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第三十七話 木村の奇行

今回から木村がメインの話になります。

意外と木村主体の話が欲しいというのがありましたので、書くことにしました。


アオとの濃厚過ぎる内容を送った花火大会から、数日経過した夏休みのある日。

俺は夏のとても暑い、じりじりとしたキツイ太陽からの日差しを受けて、とある場所へ向けて歩いていた。


きっかけはほんの数十分前。裕樹から連絡を受けた事が始まりだ。


夏休みの課題を徐々に終わらせていき、その合間の休憩でスマホをいじっていた時に、L○NEで裕樹から謎の内容と共に呼び出しの内容が送られてきた。


ー”街中で花を持った駿発見!いますぐ来てくれ!”


はっきり言って、この内容だけでわざわざL○NEを送って来ないで欲しいが、内容に木村が出てきていることに少し興味が引かれた。


木村は、俺と同じで基本休日などは家から出ようとしない。最早病気のレベルでゲームが好きなゲーマーであり、学校では顔の容姿レベルは高いのに授業以外の殆どをスマホゲームに時間を費やしているので”ゲーマーのイケメン”とアオと違った意味で有名だ。


そんな木村とL○NEをしている裕樹と学校ではいつも一緒にいる俺だが、俺はスマホ画面に映る内容の”花を持った駿”というキーワードが気になって仕方がなかった。


俺はすぐに着替え、通話で木村を追跡中の裕樹と連絡を取りながら夏の地獄の外へ繰り出した。


そして現在、夏の暑さを感じながら歩きコソコソと、ある意味目立っている裕樹の姿を確認し声をかけるため近ずく。


「裕樹」

「うおっ!」


声を掛けると裕樹は驚きの声を上げた。そして俺だと確認するとほっとしたように息をはいた。


「なんだ。信かよ。驚かすなって」

「別に驚かす気はなかったけど。それで木村は?」

「あそこだ」


隠れるようにして物陰に隠れる裕樹が指さした方向を見る。そこには確かに私服姿で町を歩く木村の姿が見える。この夏休み、裕樹と交えて三人でオンラインゲームをしているので一切交流がないわけではないが、夏休みでは初めて直で木村の姿を視界に納めた。


「......ほんとに花持ってるな」


視界に映る木村の手元には裕樹から報告された通りに花を持っていた。


「行くぞ!」

「まじで追うのかよ」


木村の姿を見失わないように裕樹はノリノリで追う。俺はそれについていく。


木村はただ歩いているだけだが、単に容姿が良いのと何故か持っている花のせいで通り過ぎる人からかなり視線を浴びているように見える。肝心の木村はそれを敢えて無視している感じでどんどん進んでいく。


「暑い」


木村のあとを裕樹と共に追跡すること五分程。既に来たことを後悔する程大量の汗が額から顔を流れていく。


「どこまで行くんだ駿の奴」


そんな暑さに負けず、裕樹は少し距離のあいた前方を一人花を持って歩く木村を観察する。元気なものだと、この暑さに負けない裕樹に関心する。


しかし、果たして木村はどこに向かっているのだろうか。今現在歩く道には、木村の好きなゲームセンターなどの娯楽施設があるわけではない。ましてやこの先に進んだとしても、あるのは確か寺やお墓のある霊園である。


そこで俺の脳裏にある一つの可能性が思い浮かんだ。木村の持っている花に、この先にある霊園。


もしかしたら木村は誰かのお墓参りに行く道中ではないのかと。


「あっ入っていったぞ」


木村は洋風のような柵上の空いている門を抜け、中に入った。そこは俺の思った通りの霊園だった。





霊園の受付で物を受け取ると木村は園内を突き進み、辺りに無数に立っているお墓の一つの前に立つとそこで足を止めた。それを俺と裕樹の二人は隠れられる位置にある木の陰に隠れてその様子を伺う。


「誰の墓なんだ?」

「知らない」


流石に木村の姿は確認できるが、墓石に彫られている眠る人の名前が刻印された文字まではこの位置からでは視認出来ない。


しかし、眠る人が木村にとって大事な人であるのは木村の顔を見れば一目瞭然であった。


「..........」


木村はしばらくその場に立ったままだ。視線はまっすぐ墓石に向かい、微動だにしない。それは三分程続いた。

その後、木村はここまで持って来た花を墓石の前にゆっくりと、優しく置いた。そして霊園の受付で貰った掃除道具を手に持つと墓石を丁寧に拭き始めた。


「......これってもしかして不用意に探っちゃいけない感じ...?」

「今更かよ」


俺は裕樹の発言に反射で突っ込みをぶっこんだ。裕樹の思ったそれを俺は木村が霊園に向かっているかもと予想出来た時、既にその思いを抱いていた。


当然だ。誰が同級生の、それもいつも学校で一緒に居る友達の墓参りシーンなど見たいだろうか。別に嫌悪感があるわけではなく、同級生の落ち込む様子を見たくないと言う意味でだ。


「いつまで隠れてるの?」


その声に背筋がびくついた。それは隣にいる裕樹も同様だった。


「......」

「......」


互いに顔を見合わせ、謎の頷きを返す。裕樹も俺と同じタイミングで頷きを返してきた。


俺と裕樹は木の陰から揃って顔だけ出して声のした方を見る。


「.........ばれてないと思ったの?」


木村は墓石を拭く手を止めた状態で呆れた声でそう言った。怒っている様子ではなさそうだ。俺と裕樹は大人しく木の陰から出て木村に近ずく。


それにしても


「気づいてたんだ」

「あんなに視線を感じればね。それに隠れるのが下手すぎ」


まあ信はうまく隠れてたから裕樹よりは尾行の才能はあるね、と後を付けられた人間とは思えない落ちついた口調で木村は淡々と言った。どうやらかなり前から俺と裕樹には気づいていたようだ。


「ほら」


木村は使っていない掃除用の新品の雑巾を俺と裕樹に渡してきた。俺と裕樹は良く分からないままそれを受け取る。


「ついてきたなら手伝って」


笑顔で木村は俺と裕樹に言った。それで確信した。


思いのほか木村は怒っている、と。







最後まで読んでいただきありがとうございます。


この後の展開がよめてしまう人が多いと思われますが少し長くなると思われますが、どうぞお付き合いください。

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