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第二十話 波乱の幕開け


試験明けの最初の登校日である月曜日。


この日から各教科担当の先生達が1人1人の試験を採点したものを続々と返してくる。


それを受け取り席の近い人や仲の良い友人達と「お前何点だった?」「俺の方が高い!」と言い合うのは学生なら誰もが通って来た道であろう。


しかし試験に自信の無い者にとってはその日1日はまさに恐怖でしかない。


家からコンビニへ昼食を買い、そこからいつもと変わらない通学路を歩く信介もその中の1人だ。



「はあ..........」



溜め息をつき暗い気持ちで歩く信介とは反対的に今宵の天気は快晴で、信介の暗い気持ちを吹き飛ばさんと言える程雲一つない。


しかしそんな天気で元気が出る程信介は幼くない。


もう既に先生の手により採点が終わったものに今更どうこうしてもどうしようもないのは分かっているのだがそれでも再度も溜め息をつきたくなる。



(今日返されるのは地理に英語関係の3つ。地理は赤点が無い自信があるけど、それでも英語はほぼ勘に近い形で解答欄を埋めたからな。勉強はしたけどやっぱり赤点かも.................)



今日返ってくる試験の教科を考えると益々嫌な気持ちになる。


もし点数が30点無ければ放課後居残りの追試、或いは追試免除の特別課題をやらなければならず、どちらも信介は回避したいところ。


かつて1年の最後、3学期の学年末試験で赤点を取りその時は2つの教科共追試と言う形だったがどちらも追試前の休みに猛勉強した事が信介の脳裏に過ぎる。


あれだけは何としても回避するのだと意気込むと、途中から同じ高校の制服を着た女の子2、3人のグループが道路を挟んでの反対側の歩道を話しながら歩いているのが見えた。


2クラスで構成されている2学年の名前は分からない人もいるがある程度顔までは覚えている信介はその女の子達が先輩又は後輩だと分かる。


信介は中学では部活に入らなければならなかった為仕方なくソフトテニス部に3年間入っていたが、高校では部活への強制が無い為無所属の帰宅部なのだ。


なので部活動特有の他学年との関わりも部活に入っている友達よりも断然低く名前も知らない。


良く問題を起こす生徒などは問題児として名前を聞くが顔は分からないと言う曖昧な物。


なので仲睦まじく横に並んでいるあの女子グループは誰一人知らない。


道路を挟んで向こう側で歩いているので、信介は気にせず自分の歩くペースを緩めずに学校へ向かった。


学校へ近づく度どんどん自分と同じ制服を着た人達が多く見られる。


そして学校の姿が見え、校門を通り生徒玄関へと向かい2学年の自分の靴箱を開ける。



「ん?」



信介はいつも通り靴箱を開けて中に入っている校内シューズに履き替えようとする。


しかしそのいつもの流れが今回は違った。


靴箱を開けると何かが開けた拍子に出て来たのだ。


それは四角く折られている紙で、外見上では信介にはその出て来た物は手紙に見えた。


それを恐る恐る拾う。



「................名前無し」



拾ったそれは間違いなく手紙だった。


しかし表と裏を確認してもそこには手紙に使われた紙本来の白色だけで、この手紙を書いた人の名前は書かれていなかった。


これはつまり差出人不明の手紙。


一瞬“ラブレター”なる物を想像してみたが、仮にそれがこれだとしても差し出し人の名前も無いとなると違う意味でのドキドキを感じる。


取り敢えずここでずっと立っているのも怪しいと思い、不気味な手紙を制服ポケットに入れ学校指定の靴から2学年と分かる青色のラインが入ったシューズに履き替える。


階段を上がり3階にある2-Aと書かれた教室へ入る。


扉を閉めて自分の席へ行こうと歩こうとする。


しかし教室に入る前に聞こえて来たクラスメイトの声が聞こえなくなった事に気付く。


そしてそれと同時に日頃から仲の良いクラスメイト達の視線が自分に集まっている事にも気付く。



「..........あ?俺何かやった?」



視線の集中具合に歩みを止め信介は自分を見ているクラスメイトに聴こえる声で尋ねる。


それははっきりと信介を見ていたクラスメイト達に届いた。


しかし、信介の聞いたことには誰も答えようとせず逆に視線を信介から外し、信介が教室に入る前の賑わいに戻った。


そんなクラスメイト達の変な行動に不審がりながら信介は自分の席へ向かう。



「おはよ信」


「おはよ。なあ俺何かやった?」



リュックを自分の机に置きながら信介は既に来ていた隣の木村に先程のクラスメイト達の奇妙な行動を尋ねる。


「ん〜?」と気怠げな感じな木村。



「信が来る前って数分ぐらい前だけど皆んなが何か「信と新城さんってどう言う関係なの?」「あの2人ってもしかしてそういう関係なのか!?」とか色々騒ぎになってたよ」



木村が口にしたのはクラスメイト達が信介と新城の関係性を気にしていると言う内容だった。



(....................あれか?)



これには信介は少し心当たりがあった。


それは試験最終日の時。


あの時は木村も近藤も先に帰ったので知らないが、木村が先に帰りその数分後に信介も帰ろうとした時にこの教室に新城がやって来たのだ。


その時、教室内には試験明けの部活再開で何かしらの部活に入っている信介のクラスメイトが多数居た。


そしてそんな大勢のクラスメイト達の前で新城は信介に「一緒に帰らない?」と誘い、信介はこれを受け一緒に帰る事になったのだ。


なのだが、ここは信介も考えが及ばなかった。


確かにあの時新城と一緒に帰る事になり視界の映っていたクラスメイト達が騒いでいたのを信介は気付いていた。


しかしその騒ぎもどうせ来週になれば綺麗さっぱり消えると心のどこかで思っていたのだ。


なのだが、騒ぎの中心にいる新城葵という人物の影響力が信介の思っていたよりも高かった。


おそらく新城葵でなければここまで騒ぎは長続きしなかったのだ。


これには流石と言うことしか信介には出来なかった。


クラスメイト達の自分を見る目がいつもより違う理由が分かった信介は脱力気味に席に座る。


そんな信介を隣の席の木村は「何か分かったの?」と気怠げさを隠さずに言う。



「何となくね」


「ほ〜」


「よ〜有名人」



そんな2人の背後から近藤祐樹が楽しそうにやって来た。



「楽しそうだね祐樹は」


「そりゃな!俺学校に来てから他の奴等に色々聞かれたぜ!」


「何て?」


「「お前信といつも一緒だよな!?頼む!信と我等がアイドル新城葵との関係を教えてくれ!!」って」


「それで、お前は何て答えたんだよ」


「知らないって答えといたよ。友達でも良かったけど俺の口から言ってもどうせ信じやしねえよ」



近藤の友達想いな所に信介は自然と口が緩む。



「.............さてと」



しかし信介にはまだ問題があった。


机に置いたリュックを机の横のフックに掛け開ける。


そして筆記用具を出し、信介が次に出したのは自分の靴箱に入れあった匿名の手紙。


信介は再度手紙の表裏を確認するが、やはり何処にも手紙を書いた人物の名前は書かれていなかった。



「ん?何だそれ」


「手紙.....それどうしたの?」



信介の持つ手紙の存在に気付いた近藤と木村は不思議に思う。



「何か靴箱の中に入ってた」


「それってもしや、ラブレターなんじゃ........」


「そんなの今時やる人いるの?信、誰から?」


「いや、名前が無いんだよ。ちょっと今から開けてみる」



よくよく見ればちゃんとした手紙入れになっていて、開けると中にもう1枚2つ折りの紙があった。


裏からでも薄っすらとでも字らしきものが書かれているのが信介にうつる。


折られている紙を慎重に開ける。


手紙が余程気になるのか近藤と隣の席にも関わらず立って手紙の内容が見える位置に移動する木村。


少し恐怖心のある信介とは反対に2人の表情は面白いもの見たさで手紙が気になると言う顔だ。


そしていよいよ信介が手紙を開いた。



「..............これって」


「........ん?」


「読み難い」



しかし手紙の内容を読んだ2人の表情は先程までのものと別物となった。


信介、そして手紙の内容を一緒に確認した近藤と木村の顔は全員一致で困惑だった。








『イマスグシンジョウアオイカラハナレロ』



手紙には全文字がカタカナで読み難い、そんな内容が書かれていた。


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