第二十八話 実った想い
「あ.............」
新城への恋を自覚した次の日。
あれだけ猛威を振るった熱は嘘のように無くなり、普段通りの朝のルーティーンを終えて家を出た。
恋を自覚したのは良いのだが、人を好きになるなぞ記憶では幼稚園と数年も前の話で正直実感はない。
だが告白された上恋心を自覚した今、どのように新城と顔を合わせれば良いのか。
正解が分からないまま玄関の扉を開ける。
すると家の前で現在悩みの種である新城葵が制服姿で立っていた。
艶のある綺麗な黒髪を少し吹く風で崩れないように手で止めている姿は信介にはとても魅力的に見え扉を開けたまま見惚れてしまっていた。
新城は開く扉の音に気付き朝から見るには十分過ぎる程の優しい笑顔で「おはよう!」と朝の挨拶をする。
その一言で意識が戻った信介も「おはよう」と少し急いで返す。
恋を自覚する前にはなかった胸から来る煩い心音を無視して家の戸締まりをして新城のもとまで近く。
「アオ?何で家の前にいるの?」
「一緒に学校行こうと思って............ダメ?」
「いや..........じゃあ行こう」
ただでさえ身長差で必然的に見上げてしまうのにそれに上目遣いで懇願されては断るには断れない。
結局渋々承諾して信介は新城と共に学校へ向かう事となった。
なのだが..........
「..............」
「..............」
2人の間には変な気まずさが発生していた。
信介は新城への恋心を自覚したばかりで、しかも告白もされて新城へどのように接せれば良いのか分からない。
新城は新城で朝から家まで来ておきながら何故か顔を赤くしてチラチラと見てくるだけで話しかけてはこない。
信介はチラチラ見てくる視線に気付いているがそれでもどのように話しかけて良いのか分からない。
自覚する前は簡単に話していたのが嘘のように今は話せない。
俺恋愛に向いてないのか、と男として情けない気持ちになる。
しかし信介のこれまでの経験上このような事態は先延ばしにすると益々疲れる目に遭うのは分かりきっている。
なので決心して隣を歩く新城に口を開く。
「アオ...........」
「........ん?何?」
「あのさ............告白の件なんだけど」
「あ〜.............うん」
本当は何処かちゃんと話し合いが出来る場所で話したいが今は学校へ向かう途中で寄り道をしていれば遅刻になるかも知れない。
自分一人だけなら別に良いが相手がいる以上自分の都合で迷惑をかける訳にはいかないとこうして歩きながら話している。
新城もそれを分かってくれているからか歩く足を止めないで自分が話してくれているのを待っていてくれている。
「..................俺..........」
「..........うん」
「アオが好きだ」
「っ!........」
隣で新城の息を飲む声が聞こえた。
しかし顔は前だけを向いたまま今の想いを正直に話す。
緊張で声が震えていないかとか、バクバクと煩い心音を無視して想いのままを吐き出す。
「だからさあ.............改めてなんだけど」
「!?.......」
ここで歩く足を止めた。
新城もそれに習って少し進んだ先で足を止めて信介を方へ振り返る。
今までにない緊張だ。
人前で何かするにしても緊張するがそれ以上の生きてきた中で一番と言っても良いほどの緊張が襲ってくる。
今から自分がする事は生まれて初めて実行する事だ。
この方法が正解なのかも分からない。
だから思い切っていくしかなかった。
「新城葵さん。俺と付き合ってくれませんか」
「え............」
驚く新城に当然だなと思う。
告白した相手がその翌日になって自分に告白をしてくるのだ。
だが今までにはない男の意地と言うのが出てしまうのだ。
これまで味わった事のない感情の、気持ちの整理として想いを口にしないと落ち着かないような衝動に駆られてしまったのだ。
驚く新城の返答は直ぐにはやってこず、数秒しか経過していないのに数十分も経過していると錯覚する。
新城を見る。
そこには両眼からそれぞれ一滴の涙が頬を伝って綺麗な一直線を描いて流れていた。
だがそれが気にならない程新城は笑顔を浮かべていた。
「うん!宜しくお願いします!」
「おっ.....!」
新城は喜びのままに信介の胸へ飛び込み抱きついた。
それを非力であり病み上がりながらも何とか受け止める。
「嬉しい!信くんが言ってくれたの!夢みたい!」
「大袈裟だろ....って言いたいけど俺も夢みたい」
新城の背中に手を回し信介は引っ付く新城を包み込む。
ホッとしたのも束の間で先程の緊張感とはまた違った緊張感がある。
それに距離も今まで以上に近く抱き付くと自然と新城の髪辺りに顔がいき、女子特有なのか分からないとても良い匂いがする。
「へへへっ!頑張った甲斐があるよ」
「まさか“あの新城葵”が自分の彼女になるとは」
「何その言い方?」
「校内の男子達に拷問に合うかもな〜って」
「その時は私がいるから大丈夫!」
「ふっ、そうだな。ってそろそろ行かないと遅刻するかも」
くっついていた2人は離れて時間を確認する。
今2人がいる場所からだとギリギリ遅刻判定になる前に学校へ着きそうで2人は走って行こうとなる。
その時視界の側から手が出て来る。
見ると新城が手を差し出していた。
「ん?」
「握って!」
「.........ん」
「じゃあ行くよ!」
先程まで抱き合っていたのに手を握るだけで恥ずかしくなり少し間が出来るが信介は差し出された手の上に自分の手を重ねた。
それを握り新城は信介を引っ張るように学校へ向かって走り出した。
急展開過ぎてすみません




