第二十七話 自覚
「...................」
カチカチと壁に掛けてある時計の秒針が動く音だけが響く部屋で信介はベットの上で横になっていた。
私信くんの事が好きなの
その一言を言って新城は急ぐ様に帰って行った。
帰り際、部屋から出て行く際に
「返事は直ぐじゃなくて良いから」
とこれまで関わって来た中で一番の笑顔で言い部屋を出て行った。
突然の新城の告白に驚きと熱による体調の悪さから上手く言葉が出てこなかった信介は新城が出て行くのを黙って見届ける事しか出来ず、新城が家から出て行ってから3時間程経った午後8時の現在は冷静に状況を考えるまで回復していた。
部屋は電気類は一切つけられていなく闇と呼ぶに相応しいまでに至っていた。
それでも部屋の主である信介の心は様々な考えで闇と言う静寂を思わせる言葉に似つかわしくない程騒がしくなっていた。
ーーーー何故自分なんかを
浮かび上がるのはその事ばかりだ。
勿論告白自体は最初の方こそ驚いて何も言えなかったが新城が帰った後は今まで味わった事のない幸福感が襲って来た。
告白された事のない信介が、異性からそれも校内の有名人である新城葵に告白された事は嬉しくない筈が無かった。
だがそれと同時に何故自分がそんな人物から告白されたのか見当がつかない。
「.................」
目を瞑り改めて思い返してみる。
新城とは高校の入学式の日に出会った。
新しく変わる生活に不安と期待を胸にこれから3年間歩いて行く道を真新しい制服を着て歩いていると、道端に同じ高校の女子の制服を着た1人の女の子が伏せて(しゃがんで)いた。
そもそもあの時取った行動だって後から振り返れば不自然だった。
極力自分から人と関わろうとしないのにあの時だけは何の躊躇もなく自然とその女の子に声を掛けていた。
柄にも無く体力が無いのに女の子1人をおぶって学校まで行き、入学式には間に合った。
式の最中も女の子の事を考えていた。
また会えるかな?などと式が終わった後、1年間お世話になる担任の案内のもと式の会場となった体育館から出て教室に行く際もチラチラとその女の子を探していたと自覚する。
結局その日は会えなくてちょっぴり残念ではあったが、その時点で女の子との関係は無くなったと心の何処かで分かっていた。
それでもまだ深く関わりが無かった分翌朝になればその女の子の事は考えないで済んだ。
変わり(代わり)に少し風邪の症状が出ていたが。
この日を今でも鮮明に覚えているというのはこの日がとても印象深くなったからだろう。
現在の自分の体調と少し似て身体の怠さがありながらその日の学校の日程全てを終えて帰ろうとしていた所放送で自分の名前が呼ばれた。
入学した次の日に早速校内放送で呼ばれたので少し怖かったのも良く覚えている。
マスクで顔が隠れ表情を悟らされていなかったがマスクの下では緊張した顔立ちをしていた筈だ。
呼ばれた通り職員室に行くと放送で聞いた声と同じ声の女の先生が呼んでいるので近くへ行く。
そして急に先生の近くにいた1人の女子生徒が頭を下げてお礼の言葉を述べた。
その時初めて昨日助けた女の子だと分かり、更にその女の子が今まで見て来た同年代の女の子よりも数段上のレベルに位置する程の美少女だと驚いたものだ。
そこから何故か一緒に途中まで帰る事になりその時に互いの連絡先を交換。
時々であった連絡は次第に数を増し、今では完全に1日の終わり、寝る前は必ず連絡を取っている状況にまで発展していた。
2年になり、スマホを通しての関係が一気に変わり直接話す様になった。
それ繋がりで友達の近藤の彼女である宮野と1年の頃からの付き合いである中条と良い友人関係を築けている。
新城とは以前のような少し距離のある関係ではなくなり、2人で駅前の大型商業施設へ行き、放課後も時々一緒に帰るようにもなっていた。
そのような表面上の関係ともう一つ変わった事と言えば新城への印象だった。
スマホで連絡を通っているだけの時はクラスが違うので特に直接的な接点はなかったのだが新城の噂は耳に入っていた。
“成績は優秀で運動も出来る。それに加え誰にでも優しく男女から愛される完璧な存在。校内で1番人気の女子であり告白された数も多く学年を問わない人気”だとか。
その存在とこうして夜な夜な連絡を取り合って良いものか、噂と違って文字面では普通の女の子と言った印象だった。
だが、直接関わり印象は、今では噂を聞いていた時の“高嶺の花”と言うイメージではなくなった。
そして気付いた。
今1番仲の良い異性の存在は新城だと。
仲の良い女友達と聞かれれば新城と答える。
それにふと思い出すと自然と新城の顔を思い出していた。
そこで信介はある時近藤と木村の2人と恋話をした時の会話を思い出す。
ーー好きってどうやって自覚するものなの?
ーーそんなの簡単!相手と話す時緊張したり、廊下で会えば自然とその相手を目でおったり、ぼーっとしてる時に相手の事を考えたりしたらだ。それは相手を好きになったと言っても良いだろ!
ーーその他は?
ーーあとは相手と一緒にいて落ち着くとか?
その時は黙って近藤の恋への熱弁を他人事だと思い黙って聞いているだけだったのだが、近藤の言っていた相手を好きになっていると思われる条件に合致していると。
暗い部屋の中でバッ!とベットから上半身を起こし呟く
「........俺......アオの事が好きなのか.....」
無意識に感じていた感情を口にした信介の顔は穏やかであり、自覚したからこそ告白された時の喜びを再度噛み締める。




