、立ち直る三人は各々のお昼を食べ始める。
信介も日葵の作った弁当を食べる。
日葵の作った料理を食べるのは今朝の朝飯を含めると、昨日の夕飯と今回で三度目だ。夕飯の和食で既に日葵の料理の腕は分かっているので何の躊躇も無くおかずに手を付ける。
うまい
分かってはいたが日葵の料理の腕はこの二年でかなり高まっているものである。それはこの弁当でも分かる。それを信介は改めて実感する。
「そういえば、新城さんの手作り弁当とか食べた事あるの?」
木村は何を思ったのかそのような問いを信介に投げかけた。
「弁当はない。休日に何か簡単な物を作ってくれるぐらいかな」
まさか葵よりも先に身内の姉の手作り弁当を食すのが先になるとは信介自身思っていなかった。
「いいの?新城さんそういうの気にしないの?」
「さあ」
「でもまあ、新城は気にしなさそうだよな」
葵の印象は、美人で優しい作っているとしか思えない性格の持ち主という。
「そもそもアオには従姉弟が今俺の家にいる事は話してないんだ」
「え、何で?」
そこから信介は困惑の表情を浮かべる二人に日葵の事を葵に伝えていない理由を口にして説明を始める。
本来なら葵に従姉弟の存在を伝える事に躊躇は無いのだ。しかし今回の話の中心人物である日葵に関してはあらぬ誤解を招きそうなのだ。歳もそこまで近いという訳でも遠いわけでもない。それに加え、日葵との仲も本当の姉弟のように仲が良い。それこそ日葵がアメリカに行く前から何度も二人で町に繰り出したりしていた。
その時、何度か学校の友達に見つかり「彼女か?」や、店で一緒に品物を見ていると「お似合いですね」と優しい営業スマイルを浮かべて近づいてくる店員に言われたことなど数えきれない程ある。カップルな訳ないだろと、信介は質問されるたびに思ってしまうのだが日葵がそもそも子供っぽい性格で今よりも少し子供っぽい顔立ちをしていたので間違えられるのも無理はなかった。
それに何より問題なのは、信介に近づく際の日葵の距離感の近さだった。普通に信介に抱き着いてくるし、信介が昼寝して起きると何故か隣に平然と日葵が寝ているという構図が出来上がっているのだ。
つまり、日葵と一緒にいると流石の葵でも不安になるような展開が多くあるのだ。
それならだ。日葵が実家の方に帰るか、またアメリカか違う国に行くまで黙っていればいいのだと信介の頭脳は行き着いた。本当は単にこれまで何十回としてきた説明を葵にするのが面倒なだけである。
「元気な人だから、アオも相手をして疲れると思うんだ」
「アメリカか.......確かにボディタッチが多いイメージあるわ」
「まあそれはアメリカに行く前からだけど」
「でも話さないのは更に誤解を招くんじゃないの?」
「.....実はまだ理由がある」
納得しきっていない二人に信介は更なる理由を口にする。
「ただ単に、二人が仲良くなったら俺の情報が全部アオに筒抜けになる」
信介だって年頃の少年だ。いかに彼女である葵を信頼していようと、隠したい事はある。それを赤裸々に暴露してしまう危険性を持っている日葵に会わせたくないのだ。
それを言うと二人は納得した様子であった。特に同じ彼女持ちである裕樹は良く気持ちが分かるのか共感の意味を込めて首を縦に振る。
「流石に身内に会わせる(サブタイトルも)にはリスクあるかも」
「俺も、遥に過去の黒歴史みたいなことを晒され時には恥ずかしくておかしくなりそうだ」
またもや変な絆が芽生えたようなものが三人の中で出来上がってしまった。




