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第三十五話 くつろぐ二人 前半


 翌朝、タイマーで設定しておいた自分の部屋のエアコンの作動している音が耳に入りながら信介は目を覚ました。


エアコンが無事に問題も無く作動しており、部屋には一切の熱気は感じられない。


まだ寝ぼけた状態のまま枕の側に置いてある充電器のコードが刺さったスマホを持ち現在の時間を確認する。



「............九時かよ....」



信介は時間を確認すると嫌そうな声で呟き、横に向けていた身体を反転させて逆方向を向く。


学校がある日ならとっくに一時間目の途中であり遅刻確定なのだが、今は夏休みの二日目である。


その為普段より遅く起きても良いと思うのだが、まだ自分の身体の体内時間が定まっていないためかとても曖昧な時間に起きてしまった。



(......眠い)



まだ寝たい気持ちが勝りベットから起き上がる気力すら持てない。


涼しい空気を感じながら心地の良い眠気と戦う事数秒。


もう少しで意識が完全に沈むと言う所でピンポーン!と甲高い音が家に流れる。


モゾモゾとベットの中を動き、沈みかけていた意識を無理やり急浮上させて身体を起こす。


いつも見ている自分の部屋を出て、寝ぼけた状態で危ないと階段をいつもより慎重に下る。


一階に下り、近くにある玄関へと覚束ない足で進む。


その際にももう一度!と言わんばかりの甲高いインターホンの音が家中に響く。


はいはい、と言いながら玄関に進み扉を開けた。


玄関の扉を開けると部屋ではカーテンによって遮られていた眩しい太陽の陽光が信介の目には眩しすぎて、思わず眩っ!と開けた直後に口に出してしまった。


それが相手側に聞かれたかもと直様多少の羞恥が襲うが、それでもどうせ相手は郵便配達か宅配の人だろうも思うと羞恥に感じたのはコンマ数秒で終わった。


信介は太陽の陽光を手で遮りながらインターホンを押した人物のいる場所を見る。


そこに居たのは信介の彼女ーーー新城葵が清楚感溢れる白のワンピース姿で待っていた。



「信くんおはよう」


「アオ。どしたの?」



元気に朝の挨拶をする新城に信介は頭を掻きながら疑問をぶつける。


それを聞くと新城は目に見えて少し拗ねた様子へと変わった。



「もう!昨日通話で遊ぶって言ったよ」


「あ〜。ごめんこんなに早く来るとは思ってなかった」



確かに昨日の記憶の端に新城と今日遊ぶ約束をしていたと思い出す。


拗ねた様子の新城だが、だんだんと目が慣れてきて彼女の全身がくっきりと見えるようになる。


白のワンピース姿は夏の季節感を感じ、涼しげであり新城の普段から感じる清楚感をいつもよりも強く感じてしまう。


ここが住宅街で人通りが少ないから良かったものの、ここが人通りの多い街中であれば男女問わず視線を浴びているだろう。


太陽の陽光が強く、新城は帽子などの陽光を遮る物を持っていなく直射日光を直に浴びているので兎に角家の中へ上げた。


その間、信介が約束を忘れていたと少し拗ねている新城の機嫌は収まらないままにリビングのソファへ座る。


その状態の彼女を見ながら信介は冷蔵庫に入れてあった残り少ないペットボトルに入ってある麦茶を自分の分は用意しないで新城の分だけコップに注ぎ彼女の前のテーブルに置く。


新城は自分の目の前に置かれた麦茶を見るとコップを手に持ち少しずつではあるが飲み始めた。



「...........怒ってる?」



麦茶を静かに飲む彼女を横目にリビングのエアコンのリモコンを操作する。


設定を弄りながら信介は新城に尋ねた。


そもそも質問が悪いと思ったのは言い終わった後だ。


約束を忘れていたのは自分なので圧倒的に悪いのはこの場合自分だと思うが、いつもなら心地の良い静けさが新城の機嫌により静かではあるものの変に重たい雰囲気があるため、場を少しでも和ませようとしての質問だった。


口にしていたコップを新城は少し麦茶が残った状態でテーブルに置く。


そしてソファの近くに立つ信介を見上げる形で見る。



「まさか忘れてるとは思わなかったよ」


「.........すいません」


「まあ、時間も場所も決めて無かったから今回はしょうがないね」



その新城の慈悲に信介はありがとうございます!と深々と彼女に頭を下げた。


そんな信介を新城は今度は不思議そうに信介を見る。



「もしかして寝起きだった?」



信介はこの発言は今の自分の格好のせいだと直ぐに発覚する。


黒の上下の半袖半ズボンで信介の髪には寝癖がついている。


誰が見ても今の信介はついさっき起きたばかりだと思う程だ。



「ほんの数分前に起きたよ」


「じゃあ、まだ朝ご飯も食べてないの?」


「何も口に入れてないよ」


「なら私コンビニに行って食べる物買って来ようか?」



それは流石に、とソファから立ち上がろうとする新城を信介は止めようとする。


玄関で扉を開いた時、さすが夏だなと思うほど外は暑かった。


それを帽子も被っていない新城一人に行かせるのはめんどくさがり屋の信介も罪悪感が出て来る。


それに今はあまりお腹も空いていない為無理に行かなくても良いのだが、次の新城の言葉に信介はぐうの音も出なくなる。



「だって信くんの事だからどうせ冷蔵庫の中は何も食べる物入ってないんでしょ?」


「うっ..........」


「それにコンビニとは言え、朝に何も食べないのは不健康だよ。ちゃんと三食食べないと」



毎日ではないが普段からお茶やコーヒーなどと言った飲料水で腹を満たしている信介からすれば今更な気がしないでもないのだが、不健康だと言われると自分でも自覚しているので何も言い返せない。



「じゃあ私コンビニに行ってくるから」


「ちゃんとレシートは貰っておいくれ。後でお金払うから」



それには〜いと間延びした声で返事をした新城はついさっき通った玄関を再度通ってあの地獄とも言える熱気を放っている外へと出掛けて行った。


新城の出掛けた後を見送った信介は顔を洗う為脱衣所の洗面台へ行き顔を洗い歯を磨く。


洗面台の鏡で寝癖も直しておく。


濡らした顔を引き出しにいれてあるタオルで拭き終える。


脱衣所を出て二階へ通ずる階段を上がり自分の部屋へ入る。


寝巻きとなっている上下黒の半袖半ズボンから適当にクローゼットから出した服とズボンを身に付ける。


遊ぶと約束していてもこの家でゆっくりするのか、それとも何処かへ出掛けるのか分からないが一応財布も持っておく。


スマホに財布を持ち、自分の部屋のエアコンのスイッチを切って部屋を出てリビングへ戻る。


入った途端の冷気はとても先程つけたばかりとは思えない程冷たく信介は少し肌寒さを覚える。


しかし今から自分の為に態々コンビニまで朝ご飯を買って来てくれている彼女の事を思うと信介はエアコンの操作して温度を上げようとはしなかった。


ソファへ座り彼女が帰って来るのを待つ。


待つ事数分。


ソファへ座りテレビで暇つぶしに番組を観ているとただいま!と元気な声が聞こえて来た。


そしてリビングの扉が開かれてコンビニ袋を片手に持った新城が涼しい!と言いながらリビングへ入ってきた。



「........」



そんな様子を見て信介は目をパチクリとさせながら新城を見る。


その視線に気付いた新城は信介へどうしたの?と言いながらコンビニ袋を信介へ手渡す。



「いや。何か良いなって思って」


「?」



信介の発言に理解が出来ない新城。



「ただいま!って。何か家族みたいだなと思って」


「へ!?」////////



“家族”と言う単語に新城は過剰に反応を示した。


そんな新城からコンビニ袋を受け取り中に入っている鮭おにぎりと昆布おにぎりを取り出す。


中にはレシートも入っていて後で払おうと思いながら鮭おにぎりから食べる。


口に入れて買って来てくれたおにぎりを食べるのだが、買って来た新城は固まって突っ立ったまま動かない。


どうしたの?と口に含んだものを飲み込んで聞くと「な、何でもない。気にしないで」と顔を赤くさせて言った。


どうやらかなり外が暑かったらしい。


袋の中には自分の飲み物も入ってない事から本当に自分だけの為にコンビニまで行ってくれたのだと思い、信介は新城のコップに再度麦茶を入れる。


どうぞと言うと新城は隣へ腰掛けて今更な感じでそれを飲み始めた。



「............ずるい」


「ん?」



食べかけていたおにぎりを食べていると隣からそんな声が聞こえて来た。


しかし新城の方を見ても特に何事もなく麦茶を飲んでいるので自分の聞き間違いだと思い二個目のおにぎりへ手を伸ばす。






最後まで読んでいただきありがとうございます!


毎度お馴染みではありますが、この作品を気に入ってくださった方はブックマーク、ならびに評価・感想等をよろしくお願いします!


えー、それと別ではありますが最近始めた新作の方もこれが投稿される同時刻に投稿しておりますので、気になった方はそちらの方もよろしくお願いいたします。


あと一つ、恋愛にも関わらず主人公とヒロインの甘い雰囲気などの展開が中々表現出来ず申し訳ありません。


長くなりましたが、今回読んでくれてありがとうございます!


また次回、お会いしましょう!

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[良い点] まあ、夫婦のそれw
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