第三十五話 くつろぐ二人 後半
「それで遊ぶって何する?」
おにぎりを食べ終え、おにぎり二つの代金を払い終えた後に信介は隣でテレビを観ている新城に尋ねる。
新城はその問い掛けにテレビを観ながら「う〜ん。どうしようかな〜」と困った返答をして来た。
その彼女の反応を見て新城自身も何をするか決めていないようだと分かった。
現在時刻は午前十一時を少し過ぎた世間一般で言えば昼前の時間になっていた。
この時間から外へ出たとして恐らく第一の目的場所はお昼ご飯を食べる場所を探してからになる。
しかしこのまま今日一日を家でゆっくり過ごそうものなら態々炎天下の中飲食店を探さないで済む。
それと引き換えに昼ご飯はまたコンビニか家に置いてあったカップラーメン達を食べるしかない。
どっちにしろ外へ出る可能性はあるが、それでも後者はまだ前者よりも外へ出る可能性は低い。
だが信介はまだ約束を忘れていたと言う事が脳裏に引っ付いて離れず少なからず罪悪感が心に残っている。
それもあり彼女が望む方を優先したいのだ。
「う〜ん...........どうしようかな。信くんに会いたくて遊ぼうって誘っちゃったけど私も特に何をしたいとかないんだよ」
その様に言う新城に信介は返答に困った。
シンプルに自分に会いたいと言ってくれた事に素直な嬉しさを感じたのだ。
「それなら今日は家で過ごす?」
もう一度聴くと悩んだ結果新城は「そうしよう」と言い、今日はお家デートと言う事となった。
時間は昼前でそろそろ昼ご飯を食べようかとも話すのだが、信介はおにぎり二つを食べてお腹は減っておらず、元々小食な新城は夏の暑さもあって夏バテでお腹はまだ減っていないと分かり、取り敢えず昼ご飯はお腹が空いたらと言う事になった。
「なら映画でも見る?」
そこで信介は新城に映画を見るかと聞いた。
勿論信介自身この選択が正しいのかなど分かってはいないのだが、このまま何もしないで時間だけが経過していくのは何としても回避したかった。
自分の部屋から数枚の、どれも日本ではなく海外の、しかも季節感を味わおうと夏らしいものをチョイスして新城の前へ出す。
夏らしさと言っても、一枚は古代のサメと命掛けの戦いをする多少のグロさのあるもので他もサメではないがそれに似た感じなのだ。
新城が選んだのは結果サメの奴となり、信介は観る為に準備をする。
「サメか〜。なら舞台は海だね」
「まあ、そうだろ」
そんな当たり障りの無い話をしながら、テレビの画面は変わった。
そこから信介からしたら何度も観たことのある映画予告を観てメニューへと進み、慣れた手つきでリモコンを操作。
海外の映画と言う事もあり、音声や字幕などは弄らないとそのまま再生すると全て英語で始まってしまう。
全ての海外映画がその様な仕様では無いのだが、二人が今から観ようとしている映画がその仕様なのだ。
「どうする吹き替えで観たい?」
「それで良いよ」
「了解しました」
音声は日本語吹き替え、字幕は無しで設定していざ再生ボタンを押した。
「面白かったね」
映画の終わりのエンドロールを観ながら新城は映画の感想を口にした。
「それなら良かったよ。ここまで観て「面白くなかった」何て言われたらどうしようかと」
信介は新城の映画の感想を聞くと安堵の表情を浮かべた。
正直信介の映画を観ると言うチョイスは信介自身内心でヒヤヒヤとしていた。
映画は基本的に個人でどのジャンルを観るかなどで結構バラツキがあり、人それぞれで変わって来るのだ。
なので新城が選んだ映画であろうと、その映画を選択肢に選んだのはその映画の所有者たる信介なので、この映画を観た後に新城の口から「あんまり面白くないね」などのマイナスの言葉が出て来れば、それは信介と映画の趣味が合っていない事になり、どこか否定された気持ちになる。
「やっぱり海外の映画って凄いよね。CGって分かってても凄いリアルだったし、何より迫力が日本の映画とは違うって感じだった」
「海外はお金を掛けてるから」
若干眠気の出て来た信介は欠伸を堪えながら映画のディスクをケースへとしまう。
何度も観たことで展開が分かりリラックスし過ぎたのだろう。
実際何度か寝そうになった。
しかしその度に、新城の新鮮な反応が目に入り眠気が覚めていた。
時間は観た映画が約二時間で現在午後二時前となっていた。
「映画を観終わったからかな?集中が切れて急にお腹が空いちゃった.....!」
新城は恥ずかしそうにお腹をさすりながら言った。
ここで可愛いお腹の音が鳴れば更に可愛いと思うが、その音が無くてもポーズだけで可愛いと思ってしまうのは新城の魅力故だろう。
「でも、食べれるものは何もない?」
彼女の要望に応えたいところだが、この家には直ぐに食べられるものはカップラーメンしかない。
生憎料理もしないので、材料の類もこの家にはない。
「カップラーメンしかないけど、それでも良いなら食べる?」
「......!食べる!私、カップラーメンって食べた事ないの!」
「え........」
提案したのは良いのだが、まさかの食べた事をないと言う事で少しの時間信介は言葉を失った。
このあと、作り方を口で説明しながら出来上がり、食べ終わるまでの新城のキラキラとした純粋な子供の様な眼差しは信介にとって忘れられない夏の思い出の一つとなった。




